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第54話 口喧嘩?

すいません、1日遅くなってしまいました。


 訓練も終わり、僕たちは街まで戻った。


 そしてギルドに行き、依頼達成の報告をしていたんだけど……。


「ダメです」

「……なんで?」


 ギルド長のカリナさんと、S級冒険者のアイリさんが本気の喧嘩をしている……。



 数分前にギルドに戻ってきたんだけど、カウンターで手続きをしていたら、奥からカリナさんが出てきた。


「お、お姉ちゃん? どうしたの?」


 カリナさんの様子を見て、シエルが少しどもりながら問いかける。


 誰がどう見ても、カリナさんは不機嫌な顔をしていた。

 僕たちを睨みながら近くに来て、受付嬢を押すようにして退かす。


「シエル・クルームさん」

「は、はい……?」


 妹のシエルに敬語で話しかけるカリナさん。


「王都に行きたいようですね?」

「は、はい、そうです……」


 萎縮しながらシエルは答える。


 どうやらカリナさんはシエルが王都に誘われたことを知ったようだ。

 多分そのときにいた受付嬢の人に聞いたのだろう。


「冒険者は最初に登録した冒険者ギルドから、他の街のギルドに無断で行くことを許しておりません。だから王都に行くことはできません」

「えっ、そうなの?」

「……」

「そ、そうなんですか?」

「はい」


 いつものように姉に話しかけたシエルだったが、カリナさんの無言の圧力によって敬語に直した。


「カリナ、それは本当?」

「はい、アイリ様」

「……本当?」


 アイリさんは信じられないのか、先程カリナさんに押された受付嬢を見て真偽を確かめる。


「え、えっと、そうですね。無断で行くことは許されておりませんが、しっかり手続きをすれば……」


 S級のアイリさん、それにギルド長のカリナさんにジロッと見られて、受付嬢は怯えながらも答えてくれた。


「……カリナ、嘘ついた」

「……嘘はついておりません」


 うん、確かに無断で行くことは許されてないらしい。

 そこは嘘じゃない。


 だけど、王都に行くことができないということではないみたいだ。


 カリナさんは「余計なことを言ってくれた」みたいな目つきで、受付嬢を睨んだ。

 涙目で後ずさる受付嬢、逃げるようにその場を去った。


「手続きはどれくらいかかるの?」

「……一時間程度です」

「すぐに終わるから、別に王都に行っても問題ない」

「シエル・クルームはまだ十六歳です。たとえB級だとしても、王都に一人で行くのは危険でしょう」

「私が十六歳の頃は一人で冒険者をしていた」

「さすがS級冒険者様ですね」

「だから問題ない」


 カリナさんはいつもの愛想笑いを全くしておらず、ただただ無表情。

 アイリさんもいつもながら無表情だが、少しイラついているようだ。


 受付嬢や、ギルド内にいる冒険者たちも息を潜めてその光景を見ている。

 少しでも物音を立てようものなら、飛び火するんじゃないかと思っているのか。


「ダメです」

「……なんで?」

「王都の依頼は危険なものばかりです。B級になったばかりのシエル・クルームには荷が重いかと」

「私とキョースケがいるから問題ない。それにそんなこと言っていたら、成長できない」

「このギルドでまだ実力をつけていったほうが良いと思います」

「それは、ギルド長のあなたが決めることではない」


 お互いに、一歩も引かない口喧嘩。


 アイリさんが「私とキョースケがいる」と言ったとき、アリシアが小さな声で「あたしもいるっすよー」と言っていた。

 そのアリシアの声以外、このギルド内にはあの二人だけの声が響いている。


 というか、アイリさんがめっちゃ対抗している理由は、シエルをB級に上げたときと同じように僕を連れていきたいからなんだろうなぁ。


 僕は嬉しいけど、シエルの気持ちを考えると複雑だ。


「お姉ちゃん」


 そう思っていると、シエルが二人の話に割って入った。


「だ、大丈夫っすかシエルちゃん? あの中に入って」

「うん、大丈夫だから」


 アリシアが小声でそう言ってきたが、シエルは笑顔で口喧嘩に入っていく。


「シエル、あなたも言ってやって。ギルド長に決められる筋合いはないって」

「シエル・クルームさん、あなたは王都に行くにはまだ――」

「――ギルド長、あなたに言われる筋合いはないです」

「……っ!」


 シエルの強い言葉に、カリナさんは黙ってしまった。

 僕もまさかシエルがそんなはっきり言うとは思っていなかった。


 アイリさんがなんか少しドヤ顔をしている気がする。


「だけど……お姉ちゃんとは、しっかり話し合いたいな」

「……シエルちゃん」


 カリナさんがようやくいつも通りの呼び方に戻って、殺伐とした雰囲気が一気に霧散した。


 受付嬢や周りにいた冒険者たちがため息をついたのが聞こえる。


「家に帰ったら話そう、お姉ちゃん」

「……わかったわ」


 そこで話は終わった。



 その後は依頼達成の手続きが途中だったのでそれをやって、帰ることになった。


「アリシアはどこか泊まるところあるの?」

「昨日も泊まった宿があるっすよ」

「あ、そうなんだ」

「……シエル、私は今日アリシアと一緒に泊まる」

「えっ?」

「だから、二人でゆっくり話して」


 いきなりのことで戸惑っていたシエルだが、最後の言葉を聞いてハッとして、頭を下げる。


「ありがとうございます」

「ううん、その代わりキョースケを借りていく」

「はい、今日はいいですよ」


 僕も気を使ってアイリさんの方に行こうとしていたけど、僕から言い出さなくてもそう決まったようだ。


 そこでシエルとは別れ、アイリさんとアリシアと宿に向かう。

 その間、いつも通り僕はアイリさんに抱きつかれている。


「ふふふ、久しぶりにキョースケと寝る」

「いいなー、あたしもキョースケと一緒に寝たいっすよ。抱きついて寝たらめっちゃ気持ち良さそうじゃないっすか」

「最高、だけどダメ、今日は私」


 ……シエルとカリナさんを二人にしたのは気を使ったからで、僕と一緒に寝たいからじゃないよね?



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