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第41話 力量


 ――思ったよりも強い。


 アイリはシエル・クルームの魔法を見て、最初にそう思った。


 攻撃力高いとされる火属性の魔法。

 その中でも威力が強く、貫通力がある『炎槍ファイアスピア』。


 それがシエルの魔力で普通よりも威力が高いものになって飛んでくる。


 これならB級は当たり前、A級でも問題ないぐらいだ。


(だけどまぁ……S級にはまだ及ばない)


 そう思いながら、相手の魔法の威力を把握してから対処をし始める。


 シエルより断然に早い魔法発動。

 膨大な魔力量。


 そして魔力操作を持ってして、魔法を発動する。


「『突風ブラスト』」


 小さくそう唱えると、アイリの目の前から炎の槍が消え去った。


 アイリがやったことは単純だ。

 炎の槍を強い風で取っ払っただけ。


 真正面から当ててしまったら炎が返ってしまい、シエルやキョースケに当たるので下から上に風を起こした。


 シエルから見ると、いきなり自分の炎の槍が霧散したように見えた。

 アイリの小さな詠唱の声も全く聞こえなかったので、何をしたかもわからない。


「えっ……?」

「うん、終わり。自己紹介ありがとう」

「あっ、はい……」


 そう言ってまた森の調査に向かおうとしたアイリだったが、シエルは我に返って待ったをかける。


「あ、あの! 今何したんですか!?」

「魔法だけど」

「いや、それはわかりますよ! そうじゃなくて、何の魔法かとか」

「風魔法。下から上に風を起こした」

「そ、それだけですか?」

「うん」

「そ、そうですか……」


 シエルは消えそうな声でそう呟いた。


 キョースケと契約してから強くなった魔法。

 そんな簡単に破られないだろうという自信を持って放った魔法が、呆気なく相殺された。


 自分の力を過信してしまったというので少し落ち込んでしまう。

 そして上には上がいるということを学んだ。


(やっぱりS級冒険者はすごい……オルヴォさんも強かったけど、全然敵わない)


 A級冒険者のオルヴォと依頼を一緒にやってみて、なんとなく強さはわかった。

 一対一で戦えば、距離があれば勝てる可能性があると感じていた。


 しかしS級冒険者のアイリ。

 自分の魔法を打ち破った方法もわからないほどの実力差があった。

 一対一で勝てるかどうかというか、まだ実力の底が見えない。


(もっと強くならないと……! お兄ちゃんと一緒のA級になって、そして黒雲を無くすために!)


 今の戦い、自己紹介を通してそう決意したシエル。

 敵わない相手を見て絶望するのではなく、そこを目指そうと思うのがシエルの強い部分だろう。


「ありがとうございました!」

「? 何のお礼?」

「自己紹介をさせてもらったお礼です!」

「普通された方がお礼を言うと思うけど」


 アイリは小首をかしげるが、特に気にした様子もなく話を続ける。


「まあいい。やっぱり今の魔法を見た限り、B級冒険者以上の実力はあった。何で今までD級だったのかが理解できない」

「えっと、キョースケと契約してから強くなったんですよ」

「契約してから? いつしたの?」

「三日前くらいです」

「へー……」


 シエルの肩に乗っているキョースケを見る。


 ……可愛い。

 じゃなくて。


 なんとなく強いとは思っていたけど、そんなに強いとは思っていなかった。


 魔物と契約して互いの力を分け与える。

 そのときに、弱い方の力が格段に上がることがある。

 普通はその場合、魔物の方が上がることの方が多いが、この二人にはそれが当てはまらない。


 三日前までD級の冒険者だった彼女が、いきなりB級以上の実力を持つようになった。

 力が上がるといっても、そんなに上がることも聞いたことがない。


「……キョースケ」

「キョー?」


 アイリが呼びかけると、そんな鳴き声で返事をする。


 ……可愛い。

 じゃなくて。


「あなたも私に自己紹介をしてほしい」

「キョ?」

「キョースケもするんですか?」

「シエルがそんなに強くなるほどのキョースケの力が気になる」


 S級冒険者ということだけあって、力量を測ることは得意だ。

 そして、力量を測ることが少し好きでもある。


 自分より強いとは思えないけど、確かめてみたい。


「大丈夫? キョースケ」

「キョー」

「いいですって」


 シエルが問いかけるとキョースケが一回鳴いて、そして通じ合う。

 昨日聞いたが、契約してからキョースケが何が言いたいかがわかるようになったらしい。


 アイリもキョースケの言葉の意味がわかりたいが、全くわからない。

 シエルがとても羨ましい。


「……」

「な、なんですか?」

「なんでもない」


 アイリがシエルを少し睨んだが、シエルにはなぜ睨まれたのかわからなかった。


 そしてシエルの肩からキョースケが離れ、空中に浮いている。


 アイリの数メートル先から、攻撃をするようだ。


「キョー」

「うん、いいよ」


 今のは「攻撃する」という意味の鳴き声だろう。

 簡単にわかる意味合いだったが、それが理解できて少し嬉しく思うアイリ。


 そして、キョースケの身体が揺らめく。


(っ! 翼が、炎になってる……?)


 元から体毛が真っ赤だったからわかりにくいが、翼が炎に変わって揺らいでいる。


 そして、その両翼から二本の炎の槍が飛んでくる。


(――速い、強い)


 一目見て先程のシエルの魔法より断然に強いとわかる。


 大きさはほとんど同じだが、その威力と貫通力は全く違う。


(――くっ)


 少し焦ったが、落ち着いて先程と同じ魔法をアイリも放つ。


 同じ魔法だが、アイリも魔力をさらに込めて放った。

 当て方も真正面から。

 下から上に当てるなどという細かい操作をする暇がなく、ただ力押しで負けないように。


 だが――。


(負ける)


 一瞬だけ拮抗した炎と風だったが、炎の威力と貫通力が優った。


 そして、アイリの目の前は炎に埋め尽くされた。



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