第39話 ふふふ
あとがきを書いているのでよかったらご覧ください。
その後、ランク上げの手続きは済んで、無事にシエルはB級となった。
「じゃあ、行こう」
アイリさんは僕を抱えたまま、ギルドの出口の方向を向いた。
「アイリ様待ってください! もう日も沈んでしまうので、夜は危ないです。なので調査は明日からお願いします」
「……わかった。じゃあ明日の朝、ここで」
カリナさんの言葉を受けて、アイリさんは僕とシエルに顔を向けてそう言った。
「わかりました」
「キョー」
「……」
「な、なんですか?」
アイリさんはシエル、というより肩に乗っている僕をじーっと見てくる。
「……貸して?」
「ダメです!」
アイリさんが両手を開いて僕を呼ぶようにそう言ったが、シエルが強い口調で断った。
奪われないようにするためなのか、シエルは僕を胸に抱き寄せた。
いや、僕も行くつもりはないからそんなに抱きしめないでも良いと思うけど……。
「一晩だけ。それだけあれば調教できるから」
「調教ってなんですか!? なおさら貸しませんよ!」
いや、本当に調教って何?
怖すぎるんだけど……。
ガッカリしたように広げていた手を下げて、少し考え込むアイリさん。
「……じゃああなたの家に泊まらせて」
「えっ、いや、それも……」
「お金ならある」
「一人暮らしじゃないですし……」
「一緒に住んでいる人に説得させて」
「……お姉ちゃん」
シエルは自分じゃ判断ができないと思ったのか、助けを求めるようにカウンター内にいるカリナさんに話しかけた。
「お姉ちゃん……? あっ、じゃあ一緒に住んでいる人って」
「はぁ……はい、私がシエルちゃんの姉のカリナです」
察したアイリさんに隠し通すのは無理だと思ったのか、ため息をつきながらそう言ったカリナさん。
アイリさんはカウンターから身を乗り出して詰め寄る。
「お金ならある。部屋がないというなら物置でもいい、廊下の冷たい地面で寝てもいい」
「いや、その……」
「なんなら今回の依頼、完全に無償で受けてもいい。だからお願い」
「わ、わかりました! 部屋は空いていますし、宿の一泊ぐらいの値段を払って頂けるなら大丈夫ですから!」
顔と顔がくっつきそうなくらい詰め寄っていたので、カリナさんはどもりながら了承した。
「……ありがとう」
少し口角を緩めてニヤついてそう言ったアイリさんだったけど、すぐに無表情に戻った。
「じゃあシエルちゃん、案内してくれる? 私は多分夕飯時ぐらいには帰れるから」
「わかったよ。アイリさん、ついてきてください」
「うん……抱かせて?」
「……キョースケが良いって言うなら」
「キョー……」
今の鳴き声は「良いよ」という意味を持っておらず、「なんか怖いなぁ」みたいな意味で声を上げたのだが。
「ありがとう」
とアイリさんは言うと、目にも留まらぬ速さでシエルの肩にいた僕を抱き寄せた。
さ、さすがS級冒険者……なんて速さだ。
魔法使いだから肉体の速さはそれほど速くないだろうと思っていたけど、違うみたいだ。
いや、そんなことを感心してる場合じゃないか。
良いよって言ってないんだけどなぁ……。
「もふもふ、ふわふわ」
僕のことを撫でながらそう呟いているアイリさんから、抜け出すのはなんだか忍びない
まあ家までだから、このままでいいか。
僕も撫でられるの嫌いじゃない、どっちかって言うと好きだし。
「じゃあついてきてくださいね」
「うん」
「キョー」
「ふふふ……」
僕の鳴き声にアイリさんが軽く微笑みながら、僕たちはギルドを出て家に向かった。
ずっと撫でてくるから目の前を歩いているシエルを見失うのでは、と思っていたが、さすがにそれは無く普通にアイリさんはついていった。
そして家に着き、中に入る。
シエルが夕飯を作ってる間、アイリさんは僕をずっと抱きしめながら撫で続けた。
「キョー……」
「ふふふ……」
カリナさんが帰ってきて夕飯になっても、僕を膝の上に置いて一緒に食べる。
食事も僕に食べさせてくる。
「キョー……」
「ふふふ……」
お風呂も一緒に入る。
結構大きいお風呂なので、シエルも見張りとして三人……いや、二人と一匹で入った。
特に見張りの意味はなかったけど、僕はされるがままにアイリさんに身体を洗われた。
「キョー……」
「ふふふ……」
寝るときになり、アイリさんが僕をそのまま寝室に連れていこうとしたところで、待ったをかけるシエル。
「私が一緒に寝るんです!」
「ヤダ、私が寝る」
「そこは譲れません!」
「私も譲れない」
「……勝負です」
「望むところ」
いきなり二人は目が本気になり、シエルに関しては昼間に一緒に戦っていた戦闘の緊張感を出していた。
もしかして、ここでいきなり戦うの!?
いや、それはさすがに……!
「じゃん、けん」
「ぽい!!」
ジャンケンかい!
戦闘するんじゃないかと思って驚いた……。
横を見たらカリナさんもそう思ったのか、安堵のため息をついている。
「勝った」
「ああ、負けちゃった……!」
どうやらアイリさんが勝ったようだ。
シエルは膝をついて落ち込んでいる。
「こう見えても、私はジャンケンは強い」
「くっ……!」
いや、どう見えてなのかわからない。
ジャンケンが強そうとか弱そうとか見ただけじゃわかりませんけど。
「今日は私の勝ち、この子はもらっていく」
「キョースケ……! ごめんね……!」
いや、今世の別れじゃないんだからそんなに悔しそうにしなくても……。
「何をしてるんだか……」
カリナさんのその言葉に、とても共感した。
そしてその後、僕はアイリさんと一緒に寝たのだった。
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まだ情報を公開しちゃいけないので、書籍化企画進行中!ということだけお伝えします!
皆様の応援のお陰です!ありがとうございます!
これからもよろしくお願いいたします!