表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/160

第68話 怒り


 ヘレナさんとシエルの戦いは、シエルの魔力がほとんど無くなって、終わりを迎えていた。


「いやー、最初の攻撃は良かったすけどね」

「あれは初見だと躱しづらい。私も完璧には見切れなかった」

「ヘレナちゃんは見破ったっぽいすけどね」


 最初の攻撃以外は、ほとんどアイリさんの戦いと内容は変わらない。

 風魔法VS風魔法が、風魔法VS炎魔法になっただけだった。


 アイリさんとシエルの実力差は結構離れてるのに、何も対応を変えずに圧勝するヘレナさんは本当に強い。


 魔法の弱点を突いて打ち消す。

 さすがに僕もできない。

 僕も結構力押しが多いからね。


 戦いは終わった様子だが、ヘレナさんとシエルは何か話している。


 僕は視力は良いけど、聴力はおそらく人と変わらない。

 口元が動いているから、何か喋っているんだろうけど……何を話しているんだろう?


「アドバイスでもしてるんすかね?」

「さあ、知らない」


 僕をもふもふしながらアイリさんは素っ気なく答えた。


 普通にわからないんだろうけど、もふもふを邪魔されたくないというのが本心だと思う。


 アイリさんはシエルの最初の攻撃を見てから、その後の攻防は全く見ずに僕をもふもふしていた。

 もう何もならないと思ったのかもしれない。


 アイリさんの腕の中から、いまだに話している二人の様子を伺う。



 シエルの目元に、何かが光った。


 ――はっ?

 それが涙だと認識した瞬間――僕は炎になっていた。


「あっ……」


 後ろでアイリさんがそう呟いたのが聞こえたが、その声を置き去りに翔ける。


 ――シエルを泣かした、あの女に。


 最高速で飛行し、脚の鉤爪で胴体めがけて体当たりをしにいく。


 直前で女が気づき、咄嗟に僕に風を当ててくる。

 それに負けるほど遅いスピードではなく、鉤爪を身体に突き立てるように吹き飛ばした。


 僕は女がいた場所に留まり、女は数メートル吹っ飛び地面に転がったがすぐに立ち上がる。


 女の腹から血が出ているが、傷は浅い。

 スピードが少し落ちたせいと、何か腹を蹴ったときに違和感を感じたから、風の盾でも作ったのか。


 この感情は、怒りだ。


 初めて心の底から溢れ出す、怒りの感情。

 僕はこの感情の収め方を知らない。


 ここまで怒りに満ちたことなどないのだから。


 僕がこの世界で一番大切に思っているシエルを。

 泣かした、この女が。


 そう思ったら、もっと怒りの炎が燃え上がる。


 それを抑えられずに、身体から炎を吹き出し全力で女に放つ。

 何の小細工もしない、ただの炎の塊だ。


 だがその規模はあのドラゴンすら包み込んだ大きさだ、消せれるものなら消してみろ。


 炎を放った瞬間に小さな女は見えなくなった。

 しかし――炎の塊は下の方に小さな穴が空き、そこから女が出てきた。


 飛ぶようにしてその穴に入ったようで、勢いで地面に転がっている。

 自分の身体にも魔法をかけていたらしく、火傷などのダメージを負った様子はない。


 簡単に破られてしまったが……どうやら打ち消すのはできなかったようだ。


 アイリさんとシエルとの戦いで、あの女が避けるという行動すら取らなかった。

 今のは避けないといけなかった、ということだ。


 転がっているところに追い打ちをかけるように、空中から炎の槍を飛ばす。

 全力で、ドラゴンの鱗すら貫通した威力のものだ。

 普通の魔物なら骨すら残さずに消し飛ぶ。


 女は立ち上がった瞬間に魔法を発動し、僕の炎を逸らした。

 炎は地面に当たり……爆発した。


「くっ……!」


 爆風で女は吹き飛ばされ、また地面に転がる。


 直撃はおそらくしないと思っていたので、逸らされて地面に当たっても攻撃できるように爆発するものにしていたのだ。

 上手くいったようで良かったよ。


 だが体勢が不安定な状態であの威力の炎を逸らせるのか。

 不意打ちじゃなかったら今の攻撃は打ち消されていたかもしれない。


 今までの攻撃の中で一番効果があったのは、不意打ちの突撃だ。

 魔法を得意としているからか、やはり近接戦は得意じゃないみたいだ。


 僕もあまり近接戦というものはやったことないが、この女で練習してみてもいいかもな。


 そう思い、体勢を立て直した女に向かってまた最速で突撃する。

 女もこちらを睨んで、右手を前に出す。

 今まで魔法を放つときは、一度も構えはしなかったのに。


 先に先制で攻撃を仕掛けよう――としたのだが。


「キョースケ! 待って!」


 女の前に、シエルが立ち塞がった。


「キョッ!?」


 ちょ、何でいきなり!?

 このままじゃシエルに当たってしまう!


 そう思って止まる……のではなく、自分の身体を炎に変える。


「えっ、あっ!」


 シエルの身体をすり抜けて、後ろにいる女に攻撃しにいくが……。


「来ると思ってましたよ」


 手の平を僕の顔に照準を合わせていた女は、魔法を発動させた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ