第66話 焦る?
あとがきを書いているので、よかったらご覧ください。
「酷い目にあったっす……」
身体のあちこちにアザを作って、地面に座り込んでいるアリシアが言った。
アリシアとヘレナさんの戦いは単純で、ヘレナさんが一方的に攻撃をしているだけだった。
風の攻撃がほとんどだったけど、さすがに殺傷能力が高い切り裂くような攻撃はせずに、風で弾を作って撃ち抜くような感じだ。
多分本気を出せば人体を貫通するぐらいの威力があるんだろうけど、アザができるぐらいの威力に抑えてあった。
「アリシア様、貴女が弱いから酷い目にあうんですよ」
酷い目にあわせたヘレナさんが、無表情で淡々と事実を伝える。
「うっ、まあそうっすね……」
アリシアが攻撃しなかった、というよりできなかったのは、ヘレナさんに近づけなかったからだ。
ヘレナさんの周りは常に風の盾があって、アリシアが近づくと吹き飛ばされた。
アリシアは身体能力を上げているのに、それでも耐えられないほどの風の威力。
それをしながらも的確にアリシアに攻撃をする。
お手本のような魔法の使い方だ。
「アリシア様、癒してさしあげますのでジッとしてください」
「りょうかいっす」
座っているアリシアに手を向けて、魔法を行使する。
すると赤くなっていた箇所が、どんどんと無くなっていく。
そして全部無くなり、アリシアは立ち上がる。
「ありがとうっす。いやー、治すなら最初からしないで欲しいっす」
「もう一回作って、治さないでおきましょうか?」
「ごめんなさいっす」
一言多いアリシアが速攻謝ったが……まさかヘレナさんは治療魔法も使えるとは。
一四五歳も生きてれば、それぐらいできるようになるのか。
それともヘレナさんがすごい才能があったのか。
「あ、あの!」
今まで戦いを見ていたシエルが、ヘレナさんに声をかける。
身長差があるので、ヘレナさんが見上げるようにシエルと目を合わせる。
「はい、何か?」
「私とも、戦ってくれませんか!?」
シエルは真っ直ぐとヘレナさんの目を見てそう言った。
僕はなんとなくシエルが何を言うのかわかっていたけど……やっぱりか。
「シ、シエルちゃん……やめておいた方がいいっすよぉ。この人鬼畜っすから」
「アリシア様、もう一回やりますか?」
「やらないって言ってるじゃないっすか!」
アリシアは心配してそう言ってくれたようだが、シエルの意思は固い。
「ヘレナさん、お願いします!」
そう言って頭を下げる。
身長が低いヘレナさんよりも、頭の位置を下にして。
「……わかりました。しかし私は、言葉を包むのが苦手です。なので、正直に感じたことを話します」
「はい、お願いします」
何か含みのあるような言い方をして承諾したヘレナさんだが……どういうことだろうか。
アドバイスなら、遠慮せずに言った方がいいと思うけど。
「キョースケはアイリさんのところで待ってて」
「キョー」
わかった、と言ってシエルの肩から離れてアイリさんの下へ。
「ふわふわ……」
もちろんアイリさんは、僕を抱きしめて観戦する体勢に。
シエルとヘレナさんは、先程の戦いのように僕たちから離れて準備をする。
「いやー、シエルちゃんも血迷ったんすかね?」
なんとも酷い言い草だ……。
さすがにそれはないと思うが。
「まさかシエルちゃんって、イジメられるのが好きなタイプっすか? それなら納得っすけど」
さらに酷い言い草だ……。
さすがに、というか絶対にそれはないと思うが。
「シエルは結構、強くなりたいと思っている」
アイリさんが僕を抱きしめながら、そう言った。
「そりゃそうっすよね。なんて言ったって冒険者なんすから」
「うん、そう。だけどシエルは、冒険者だからってわけじゃない」
「えっ、冒険者だからじゃない? じゃあなんなんすか?」
「そこまではわからない。けど、強くなりたいという気持ちは、他の人よりも大きい」
一週間以上シエルの訓練に付き合ってくれて、その気持ちの強さを感じたであろうアイリさんはそう言った。
「あと、強くなるのにちょっと焦っている」
「そうなんすか?」
「うん、それも私にはなぜかわからないけど」
シエルが、焦っている?
強くなりたいっていう理由は、僕は知っている。
A級冒険者になって黒雲を消したいからだろう。
だけど、焦っている理由はわからない。
早くA級冒険者になりたいというのはわかるけど、別に焦ることはないと思う。
何かそれにも理由があるのかな?
そう思って考えていたが、僕たちから十分に距離を取ったシエルとヘレナさんが、戦いを始めた。
あとでシエルに聞いてみよう、と考えるのをやめて、戦いを見ることにした。
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