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第60話 王都到着

遅れました、すいません


「そろそろ着くっすよー!」


 そんな声が、寝ていた僕の耳に届いてきた。


 目を開けると、目の前にはアイリさんの顔がある。

 抱きしめられながら寝たから、当たり前か。


 頑張って抜け出そうとするが……。


「んっ……」


 強く抱擁されているから、抜け出すのは厳しい。


 僕が炎になればすぐに抜け出せるけど、それは少し可哀想な気がする。


 昨日の夜、王都への道中でキャンプみたいにして一晩を過ごした。

 そのときに、アイリさんが夜通し見張りをしてくれていたのだ。


 僕も最初は一緒にやっていたのだが、やはり眠くなってしまって気づいたら朝だった。

 眠る前はアイリさんの肩の上にいた気がするんだけど、起きたらシエルの腕の中にいた。

 アイリさんが僕を寝かせるために、気を使ってくれてたのだろう。


 それで今、王都に着くまではアイリさんが寝ていて、見張りをしてくれたお礼に抱きしめられているのだ。


「アイリさん、もう着くそうですよー」


 シエルがアイリさんの肩を揺らして起こそうとする。


「んっ……もう少し……」


 しかしアイリさんはシエルから逃げるように身体をよじらせて、起きようとしない。


「姉貴、あと十分ぐらいで着くから、その間に起きるっすよー」


 御者席にいながら、アリシアがそう言った。


「んっ……わかった……」


 アイリさんはそう言って、またすぐに寝息を立て始めた。


「疲れが溜まってたのかな?」


 全く起きないアイリさんを見て、シエルが心配そうに呟いた。


「やっぱり私も見張り変わればよかったかなぁ……アイリさんには訓練をつけてもらってるし、やっぱり疲れが蓄積してたのかも」


 申し訳なさそうに俯いてそう言った。


 アイリさんが見張りは自分だけでいいと言ってはいたが、やはり夜通しやるのは疲れるはずだ。


「多分大丈夫っすよ、シエルちゃん」

「そう、なの?」


 僕たちよりもずっとアイリさんと一緒にいるアリシアが、御者席で僕たちに背を向けてそう喋る。


「姉貴はもともと一人で旅してた人っすから。こういう旅の途中のキャンプとかでは全く寝ないなんてことは慣れてるみたいっすよ」

「そういえば前に言ってたね」

「だから多分今起きるのをゴネているのは……キョースケを抱きたいだけだからだと思うっすよ」

「あー、そうなんだ」


 確かに前に一人で旅をしていた、と言っていた。

 しかもシエルと同じ年齢、十六歳のときから。

 今が何歳かは知らないけど、もう何年もそういう旅をしていれば慣れているのかもしれない。


「というか、やっぱり王都って城壁が大きいねー」


 シエルがもう目の前に見えている王都を眺めながら、感嘆の声を上げた。


「城壁都市で、世界でも有数の大きな王都っすからね。あたしも初めて見たときは目が飛び出るかと思ったすよ」


 アリシアは大袈裟に言っているが、それでも城壁はでかい。

 目測でしかわからないが、高さは五十メートルを超えていると思う。

 その城壁が前方を占めているので、それだけ王都は大きいのだろう。


「そろそろ着くっすから、準備しておくっすよー」

「アイリさんは?」

「姉貴はギリギリまで寝かせても大丈夫っす」



 そして数分後、王都の城壁の門番のところに着いた。


「お疲れっすー」

「アリシアさん、はい、お疲れ様です」


 門番の兵士さんと知り合いなのか、話しかけたアリシア。


「アイリ様は見つかりましたか?」

「見つけたっすよー。まあ今回は簡単に見つけられたから良かったっす」


 そういえばアリシアは、アイリさんを探しにスイセンの街まで来ていたんだった。


 門番の人はそれを知っているようだ。

 しかも何度もこんなことが起こっているみたいに言っている。


 その二人が話していると、車の方に乗っているシエルに兵士さんが気づいたようだ。


「おや、そちらの方は?」

「シエルちゃんっす。B級冒険者で、A級になるために王都に来たんすよ」

「は、初めまして、シエル・クルームです!」

「これはどうも。では冒険者の拠点許可証などはお持ちでしょうか?」

「はい、これです」


 シエルが懐からギルドで手続きをしてもらった紙を出す。


「はい、ありがとうございます。そういえばアイリ様は?」

「あ、まだ起こしてなかったっす。姉貴ー、起きるっすよー」

「寝ていらしたんですね、これは珍しい」


 アリシアの声に反応して、ようやくアイリさんが起き上がる。

 そして立ち上がり、みんなの前に現れる……僕を抱きしめたまま。


「なっ! 魔物!? 捕獲してきたのですか!?」


 兵士さんが僕を見て、剣の柄に手を置いて構える。

 抜いてはいないが、すぐに抜ける体勢だ。


「捕獲……したい、けど、できない」

「できてないのですか!?」


 アイリさんは寝ぼけているのか、適切な受け答えができていない。


「ちょ、ちょっと待ってください! あの鳥は私の魔獣です!」

「ま、魔獣? 本当ですか?」

「はい、おそらくその許可証にも書いてあると思います」


 兵士さんは僕を警戒しながらも、渡された許可証を読んでいく。

 あれには僕が魔獣登録をしてるということが書いてある。


「……本当のようですね。それに、魔獣の首輪もしてありますね。失礼しました、ここ数年魔獣登録をしている方を見たことがなかったので」

「仕方ないっすよね。あたしも最初はビックリしたっすから」


 アリシアは兵士さんに同調するように、ウンウンと頷いている。


「ですが、なぜアイリ様がその魔獣を抱きしめてらっしゃるのですか?」

「もふもふだから」

「……も、もふもふ?」

「もふもふ」


 アリシアと兵士さんは僕を見て驚いてたけど、アイリさんは僕を見ても全く驚いてなかったな。

 むしろ近寄ってきて、触っていいかと問いかけてきた。


 S級冒険者だから肝が据わっているのか、アイリさんだからなのか。

 おそらく後者だろう。



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