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第69話 水が


 僕の目の前が、青色に染まった。


 いや、水色……というか普通に水魔法か!


 水魔法というより、水が僕は弱点だ。

 前に実験したら、唯一僕にダメージを与えられる攻撃だということがわかった。

 家の蛇口から出る水を触ったら、僕の魔力は減っていった。


 しかも普通の攻撃なら僕は意識しないでも魔力が残っている限り、勝手に身体が炎になって回避できるのだが、水はそれができない。

 実体として捉えられ、水に触れるだけで魔力が減っていく。

 痛いわけじゃないからいいけど、魔力が完全に無くなったら多分僕は死んでしまう。


 僕が意識して炎になれば避けられることもないんだけど、これは無理だろう。


 結構なスピードを出していたので止まることはできず、ここまで引きつけられたら避けられない。

 シエルが意図したわけではないと思うけど目隠しになってしまって、対応が遅れてしまった。



 避けられないんだったら……この攻撃を、破ればいい。


 炎を身体に纏い、それを高速に回転させる。

 自分も回転し、自らを槍のようにして女の水魔法の突破を狙う。


 そして、衝突――。


 くっ、さすがにキツい……。

 これほどの水魔法を正面から受けたことはないけど、予想以上に魔力を消費していく。


 だけどこの女は魔法は上手いが、威力が強いわけじゃない。

 おそらく風魔法が一番得意なんだろうけど、アイリさんの方が威力は上だ。


 水魔法も使えるみたいだけど、風魔法ほどではない。


 数秒間、水の中を回転しながら進み続け、突破した。


 このままあの女を貫いてやろうか、と思ったけど、そう簡単にはいかない。

 水の中から出たら、目の前にあの女がいなかった。


 周りを見渡すと、シエルの隣に立っていた。


 シエルを泣かしたくせに、なんでお前はそこにいるんだ……!


 そう思ってまた炎を纏って突撃しようとしたが。


「待ってキョースケ! 話を聞いて!」


 シエルがまたあの女を庇うように前に出た。


「キョー!」


 シエルどいて!

 そいつを倒せない!


「キョースケが私のために怒ってくれてるのはわかるけど、誤解なんだって!」

「キョ……?」


 誤解って?

 なんか言われて泣いたんじゃないの?


「うっ、それはそうなんだけど、あれは私が情けないからで……」


 その後、シエルにめちゃめちゃ説明された。



「キョー!」


 すいませんでしたぁ!


 僕は土下座をしていた。

 鳥だから多分人とは違う形になっているだろうが、僕にとってはほぼ土下座だ。

 寝下座と言っていいかもしれない。


 僕の勘違いでヘレナさんに攻撃を仕掛けてしまった。

 心の中ではずっと「この女」扱いだったし。


「その、すごい謝ってます……」

「はい、見ればなんとなくわかります」


 僕の体勢の意味を苦笑いで説明してくれるシエル。

 無表情で僕を見下ろしてくるヘレナさん。


「いやー、いきなりヘレナちゃんに突撃していくからビックリしたっすよ」

「……ちょっと熱かった」


 アイリさんとアリシアは戦いが終わったので、近くまできていた。


 いや、すいませんアイリさん。

 腕から抜け出すときはちょっと冷静じゃなかったので、そこまで気が回ってなかったです。


 あとでいっぱいもふもふさせてあげますから。

 僕が許可しても、しなくても、勝手にすると思うけど。


 それよりも今はヘレナさんだ。

 シエルのために戦ってくれた彼女に、相棒の僕が仇で返してしまった。


「大丈夫です。ほとんど無傷で済みましたから」


 ヘレナさんはそう言ってくれるが、僕の気持ちはあまり晴れない。


 不意打ちから始まり、ずっと本気で倒す……いや、殺すつもりで攻撃していた。

 万が一ヘレナさんが上手く避けたり防いでなかったら、本当に死んでいたかもしれない。


「すいませんでしたヘレナさん。キョースケの勘違いで」

「キョー……」

「だから大丈夫ですよ。そう何度も言わせないでください」


 ヘレナさんは本気で気にしてないようだ。

 これ以上謝っても逆に気を悪くさせてしまうだけだ。


 いつかこの借りはお返ししたい……。


「それに私こそ、シエル様に酷いことを言ってしまったので、申し訳ありません」

「あ、いえ、それは違いますよ! 私が望んだことですし、ヘレナさんが言ったことは正論でしたから」


 さっき説明を受けたときに、ヘレナさんがシエルに言った言葉を聞いた。


 僕の魔力をもらってそれを使ってるだけで、シエル自身が強くなったというわけじゃないということ。


 魔力の質とか契約してどれだけ魔力が譲渡したのか詳しくわからないから、僕もシエルも反論できない。

 もしかしたら本当にそうなのかもしれない。


 だけどシエルが全く努力してない、と言われるのは不愉快だ。


 僕は知っているから。

 A級冒険者になるためにずっと訓練をしてきたシエルを。


 アイリさんと出会って、格上相手とずっと戦っていたシエルを。


「あの、ヘレナさん! 私に、魔法を教えてくれませんか!?」


 シエルのいきなりの発言に、ヘレナさんや他の二人は驚いていた。

 だけど僕は驚かない。


 シエルなら、そうすると思っていたから。


 自分の弱さを認めて、それでも強くなろうとするシエルを……僕は尊敬する。


「私の訓練は、厳しいですよ。アリシア様が逃げ出すほどです」

「いやー、それは言わないでほしいっす……」


 居心地が悪そうに苦笑いするアリシア。


「覚悟の上です!」

「……わかりました。手加減はしませんよ」

「はい! ありがとうございます!」


 こうして、突如始まった戦いは終わった。


 ……なんでいきなり初対面で戦い始めたんだっけ?


 ああ、そうだ、ヘレナさんが僕のことを可愛くないと言って、それでアイリさんが怒ったからだ。


 よくわからない始まり方だったなぁ……。



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