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第73話 黒雲病


「シエルちゃん、そっち行ったっすよ!」

「いやー! やめて、来ないでっ! キョースケ助けて!」


 シエルは涙目になりながら、魔物から逃げている。


 ここは街から少し離れた洞窟のようなところ。

 その中にはいっぱいその魔物がいて、その内の一匹が巣から出てきてシエルを追っている。


「こいつらそこまで強くないっすから、シエルちゃんの魔法なら一発っすよ!」

「いやぁぁぁ!」


 ここに来るまで僕はシエルの肩に乗っていたんだけど、あれだけ激しく動くとずっと肩に掴まっているのは無理だから飛んでいる。


 あんなにシエルが必死に逃げている魔物とは……。


「気持ち悪い! 無理無理!」

「ただのでっかい蜘蛛っすよ!」

「蜘蛛苦手なのっ! しかも自分より大きい蜘蛛とか聞いてない!」


 そう、蜘蛛。

 空に浮かんでいる雲ではなく、足が八本ある方の蜘蛛。


 魔物にも色々いるみたいで、こういう虫の魔物もいるみたいだ。


 しかもでかい。

 僕はもちろん、シエルやアリシアよりもでかい。


 色もなんか黄色とか赤色とかが混ざっていて、なんか気持ち悪い。

 よーく見れば意外と鮮やかで綺麗なんだけど、デカイ蜘蛛がそんな色をしているというだけで気色悪い。


 今回の依頼は、この蜘蛛の素材集めのようだ。


「キョースケ、助けてってば!」

「キョ、キョー」


 わ、わかったよ。

 今までにない必死な形相で頼まれて、僕は空中からシエルを追いかけている蜘蛛に炎を放つ。


 必要になる素材は足の爪、ということなので、身体を炎の槍で貫いて倒す。

 残ったのは足だけで、頭や胴体は完全に消滅した。


「はぁ、はぁ……もうやだぁ……」


 シエルは膝に手をついて息を整えている。

 いまだに涙目で、チラッと蜘蛛の足を見て「ひっ!」と言った。


「いやー、まさかシエルちゃんが蜘蛛嫌いだったとは思わなかったすよ」

「逆になんであんなにデカくて気持ち悪いのを、アリシアが平気なのか疑問だよ……」


 五匹ほど一人で狩っているアリシア。


 しかもアリシアは僕のように遠くから攻撃するんじゃなくて、至近距離でナイフを振るって戦う。

 体液とかは上手く躱しているようだけど、デカイ蜘蛛に対して怯みもせず挑めるのはすごい。


 僕も近くでは戦いたくない。


「別に気持ち悪いとは思わないっすね。この蜘蛛、色合いとか可愛くないっすか?」

「それはない!」


 うーん、僕もそれはないかなぁ。


 ……なんかアリシアに今後「可愛い」と言われるのが嫌になってくるな。

 この蜘蛛と同じと思われるのは、さすがにね。


「これ、あと何匹倒さないといけないの?」

「あと十匹以上っすね」

「……もうやだぁ」


 その後、めちゃくちゃ蜘蛛を狩った。



「ごめんね、私役立たずで……」


 蜘蛛と戦い終わり街に戻る最中、シエルが落ち込みながら言った。


 僕とアリシアは順調に蜘蛛を倒していったのだが、シエルは最後まで一匹も倒せなかった。

 あれだけ心が乱れたら集中力が無くなり、魔法が発動できなくなってしまう。


 だからシエルはずっと逃げて、隠れて……をしている間に、依頼達成の数を倒した。


「仕方ないっすよ。誰でも苦手なものはあるっすから」

「キョー」


 そうだよ、次頑張ろう。


「うん……ああ、もう蜘蛛は本当にやだ、思い出して鳥肌が立っちゃう……」


 僕はいつも鳥肌だけどね。

 ……声に出して言わなくてよかった。

 アリシアには聞こえなくても、シエルには聞こえちゃうから。


「あはは! 魔獣で鳥のキョースケだけに、っすか!」


 と思ってたら、まさかアリシアが言ってしまった。


「……えっ? あっ、そ、そうだね」


 最初は意味がわからなかったシエルだが、気づいてから引きつり気味に笑った。


「……なんかすいませんっす」

「う、うん……」


 やめて、なんか思いついた僕にもダメージが来るから……。


「そ、そういえばあの蜘蛛の爪って、何の薬になるの?」


 話を変えようと、シエルは持っている袋を見ながら言った。

 その中には何十個もの蜘蛛の爪が入っている。


「ああ、『黒雲病』っすね」

「えっ、そうだったんだ」

「大事な薬の素材っすから、魔物が少し弱くてもA級ぐらい強い人が確実に取らないといけないって感じっすね」


 なんだ、『黒雲病』って?


「キョー?」

「ああ、キョースケには教えてなかったね」


 シエルに問いかけると、詳しく説明してくれる。


「名前の通り、あの黒雲が原因でかかると言われてる病気。症状は皮膚がどんどん黒くなっていって、その部分は細胞が壊死して動かなくなっちゃうの。それで進行が酷くなっていくと、最悪亡くなるほどの病気なんだ」


 身体がどんどん黒くなって、死んじゃう病気……。

 結構ヤバい病気なんだね。


「感染経路とかもまだ詳しくわかってないみたいで、いきなり発症することが多いみたい」

「しかもまだ薬も完璧には出来上がってなくて、この蜘蛛の爪で作る薬は病気の進行を遅らせるぐらいの効果しかないみたいっすよ」


 そうなんだ……。

 黒雲の影響で魔物が凶暴になってるってのは聞いたことあるけど、まさか人間にもそういう病気を与えるなんて……。


「キョー」


 その病気を失くすために、早く黒雲を消さないといけないね。


「うん、そうだね」


 シエルと僕はそう言って頷き合った。


 

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