第62話 お手伝いさん
もう一種のお祭りではないか、というぐらい集まった人たちだが、アイリさんの家に着くと次第にいなくなっていく。
前世ではアイドルのファンのマナーが問題になっている、みたいのを聞いたことがあったけど、アイリさんのファンはそこらへんは大丈夫なようだ。
「みんないなくなったね。というか、ここら辺にアイリさんの家以外何もないんだ」
「前に姉貴が寝ているときに家の前で叫んでる熱烈のファンがいて、キレた姉貴が寝ぼけながら魔法を放ってここら一帯を更地にしちゃったんすよ」
……やっぱりどこの世界にも一部の人はマナー違反をするんだなぁ。
というか更地にしたって、大丈夫なの?
「それ、魔法の被害に遭った人いなかったの?」
「ここの周りは姉貴が全部所有してる土地だから、誰もいなかったみたいっすよ。そのファンのやつ以外に」
あ、そうなんだ、それなら安心だ。
……そのファンの人がどうなったかは、聞かない方がいいだろう。
死んではないと思う、多分……。
そして着いたアイリさんの家。
やはり、と言ったらなんだが、とてもでかくて豪華だ。
王都でも平屋が多くて、ときどき二階建てがあるぐらいだった。
アイリさんの家は、三階建て。
シエルとカリナさんの家も三階建てだったが、その大きさが全然違う。
まず家に入るのに門みたいのがあって、中に入ると大きな庭がある。
その庭に平家があと二つくらいは建つんじゃないかぐらいの広さだ。
見渡すと、奥の方に池みたいのあるし。
なんか今魚っぽいのが跳ねたし。
そしてこの豪邸。
さっき同じ三階建てと言ったが、階数が同じなだけで、なんか色々と違う。
まず横幅がシエルの家の三倍ぐらいある。
もうそれだけで凄いのに、ベランダというべき所が何個もある。
白を基調にした家なので、とても綺麗で豪華に見える。
それに二階に広いバルコニーがあるんだけど、あそこにプールがある気がするんだけど……。
本当に、これが家なの?
なんか高級宿屋のようなところだけど。
「す、すごいね、想像以上……」
シエルも庭を見渡したり、豪邸を眺めて目を見開きながらそう呟いた。
「あはは、そうなるっすよね。あたしも初めて来たときは驚いたっす」
「アイリさんって、ここに一人暮らししてたんでしょ? 掃除とか凄く大変そうだけど……」
アリシアが来る前までは一人暮らしだったはずだ。
いや、アリシアが来て二人暮らしだとしても、こんなでかかったら大変な気がするけど。
「あ、そういえば言ってなかったすね。お手伝いさんみたいな感じで、もう一人住んでるすよ。その人がこの家の家事を全部やってる感じっす」
「え、そうなの?」
「姉貴もあたしも、家事とかはあんまりできないっすから。その人がいれば完璧っすね」
そうだったんだ。
アイリさんとアリシアの二人暮らしだと勝手に思っていたけど、お手伝いさんがいるのか。
普通に考えたら冒険者の二人が、こんなでかい家の家事ができるわけないか。
「私たちがいきなり住んでも大丈夫かな?」
「大丈夫っすよ。優しい子っすから」
今後お世話になるんだから、しっかり挨拶しないとね。
見た目が鳥で魔物の僕にも優しい人だったらいいけど。
……ん? なんか今アリシアが言った言葉に、違和感があったけど、気のせいかな?
なんかモヤモヤしながらも、馬車から降りてこの豪邸の入り口に立つ。
入り口も立派なドア、というかもう扉だ。
アイリさんが一番前で扉の前に立つと、何もしなくても自動で開き始めた。
「えっ、なんで扉一人でに開いてるの? アイリさんが何かしてるの?」
「私じゃない。ヘレナ」
「ヘレナ……お手伝いさんの名前ですか?」
「そうっすよ。ヘレナちゃんっす」
ヘレナさんか。
名前的には女性のようだ。
まあアイリさんとアリシアと一緒に住んでるお手伝いさんだから、女性だとは思っていたけど。
そして扉は開き、僕たちは中へ入る。
家の中の広さ、豪華さにも目が引いたが……。
最初は家の中にいる人を見てしまう。
頭をこちらに下げて、アイリさんを出迎えるようにそこにいた。
「おかえりさいませ、アイリ様」
「ただいま、ヘレナ」
「アリシア様、おかえりさいませ」
「ただいまっす」
ヘレナという方は、頭を上げずにそう言った。
そして顔を上げてこちらを見ると、僕とシエルを見て目を見開いた。
「お客様もいたんですね。初めまして、ヘレナです」
「えっ、あ、シエル・クルームです。よろしく……」
シエルは困惑しながらも、挨拶をした。
敬語を保てなかったシエルだが、気持ちはわかる。
ヘレナと名乗る女性……というより、女の子は。
十歳ぐらいの女の子だった。