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第43話 緊急事態


「アイリさんっ!」


 半身となって地面に倒れ伏していたグールが動き、アイリの足を掴んでいるのを見てシエルがそう叫んだ。


 グール。

 B級の魔物が、黒雲の影響でA級となった魔物。


 その恐ろしさは、死ににくいこと。

 アンデッドであり、普通の生物が持っている心臓を持っていない。

 だから倒すには、行動するために必要な脳、つまり頭を破壊しないといけない。


 ギルドマスターの妹であるシエルは多少魔物に詳しかったのでそのことを知っていたが、初めてグールという魔物に出会ったアイリは知らなかった。


「――っ!」


 アイリはまだ理解できていない。

 なぜ半分に裂いた魔物が、まだ動いて自分の足を掴んでいるのかを。


 だが、理解はしてないが咄嗟に行動はした。


 足を掴んでいる腕を、反射で放った風魔法で裂いた。

 そしてすぐに倒れているグールの、手の届かない距離まで下がる。


「『火球ファイアーボール』!」


 アイリが下がったのを確認して、シエルが魔法を放つ。

 少し威力を抑えて放った火の球が、グールの頭に直撃する。


 グールの頭は一瞬で燃え尽き、炭も残らずに消え去った。

 身体は残っているが、もうそれが動くことはなくなった。


「アイリさん、大丈夫ですか!?」


 グールが動かなくなったのを確認し、シエルはそう問いかける。


「……ダメ、右足の骨がイってる」


 右足に体重をかけて、痛みに顔を歪めたアイリがそう答える。


 グールに掴まれたのは一瞬だったが、あの大きな手に握り潰されるように掴まれたのだ。

 A級の魔物の力は、やはり強かった。


「あ、歩けますか?」

「ギリギリ。ごめん、油断した」

「い、いえ! 私はいいんですが……」


 シエルは動けそうにないアイリを見て、これ以上森の調査をするのは無理だろうと思った。


「街に戻りますか? その状態で依頼を続けるのは、無理でしょうし……」

「……うん、そうだね。無理そう」


 ギリギリ歩けると言ったアイリだったが、右足をほとんど引きずって歩くことになる。

 ただでさえ森の地面は荒れていて歩きづらいのに、その状態で調査を続けるのは無理があった。


「依頼失敗、久しぶりにやってしまった」

「こ、こんなこともありますよ」

「ごめん、シエル。私のせいで」

「だ、大丈夫ですよ!」

「キョースケも……キョースケ?」

「えっ、あれ? キョースケ?」


 二人はキョースケに話しかけようとしたが、いつの間にかキョースケがいなくなっていた。

 さっきまでシエルの肩に乗っていたはずなのだが。


「キョースケ! どこに行ったの!?」


 シエルはそう叫ぶが、キョースケからの返答はない。


「……上」

「えっ?」


 アイリは勘と経験で気配察知をして、上を向いた。

 シエルも一緒になって上を向く。


 すると、そこにはキョースケがいた。


 上空の木々の間を縫って飛んでいるようで、結構な速度で二人の上空を飛び回っている。


「何してるんだろう?」

「多分、周囲の警戒」


 アイリはなんとなくキョースケの行動を理解しそう言うと、キョースケが降りてくる。


「周りを見てたの?」

「キョー」

「ありがとう、それでどうだった?」


 キョースケの言葉を理解できるシエルが何気無くそう問いかけると、キョースケは答える。


「キョー」

「……えっ?」


 完全に、囲まれている。


 その言葉を理解したシエルは、驚きの声を漏らしてしまった。


「ど、どういうこと?」

「キョー」


 そのまんまの意味。

 全方位に敵がいて、囲まれている。


「っ! なに、一気に周りの気配が……?」


 キョースケがシエルに状況を伝えているときに、アイリもそれに気づいたのか周りを見渡す。


 まだ木々で隠れて遠くまで見えないが、魔物が周りを囲んでいるということをアイリも感じ取った。


「なんで、いきなり?」


 今度は油断しないように周りを見渡しながら、そう呟いた。


「ア、アイリさん、全方位囲まれてるってキョースケが……」

「うん、なんとなくわかる。しかも結構な数いる」


 詳しい数までは感じ取れないが、三十以上はいるとアイリは感じ取った。

 しかも森の奥には、魔物の大群がいるというのもわかる。


「これが、森の調査の理由? 森で何か起きてるって聞いたけど、何が起きてるの?」


 調査してすぐに自分が怪我したことすら、何かが起きていると判断できることなのに。


 それが今、自分が怪我してからも立て続けに魔物が襲ってくる事態に陥っている。


「これは、自然発生? それとも……」

「アイリさん、どうしますか!?」


 アイリの思考が遮られるように、シエルの言葉が飛び込んできた。


 その言葉に一度思考を止めて、この現状をどうにかすることを考える。


「さすがに、この数を相手するのは骨が折れる。私の骨はすでに折れているけど」

「上手いこと言ってる場合ですか!?」


 何気に余裕な思考をしているアイリ。


「だから、シエルが街に戻って増援を呼んできて」

「えっ! アイリさんは残るってことですか!?」

「私は走れない。だから戻るのも、逃げるのも無理。戦うしかない」

「じゃあ私も……!」

「誰かが増援を呼ばないといけない。だからお願い、走れるあなたが帰って」


 その言葉に、何も言えないシエル。

 S級冒険者のアイリが、増援が必要と言っているのだ。


 それが何を意味するのか。

 これは、この森だけで済む問題じゃない。

 あのスイセンの街にも被害が及ぶかもしれないということだ。


「わかり、ました! でも、キョースケ!」

「キョー?」

「あなたは残って!」

「キョ?」


 なぜ?

 自分の方が速く街に着くことができるのに。


 そう言ったのを理解すると、少し苦笑いしながらシエルが答える。


「だって、キョースケが街に戻っても言葉が通じないから、増援呼べないじゃん」

「キョー……」


 ごもっともです、と言う風にキョースケは鳴いた。


「だから、キョースケの力でアイリさんを守って」

「キョー!」

「うん、お願いね!」


 そう言ってシエルは、自分に身体強化の魔法をかける。


「じゃあ、行ってきますアイリさん、キョースケ!」

「うん、待ってる」

「キョー!」


 シエルはそう言ってから、街の方向に走り出した。


 だがすぐ目の前に、魔物が現れる。

 さっきと同じ魔物、グールだ。


「どいて! 『炎槍ファイアスピア』!」


 グールの首の辺りに突き刺さった炎の槍は、そのまま頭をも焼き尽くす。


 そして倒れ伏したグールの横を通って、シエルは街に走っていった。



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