第71話 ふさわしい?
近づいてくる女性は黒いマントを着ていて、いかにも魔法使いっぽい。
髪は銀色でポニーテルにして、それでも腰くらいまで伸びている。
というか銀色の髪って、すごいな……キラキラしてるよ。
顔立ちは整っていて可愛い気がするんだけど、眉を寄せて怒っているようでちょっと怖い。
「ちょっとアイリ! あんた一体どこに行ってたのよ!」
近くまで寄ってきたその人が、アイリさんと顔と顔がくっつきそうなぐらいの距離でそう言った。
「近い、キモい」
「なっ! キモいって何よ! 私は可愛いわよ!」
「自分で言うあたりキモい」
「そ、そんなことないわ! 自負しているだけよ!」
アイリさんがめんどくさそうに対応しているのを見ると、どうやらそんなに仲良いわけじゃなさそうだ。
どっちかというと、相手の方が一方的に絡みにきてる感じかな?
「というかこの人形なによ、あんたそんな趣味あったの?」
「人形じゃない、キョースケ」
「人形に名前つけてんの? 変な趣味ね」
「人形じゃない、もふもふ」
「はぁ? もふもふなら人形じゃない」
アイリさんが抱えている僕を人形と勘違いしているようだ。
というかアイリさん、もう少ししっかり否定してほしい。
しょうがないから、自分で鳴いてみる。
「キョー」
「うえっ!? な、なにこの人形、声出るの!?」
まだ生き物だって信じてないみたいだ。
しょうがないからアイリさんの腕から抜け出し、飛んでみる。
「キョー」
「と、飛んだ!? いやちょっと待って、今アイリの腕から抜けるとき炎になってなかった!?」
なんか良い反応をしてくれるなぁ。
面白い人だ。
「な、なんなのこの生き物? 魔物? あんた魔物飼い始めたの?」
「私じゃないけど」
「その、私の魔獣です」
二人の後ろから、シエルが話しかけてくる。
僕はシエルの肩に降り立つ。
「あんた何?」
「シエル・クルームです」
「そういうことを聞いたんじゃないんだけど……まあいいわ」
彼女は動揺したときに乱れた銀髪を手でサラッと後ろに流した。
「私はマリーよ。あんた冒険者よね? ランクは?」
「B級ですけど……」
「へー、まあまあね。だけどS級の私やアイリには遠く及ばないわ」
えっ!? この人、マリーさんS級冒険者なの!?
「えっ!? S級、冒険者の方なんですか……?」
「冒険者なのに私のこと知らないの? どこの田舎で冒険者をやっていたのかしら?」
「す、すいません……」
な、なんかすごい偉そうだ……いや、実際S級冒険者だから偉いんだろうけど。
「知らなくて当然だと思うっすよ。マリーちゃんは最近S級冒険者になったばかりで、ほんの一ヶ月前まではA級だったすから」
「ちょっとアリシア! 余計なこと言わないで! それに私はあんたよりランクが上なんだから、敬語を使いなさいよ!」
「いやー、昔からの知り合いに今更敬語を使うなんて無理っすよ。というか誰に対しても私は敬語みたいなもんすよ?」
「それを敬語とは呼ばないわよ! せめて『ちゃん』付けはやめなさい!」
「無理っす!」
「無駄に良い笑顔で即答するな!」
お、おお、いきなり漫才が始まったから呆然としてしまった。
どうやらアリシアとも知り合いのようだ。
「というかあんた、さっきの質問にまだ答えてないわよ」
「えっ、私ですか?」
マリーさんはシエルにまた目線を合わせ、問いかけてきた。
「あんたはアイリの何なのよ?」
「えっ、アイリさんの……何か、ですか?」
「そうよ、最初からそう聞いてるわ」
そう聞いてたんだ、僕にはわからなかったけど。
「私はアイリさんの……弟子、とかですかね?」
まあ魔法を教わっているから、それに近い気がする。
「えー、友達じゃないっすかー?」
アリシアが横からそう言ってきた。
まあそれでもいいと思うけど……なんでアリシアはニヤニヤしながら言ったのだろうか?
「なっ! そんなのダメよ! B級冒険者ごときがアイリの友達なんか、ふさわしくないわ!」
「別に友達にふさわしいとかないと思うっすけどー」
「あるわよ! 強い者は強い者と付き合っていかないと、堕落してしまうわ! だからB級冒険者がアイリの友達なんて、絶対にダメよ!」
「はぁ、マリーちゃんは相変わらずめんどくさい考え方してるっすね。だから友達が一人もできないんすよ」
「そ、そんなことないわ! 一人ぐらいいるわよ!」
「へー、誰っすか?」
「え、えっと……アリシア、とか?」
「えー、あたしA級だからS級のマリー様とは釣り合わないっすよー」
「くっ……!」
アリシアの最後のニヤつきながら放った言葉に、何も言えなくなってしまったマリーさん。
結構からかわれるような立場の人なんだなぁ。
そして友達がいない……。
いや、僕も前世の頃は友達いなかったから、人のこと言えないんだけどね?
病院にずっといて同年代の人たちと遊べなかったから、仕方ないとは思うんだけど……。
マリーさんがからかわれると同時に、僕も少しダメージを受けてしまった。