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第44話 残った一人と一匹


 シエルが走り去っていったのを見て、アイリは一度深呼吸をする。


 右足は……走れないけど、死ぬほど痛いわけではない。


 今まではこれ以上の痛みを我慢して、魔法を唱えてきた。

 だから集中力は途切れることはないだろう。


(これなら、アレが使える)


 シエルに話した内容には、嘘が含まれていた。


 確かにこの森で何かが起きている。

 それによってアイリは怪我をして、今こうして何十体という魔物に囲まれてしまった。


 だからこれをあの街の冒険者ギルドに伝えた方がいい、というのは本当だ。


 嘘なのは――増援が必要ということだ。


(このくらいで、S級冒険者の私に増援が必要? ありえない)


 これ以上の修羅場を、一体何回乗り越えてきたというのか。

 数えるものめんどくさいくらい、修羅場をくぐり抜けてきた。


 この程度で増援など必要ない。

 ではなぜシエルを街に行かせたのか。


 邪魔だったからだ。


 戦力的にも邪魔というのもあるが、自分の奥の手を見せたくはなかった。

 だから表向きの理由を作って、帰らせたのだ。


(まあ、キョースケは残っちゃったけど)


 目を開け、自分の肩に乗ってくれているキョースケを見る。


 アイリが何を考えているかわからないようで、首を傾げている。


 ……可愛い。

 じゃなくて。


「キョースケ、今から見る魔法は内緒にしていてくれる?」

「キョー?」

「お願い」

「……キョー」


 アイリにはキョースケの言葉はわからないが、キョースケは人間の言葉がわかる。

 だから頷いてくれた。


 キョースケは喋れないが、シエルとは喋れる。

 だからこの魔法を、シエルにもし喋らないでくれという意味で言った。


 多分、わかってくれただろう。


 そう思ってから、周りの魔物の動きを感じ取る。


 というか、もう感じ取る前にすでに見えている。

 十数メートル離れているところに、先ほど同じ魔物のグールがいる。


 目の前に十体以上、横と後ろを合わせるとおそらく四十以上はいる。


(感じ取れる気配は、全部同じ。つまり全部グール。いくらなんでも、これはおかしい)


 さっきの頭をやらないと動く特性を見る限り、グールはアンデッド。

 この森にそんなアンデッドが出るなんて、ギルドの人は言ってなかった。


 一番多く出るのは獣系の魔物だと言っていたが、アンデッド系は出るなんて一言も。


(つまり誰かが、意図的に何かをやっている)


 こんなところにアンデッドが出ること自体、あんまりないことだ。

 だから今回は絶対に黒幕がいる。


(まあいい、これはギルドの人に伝えて、私が考えることではない。私は、ただただ蹂躙すればいい)


 魔力を貯める。

 S級冒険者の名に負けない、魔力の量を。


 まだ何も魔法を発動してもいないのに、空気が変わる。

 アイリに向かって、周りの空気が収束するようにして集まる。


「ヴォオオオォォォォ!!」


 今まで歩いて近づいてきたグール達が、いきなり走り出した。

 何かに気づいたのかもしれない。


「キョースケ、肩に乗っててね。離れたら当たっちゃうから」


 しかし、もう遅い。



「吹き荒れ、静めろ――『暴風サイクロン』」



 ひゅうっと――風を切る音が鳴った。


 草原に出れば、いや、街中でもよく聞くような音。


 しかし、その音がした瞬間。


 周りの四十以上いた魔物たちの身体は、バラバラになった。


 四肢が揃ってるグールは、一体もいない。

 どのグールも腕や足、そして胴体。

 そのどれか、全ての部位が切れているものもいる。


 そしてグール達が崩れ落ちると同時に、その周りの木々も同じように切れて倒れていった。


 魔法の効果は単純。

 アイリの周りに風の刃を起こし、それに触れたものが全て切れるというものだ。


 その範囲は半径三十メートルぐらいに及ぶ。


 アイリとキョースケの周りには、四十体以上のグールが倒れている。

 そして木々も倒れ、そこだけ全く木がなくなってしまい、上から見たら森の一部がハゲているように見えるだろう。


 アイリは一度深呼吸し、息を整える。


(とりあえずこれで、周りの奴らは襲ってこないようにした)


 奥の手であるこの魔法は、威力が高く扱いが難しい。

 もっと上手くなれば一部だけの敵を粉々にできるのだが、そこまでに至っていない。


 だからシエルを帰した理由は、巻き込む可能性もあったからだ。


 キョースケは当たらない範囲内に入れるから、いても大丈夫だった。


 そう思ってキョースケを見ると、目をまん丸にして驚いている様子だった。


 ……可愛い。


 初めて肩に乗ってくれたので、頰を翼に寄せる。

 ふわふわした羽が、頰を撫でてくすぐったくて気持ちいい。


 ずっとこうやってしていたいと、強く願うアイリだった。


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