第56話 遅刻?
昨日はアイリさんとアリシアと一緒の宿に泊まったが、大変だった……。
夕飯はずっと二人にアーンで食べさせてもらった。
宿が用意してくれたそんなに多くない夕食を、小さく小さく分けて何回もアーンをしてくる。
そんなに何回も口を大きく開けることなんてあんまりないから、なんか口とか顎が筋肉痛になってる気がする。
嘴だから、どこが筋肉痛になっているか自分でもわからないけど、なんか違和感がある。
そしてその後は、二人と一匹で狭い風呂に入った。
最初はアイリさんが僕を連れて入ろうとしていたのだが、
「あたしも一緒に入るっすー!」
と言って、アリシアが脱衣所に突撃してきた。
仕方なくアイリさんが許して、一緒に入ることに。
僕には確認しないんだね。
いや、確認したところで、言葉が通じないから意味ないとは思うんだけど。
アリシアは、アイリさんより大きいようだ。
何がとは言わないけど。
お風呂から上がったあと、一人用のベッドで二人と一匹で寝た。
ベッドは二つあったのに、やはり今回もアリシアが、
「あたしもキョースケをもふもふするっす!」
と言って、ベッドにダイブしてきた。
アイリさんは最初は渋っていたが、アリシアが全く諦めないので、折れることになった。
しかし風魔法を使ってまで、ベッドから追い出すとは……。
そしてそれでも諦めないアリシアもすごいな。
ベッドに入ってからも、何回も二人の腕の中を行き来した僕。
二人が完全に寝付くまで、僕は全く寝れなかった。
そんな夜を過ごして、今日。
僕たちはギルドに来ていた。
昨日別れたシエルと合流するためだ。
いつ来るかわからないが、とりあえずいつもシエルと一緒にギルドに着く時間ぐらいに行けば大丈夫だろう。
そう思って、僕たちはその時間にギルドに着いてシエルを待っていた。
しばらくすると、ギルドの扉が勢いよく開いた。
シエルが来たのかな、と思ってそちらを向いたら、姉のカリナさんだった。
「はぁ、はぁ……」
息を切らして入ってきて、カウンターの受付嬢と話す。
「ごめんなさい、遅刻しちゃったわ」
「珍しいですね、ギルド長が遅刻なんて」
「ちょっと寝坊しちゃったわ。すぐ仕事に取りかかるから」
どうやら家からここまで走ってきたようだ。
そういえばカリナさんは、前日にどんだけ飲んでも朝早く起きて、僕とシエルが起きる前にもう出かけていた。
それなのに今日は、受付嬢さんいわく珍しく遅刻したみたいだ。
もしかして、シエルと話したからだろうか。
何を話したら、そんなに遅い時間に寝ることになって、寝坊してしまうのか。
「あ、アイリ! キョースケ! シエルならあと十数分で来ると思うから!」
カリナさんが奥の部屋に入って行く前に、僕たちの方にそう叫んだ。
「ん、わかった」
「キョー」
アイリさんは小さく頷き、腕の中にいる僕は鳴き声を上げた。
うん、僕はもちろん、アイリさんに抱きしめられています。
そしてカリナさんが言った通り、十数分後にシエルが来た。
「はぁ、はぁ……あ、キョースケ!」
同じく急いで来たであろうシエルが息を整えながら、ギルド内を見渡して僕たちを見つけて近づいてくる。
僕は炎になって、アイリさんの腕から抜け出す。
後ろから「あっ……」と寂しそうな声が聞こえて罪悪感が少し湧くけど、僕のいるところはここだから。
「キョー」
「ふふふ、おはよう、キョースケ」
僕の言葉を理解したシエルが、そう返してくれる。
「おはよう、シエル。キョースケ返して」
「おはようございます。ダメです、というか貸していたのは私なんだから、返してもらうのは私ですよ」
「シエルちゃん、おはようっす」
「おはよう、アリシア」
挨拶を終え、早速だが昨日のことを問いかける。
「キョー?」
「ん? ああ、お姉ちゃんに許可もらったよ、王都に行くこと」
おー、よかった。
僕もやっぱり黒雲を調べたいから、シエルには早くA級になってもらいたいし。
カリナさんとは特に喧嘩とかしなかった?
「うん、大丈夫。ちゃんと話し合ったから」
それなら良かったけど、どれくらい長く話したの?
「ん? 別に、そこまで長くなかったと思うよ」
あれ、そうなの?
だったら、なんでシエルとカリナさんは寝坊したの?
「あー、それは、その……」
恥ずかしそうに顔を赤く染めて、小さく笑う。
「お姉ちゃんと久しぶりに一緒に寝て、熟睡しちゃったんだよね」
照れ臭そうにそう言った。