第45話 次の敵
いやー、すごいなぁ、今のアイリさんの魔法。
四方八方から襲ってくるグール達を、一つの魔法で粉々にしちゃった。
それと一緒に僕たちの周りの木々もなぎ倒した。
僕も炎を使えば周りのグール達を倒せるけど、一回の炎では倒せない。
前と後ろ、横、最低でも四回ぐらいは炎を放つ必要がある。
この魔法は誰にも、シエルにも内緒にしてくれと言われたけど、これだけ強い魔法なら納得だ。
S級冒険者のアイリさんの、何個かある内の最強の魔法なのだろう。
やっぱり奥の手ってのは隠すのがいいんだよね。
僕も強い攻撃技とかは隠しておこうかな。
そんな強い魔法を使ったアイリさんは、肩に乗っている僕に頬ずりしてきている。
滅多にしないであろう、にやけた顔で。
「もふもふ……ふふふ」
いや、その、僕の羽が気持ちいいのはわかりましたから、まだ戦いは終わってませんよ?
ほら、全然グール達動いてるし。
全員が地を這って、僕たちの下まで来ようとしている。
足が無くなってない奴が一体もいないので、全員でほふく前進してるみたいだ。
頬ずりしているアイリさんだが、多分油断してやられることはないだろうけど。
一応トドメは刺しとこうかな。
右肩に乗っているので、左の翼に頬ずりされている。
だから右の翼を広げ、炎に変える。
そして炎を、転がっているグール達に向けて放つ。
おー、よく燃えるよく燃える。
確かシエルは、頭を燃やしてたよね?
そう考えて、グールの頭を中心的にどんどん燃やしていった。
「んっ、ありがとう。手伝う」
「キョー」
アイリさんは頬ずりしながらも、一緒になって魔法で頭を潰していってくれる。
次々やっていって、最後の一体になったとき、同時に攻撃してしまった。
「……ん?」
「キョ?」
そしたらそのグールは頭だけではなく、上半身が全て燃えて消え失せた。
今まで僕とアイリさんは、頭だけを燃やす、潰すだけの威力でやっていった。
最後も同じ威力で、僕もアイリさんもやったはずだ。
だけど、結果は僕たちの攻撃は合わさって、上半身全てを消し飛ばす攻撃になった。
「炎と風、相性が良かったみたい」
「キョー」
そうだね、と相槌を打ってみる。
多分意味は伝わってはないけど、なんとなくわかってもらえたはずだ。
「まだもう少し奥にいるから、行こっか」
「キョー?」
足は大丈夫なの?
アイリさんの右足を翼で差しながら、首を傾げてみる。
意図が伝わったようで、答えてくれる。
「痛いけど問題ない。最悪、風魔法で逃げられるし」
あ、そうなんだ。
僕の炎を避けたみたいに、風魔法で移動できるのかな。
「じゃあ行こう、まだ奥にさっきと同じぐらいの数がいる」
まだそんなにいるんだ。
まあ油断しなければ、もう攻撃を食らうことはないと思うけど。
「……っ! 待って、様子がおかしい」
「キョ?」
右足を引きずって奥に進んでいたアイリさんは、いきなり顔を曇らせて止まった。
「気配が、減った?」
気配が減る?
つまり、敵の数が減ったっていうこと?
いきなり敵の数が減ることなんてあるの?
誰かが倒してくれたとか?
「……あっ、そうだ、思い出した」
アイリさんは顔を曇らせていたが、パッと閃いたように明るくした。
どうやら何かを思い出せずに、思い出そうと頑張っていたのだろう。
よくあるよね、思い出しそうで思い出せないこと。
それが無くなって、曇った表情が晴れたアイリさん。
「アンデッド系の魔物は、合体することがある」
合体?
合体って、なんか戦隊モノのヒーローとかがやっているようなアレ?
「どうやって合体するのかもよくわからないけど、なんか強い魔物になるみたい」
あー、じゃあさっきの気配が減ったっていうのは、合体したから減ったのか。
で、合体すると強くなると……。
ん? それって、少しヤバくない?
「……気配が一つになった」
あれ、さっきのグールの数ぐらい奥にいたんでしょ?
じゃあ四十ぐらいのアンデッドの魔物が、一つになったの?
すごい、超合体だ。
森の空気が変わったような気がする。
空には「キエー!」とかいう鳴き声を上げながら、鳥が大勢逃げていっている。
恐ろしい怪物から、いち早く逃げようとしているみたいだ。
「……でかいね」
「……キョー」
もう前に進まなくても、敵の姿が確認できる。
木々の間から見えるその姿はとても大きく、高さは五メートルくらいある。
形は人の姿をしているけど、全体的になんか黒い。
目の部分は、怪しい青白い光を放っている。
見てると寒気がして、鳥肌が立つ。
「あれは、『タキシム』。正真正銘の、S級の魔物」
アイリさんがS級の魔物、と言うということは、あれは黒雲の影響とかでS級になったんじゃなくて、最初からS級の魔物ということだ。
「私は前にあれと戦ったことあるけど、一人じゃ勝てなかった。他の人と一緒に倒した」
あのアイリさんが、一人で倒せなかった魔物。
「あと前にやった奴と、大きさが全然違う。このタキシムの方が倍ぐらいでかい」
おお、めっちゃ強いということか。
「あとその頃は、黒雲がなかった」
お、おお、つまりもっとめっちゃ強いということか。
アイリさんが一人で倒せなかった奴が、さらに強くなって出てきたということ。
そしてアイリさんは今、右足を負傷中。
あれ、結構ヤバくない?