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第48話 救い?


 シエルは走り、街に辿り着いた。


「はぁ、はぁ……!」


 門のところで止まることはなく、そのまま冒険者ギルドまで走る。


 そして扉を蹴破るように入ると、その派手な音に気づいて何人もの冒険者が入ってきたシエルを見る。


 それらを無視し、カウンターのところまで行き、姉のカリナを見つけたので叫ぶ。


「お姉ちゃん! 森に、大量のアンデッドが!」



 その一言でほとんど全てを理解した、ギルドマスターのカリナ。


 すぐさまギルドの役人達に声をかけ、街の兵士達や冒険者達に応援を呼びかける。


 兵士達は指示一つで動いてくれるが、冒険者達はそうもいかない。


 相手はA級の魔物、アンデッドのグール。

 数はわからないが、数十体以上。

 こんな危険な依頼に、ほとんどの冒険者が怖気付き、参加しなかった。

 だからカリナは、緊急依頼を出した。


 報酬は魔物を倒した分だけ出す。

 そして参加しただけでも少なくない報酬が支払われるということだった。


 冒険者達もその依頼を受けて、参加する数は増えた。

 しかしA級の魔物が相手ということがあり、そこまで数は集まらなかった。


 緊急で集めたので、兵士が三百人ほど、冒険者が百人ほどだ。


 これだけの人数でA級のグールを倒せるか不安だが、やるしかないのだ。


「アイリさん、キョースケ……!」


 その中に当然のことながら、B級冒険者になったシエルもいる。


「シエル嬢ちゃん」

「あ、オルヴォさん……」


 先日一緒に依頼を受けた、A級冒険者のオルヴォが後ろから話しかけた。


「大丈夫か? 森からずっと走ってきたらしいが」

「はい、それはもう大丈夫です」


 一時間程度ずっと走りっぱなしだったが、もう疲れはほとんどない。

 キョースケから分け与えられた力は、こういうところでも役立っているのだろう。


「早く森に行かないと、キョースケとアイリさんが……」


 少し泣きそうになっているシエルを、オルヴォは少し乱暴に頭を撫でる。


「大丈夫だ、キョースケは強いし、そのアイリって人はS級だろ? もしかしたら、俺達が行く前に終わってたりしてな?」


 オルヴォは最後の言葉は冗談のように、少し笑って言った。


 オルヴォもシエルも、さすがにそれはないだろうと思っている。

 そのS級冒険者の人が、増援を頼んだと言ったのだから。


「絶対に死んでるわけない。だから、俺たちができることはしっかり準備をして、魔物をぶっ潰すことだ」

「……はい」


 そしてシエルが街に戻ってきてから数十分後、約四〇〇人の兵士と冒険者達が門に集まった。


 A級のグールを倒すには、A級冒険者が三人ぐらい必要である。

 グールの数は数十体で、こちらは四〇〇人ほどいるが、全員がA級冒険者ぐらいの力を持っているわけではない。


 だがもう出発するしかないのだ。

 これ以上時間をかけていたら、S級冒険者のアイリとキョースケが死んでしまう。


 四〇〇人が集まり、その先頭にギルドマスターのカリナがいる。

 どうやらカリナが指揮を取るようだ。


「では、出発します!」


 カリナのその言葉に、大声をあげて気合いを入れる兵士や冒険者達。


 そして街の門を出て、いざ森へ行こう――としたが。


「おい、あれはなんだ?」


 誰か一人がそう言って、空を指差した。


 その声に最初に何人かがそれを見て、数十人、そして全員がそれを見る。


 太陽の光のせいで影しか見えないが、それは鳥と人の形をしていた。


 正確に言うなら、鳥の足に人がぶら下がっていて、その鳥がこのスイセンの街に近づいているのだ。


 地上から数十メートルも高いところにそんな影が見えて、ほとんど全員が何事かと身構える。


 しかし、その影になんとなく見覚えがあるシエルが気づいた。


「……キョースケ? それに、アイリさん?」

「はっ? あれがか?」


 隣にいたオルヴォが言ったが、シエルにはもう聞こえていない。


 隊列を組んで進んでいたのだが、それを無視してシエルは先に飛び出す。

 後ろからは姉のカリナが何かを叫んでいるが、全く聞こえない。


「キョースケ! アイリさん!」


 シエルの声が届いたのか、上空にいたその影はゆっくりと下降してくる。


 そしてゆっくりと人間の方が着地をし、鳥の方がそのままシエルに向かって飛んでくる。


「キョー」

「キョースケ!」


 シエルは飛んできたキョースケを、そのまま抱きしめた。


 アイリは右足を引きずりながら、少し羨ましそうにそれを眺める。


「よかったキョースケ……! アイリさんも、ご無事でなによりです!」


 シエルは強く抱きしめたままアイリに話しかける。


「うん、キョースケのお陰。キョースケはやっぱり強かった」

「そうですか……! それで、あのアンデッド達は?」

「全部倒した」

「えっ、そうなんですか?」


 数十体もいたA級のアンデッドを、アイリとキョースケだけで倒した。

 それを聞いてシエル、そして後ろで聞いていたカリナも驚いた。


「そ、そうですか……」

「うん。で、こんだけの数でどこに行くの?」


 カリナの後ろにいる四〇〇ほどの人達を見て、アイリは不思議そうに問いかけた。


「あの、アイリ様が増援をとシエルから聞いたのですが……」

「ああ、そういえば言った。じゃあ、あれなしで」


 その言葉でカリナの作り笑いが、固まった。


「アイリさん! 早く足治しに行きましょう!」

「うん、普通に痛い。だから、キョースケかして」

「関係ないでしょ!」

「キョースケふわふわしてたら、痛みがなくなるから」

「……ちょっとですよ」

「うん……ふわふわ」

「キョー……」


 三人はそんなことを言いながら、街に戻っていく。


 まだ固まっているカリナに、話しかけずらそうに冒険者が話しかける。


「その、参加しただけで結構な報酬を貰えるって聞いたのだが、それはどうなるんだ?」

「……もちろん、お払いいたします。規則、なので」


 救いだったのは、そこまで多くの冒険者が集まらなかったことだった。



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