第47話 森での決着
アイリさんが風魔法をタキシムに向かって放つ。
タキシムの両膝から、血が吹き出る。
ガクッと一瞬体勢を崩したが、すぐにその膝の傷は塞がってしまった。
まさか再生能力があるなんて。
しかも結構治るのが早い。
僕の炎で千切れかかっていた両腕が、もう何もなかったかのようにくっついている。
今のアイリさんの魔法も、さっきまでのグールとかなら一瞬で身体が真っ二つになるくらいだったのに。
タキシムには血を吹き出させる程度で、骨にすらその攻撃が達していない。
おそらくさっき高速の移動攻撃を封じようと膝を狙ったはずだけど、すぐに直ってしまった。
そして――さっきのと同じ攻撃が来る。
タキシムが膝を曲げ、地面を蹴る。
そこの地面が削れ、爆発的な速度を持って迫ってきた。
僕の鳥の目を持ってギリギリ見えるぐらいの速度。
いくらアイリさんでも、この速度はしっかり捉えられてないのかもしれない。
しかし、アイリさんはまたギリギリで避ける。
僕も先程と同じく、空中に逃げる。
そしてタキシムが誰もいなくなったところを殴り、地面が割れる。
あれを食らったら、アイリさんは死んでしまうだろう。
避けた勢いで転がっているアイリさんに、タキシムがまた狙いを定めた。
だが、やらせない。
僕はまた上から炎を放つ。
目眩しのためにタキシムを覆うほどの大きな炎。
そして次はタキシムの横に旋回して、足を狙って炎の槍を放つ。
……えっ、お前避けられるの?
当たる直前、ジャンプして避けられた。
まさか回避されるとは思わず、「キョ!?」と声を出してしまった。
あの五メートルの巨体で、あんな爆発的な速度を出すから俊敏なやつだとは思ったけど、まさか僕の攻撃を避けられるとは思ってなかった。
しかもめちゃくちゃ高くジャンプして、森の木々を超えた高さまで行ってる。
待て、あいつ……!
そのままアイリさんに上から攻撃するつもりだ。
アイリさんはタキシムを見失ってしまっている。
僕の炎の目眩しの効果が、逆に働いてしまった。
アイリさんが気配に気づいたのか、上を向く。
タキシムは両手の指を絡め、頭の上から大きく振りかぶって落下してきている。
あのままの勢いで地面に拳を叩きつけたら、アイリさんがギリギリで避けても衝撃を食らってしまう。
あんなに高く飛んで攻撃力が増している。
衝撃を食らっただけでも、恐ろしいダメージになりそうだ。
アイリさんは避けるのは無理と判断したのか、迎え撃とうと魔力を一瞬で溜めた。
だけどダメだ、あれはアイリさんでも受け止めきれない。
じゃあどうするか。
僕が、あの攻撃を受けきるのを協力すればいい。
タキシムもスピードは速かったけど。
僕もスピードでは負けない。
今いる場所から、僕も魔力を解き放ち思いっきり加速してアイリさんの下に向かう。
本気のスピード、あのドラゴンと戦って以来だ。
あいつが両腕を振り下ろしてきた瞬間、その両腕に僕の炎の体とアイリさんの風がぶつかる。
その瞬間――空気が揺れた。
僕の頭にあいつの拳が振り下ろされ、衝撃を受ける。
しかしそれ以上の衝撃が、後ろから来た。
結果、タキシムが弧を描いて吹っ飛んだ。
僕の体当たりと、アイリさんの風が勝ったのだ。
空中を吹き飛んでいる間、タキシムの腕を見るとボロボロになっていた。
「……えっ?」
僕の後ろから、アイリさんのそんな声が聞こえた。
何が起こったのかわかってないのかもしれない。
グールの頭を潰している作業中、僕の炎とアイリさんの風が混ざった。
そして威力が倍増か、それ以上になった。
その効果を利用して、今の攻撃を行ったのだ。
僕一人で体当たりしても、多分負けただろう。
本気のスピードと言ったが、なぜかドラゴンと戦ったときより確実に遅いし。
アイリさん一人の風魔法でも同じだ。
だけど、僕の炎とアイリさんの風を合わせれば、あれだけの威力になる。
タキシムの一撃を、押し返して吹き飛ばすほどの威力だ。
「キョー!」
アイリさんに声をかける。
言葉の意味は通じなくても、わかってくれるだろう。
「っ! うん、キョースケ」
アイリさんが魔力を溜め始める。
さっきの咄嗟に放った魔法は、威力が微妙だった。
それでも僕の炎と合わせれば、タキシムの攻撃を上回って腕を吹き飛ばすほどの威力となった。
じゃあ、今度はアイリさんの風魔法が万全だったら?
アイリさんが最強の魔法を放つ準備ができた。
奥の手と同じぐらいか、それ以上の魔力が溜まっている。
僕も翼を炎に変え、撃つ準備をする。
今度は二つの槍ではなく、合わせて一つにする。
タキシムは数メートル先にいて、まだ腕を失っている。
だがこちらの様子に気づいたのか、身体一つで突撃するつもりみたいだ。
「いくよ、キョースケ」
「キョー!」
そして――撃つ。
「『炎暴風』」
アイリさんの風に、僕の炎が混ざり合う。
タキシムがそれを突破しようと、先程と同じように爆発的な速度で突撃してくる。
しかし――僕とアイリさんの下には、タキシムは来れなかった。
一瞬で炎がタキシムを包み、焼き尽くした。
足が消え、胴体が消え、腕が消え、そして頭が消滅した。
五メートルもあったタキシムが一瞬で消え失せ、辺りには肉が燃え尽きた臭いが残る。
……よし、さすがにもう再生はしないみたいだね。
横で立ち尽くしているアイリさんの肩に、静かに降り立つ。
「あっ、キョースケ?」
「キョー」
「ふふふ……勝ったね」
頰ずりしてくるアイリさん。
そして笑顔のまま、言った。
「ありがとう、キョースケ」
「キョー!」
僕も元気よく、そう返事した。
焼け焦げた臭いは、自然な風が流してくれた。
森の匂いがする中、僕たちは街に帰還することにした。