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第74話 ウザい


 日が沈むギリギリで王都ギルドに戻り、依頼達成の報告をした。


 王都は暗くなっても道を照らすために、道のいろんなところに魔道具で出来た照明がある。

 前世でもそういうのが立っていたから僕は驚かなかったけど、シエルは少し驚いていた。


 ギルドでアリシアが蜘蛛の素材を渡し報告をしているが、その間僕は……。


「はぁ……数時間ぶりの、もふもふ」

「キョー……」


 アイリさんにもふもふされていた。


「あのアイリが、こんな風になって……」

「マリーさん、大丈夫ですか?」

「あんたの魔獣のせいよ! どう責任取るのよ!」

「えっ、ええっ!?」


 シエルがよくわからない濡れ衣を着せられている。


 マリーさんとアイリさんはギルド長との話を終えてから、ずっとここに残っていたらしい。

 そのあと、簡単な依頼なら夜までに帰ってこれると思い、マリーさんが行こうと誘ったようだが、アイリさんは断固拒否。


 理由を聞くと、僕と早く会いたいからギルドを離れたくない、とのこと。

 依頼に行ってしまうとすれ違いになってしまって、会うのが遅くなってしまうと思ったようだ。


 どれだけマリーさんが誘ってもアイリさんは頑なに動かなくて、そのままずっとここに二人でいたらしい。


 そして僕たちがギルドに戻ってくると、アイリさんはすぐにシエルの肩から僕を奪ってもふもふし始めた。


 それを見てマリーさんが、「昔のアイリはこんなんじゃなかった……」と落ち込んでいるのだ。


「もっとカッコよくて、セクシーで、美しくて、強かったのに……」

「アイリさんは今も変わってないと思いますよ?」

「あれのどこを見てそう言えるのよ!」


 マリーさんが僕を抱えているアイリさんを勢いよく指差す。


「めちゃくちゃ可愛いじゃない!」

「……か、可愛い?」

「そうよ! 何年もアイリを見てきたけど、あんな可愛い姿見たことないわ!」

「何年も、見てきた? そ、そうなんですか?」

「私ですら、アイリのあんな可愛い姿見たことなかったのに……! それをあの魔獣が全部やっていると思うと、腹が立つのよ!」


 ……よくわからない怒り方で、僕もシエルも驚いている。


 つまり、どういうこと?

 アイリさんの堕落したような姿に落ち込んでるわけじゃなくて、その可愛い姿を今まで見れなかったことを逆恨みしているってこと?


「言い忘れてたっすけど、マリーちゃんって姉貴のめちゃくちゃファンなんすよ」

「あっ、そうなんだ」

「もう本当、気持ち悪いくらいっす」

「気持ち悪いってなによ!」


 マリーさんが反論しようとするが、アリシアは続ける。


「だってそうじゃないっすか。S級になるまでは『私はアイリ様と対等じゃないから話しかけられない』とか言って、全く話しかけなかったのに、なった途端に関わり始めて」

「そ、それは私がアイリとふさわしいぐらいに強くなったから……!」

「しかも今まではずっと様付けで敬語で話してたのに、いきなり呼び捨てでタメ口っすよね」

「私だっていつもドキドキよ! だけどアイリがそれでいいって言うから!」


 そう言ってからマリーさんは、僕を抱えているアイリさんの方を不安げな顔で振り向いて。


「そ、その、アイリ様、私は敬語じゃなくて、様付けしなくてもよろしいんですよね?」

「……いい」

「あ、ありがとうございます! ほら、アイリがいいって言うから!」


 すぐにまた振り向いて、アリシアにそう言ったが……。


「……どうでも」


 アイリさんの今の言葉は、僕にしか聞こえなかったみたいだ。

 うん、マリーさんに聞こえなくて良かったと思う。


「まあ姉貴がいいならいいっすけど……ずっと見てたあたしからすると、マジでうざいっす」

「なんでよ!」

「それがわからないからマリーちゃんなんすよね……」

「どういう意味よそれ!」


 マリーさんは怒ってそう言うが、アリシアはため息をつく。


 自分の友達が、尊敬している人と対等になった瞬間に、タメ口をし始める……。

 確かにウザいかも。

 普通だったら敬語で話せばいいのにね。


 僕からすれば、シエルがS級になった途端にアイリさんにタメ口を……。


『アイリー、買い物行こうー。同じS級でしょ?』


 うわぁ、ダメだ。

 想像すると、なんか僕が恥ずかしくなってくる。


 アリシアの気持ちがちょっとわかったかもしれない。


「それにシエルちゃん、前に姉貴の屋敷の周りが更地になった話したじゃないっすか?」

「うん、確か熱烈のファンの人が叫んでたから、寝ぼけたアイリさんが魔法で更地にしちゃったって……えっ、もしかして?」


 シエルは話している途中に何か気づいたようで、おそるおそるマリーさんを見る。

 まさか……。


「そうっす、そのファンがこのバカマリーちゃんっす」

「バカマリーってなによ!」

「うわぁ……」

「キョー……」


 僕もシエルと同じく、「うわぁ……」と言ってしまった。


 まさかあの話のファンが、マリーさんだったなんて。


「だけどあれはすごかったわね。私がA級ぐらいの実力じゃなかったら、防御しきれずに死んでたわ……はぁ、今思い出しても良かったわ……」

「なにが良かったんすか、めっちゃ死にかけてたくせに」

「ふっ、あんたもまだまだね。アイリのあれだけの攻撃を受けた人は、この世で私だけ! アイリは力加減が得意だから、あれだけ暴走したものを受けたのは私だけよ。すごいでしょ?」

「全くすごくなくて、逆にすごいっす」


 まさかマリーさんがこんなに変態だったなんて……。

 なんかよくわからない方向で変態だ。


 

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