第38話 ランク上げ
「この子達と一緒に依頼を受ける」
「えっ……?」
「キョ?」
アイリさんの言葉に、僕とシエルが疑問の声を出した。
いきなりそんなことを言われて、とてもビックリだ。
結構ワガママな人なんだな、アイリさんって。
いや、まあさっきの行動を見てたらそんな気はしたが。
「駄目です」
アイリさんのいきなりの言葉に、カリナさんが冷静にそう答える。
「なんで?」
「この依頼はとても危険を伴うものです。だからS級冒険者の貴方をお呼びして特別依頼として出しているのです」
あ、ギルド長のカリナさんがS級冒険者のアイリさんを招集したんだ。
ギルドにいる冒険者のほとんどが、いきなりこのギルドにS級冒険者が来て驚いていた。
だけど、そんな危険な依頼ってなんだろう?
「森の調査だけなら、そんな危険だとは思えない」
あ、アイリさん言っちゃった。
森って、前にオルヴォさんと一緒に行ったところだよね?
「その森が、今危ない状況かもしれないのです」
「確か、ガルーダが出てきたとか?」
「はい、そうです。今だとA級に分類される魔物です」
A級の魔物のガルーダって、僕が倒したあの炎吐く鳥だよね?
あれって、そんな危険な魔物だったんだ。
「もともとB級の魔物が、黒雲のせいでA級になっただけでしょ? そこまで騒ぐことじゃない」
「貴方にとってはそうかもしれませんが、この街にとっては大変な事態です」
あの魔物が、大変な事態?
どういうこと?
「今はまだ被害は出ていませんが、ガルーダのような魔物に一体でも街まで来られたら、それだけで大きな被害になってしまいます。だからその前に、あの森がどんな状況か調べてきてほしいのです」
「依頼の内容はわかっている。だから、この子達を連れていっていい?」
「いけません!」
無表情で僕を指差して連れていきたいと言っているアイリさんだが、カリナさんは首を縦に振らない。
「飼い主のシエルも一緒にいるのに?」
「シエルが一緒にいるから駄目なんです! こんな危険な依頼に、D級冒険者を連れていくなんて!」
「D級? B級じゃなくて?」
「はい、シエル・クルームはD級です」
シエルの冒険者ランクを聞いて、アイリさんが少し目を見開いた。
「おかしい。強さとランクが釣り合っていない。最低でもB級はある」
その言葉に一番驚いたのはシエルだった。
「えっ、なんで、そう思うんですか……?」
「見れば大体の強さはわかる」
シエルの質問にそう言い切るアイリさん。
さすがS級冒険者だ。
まあ僕もなんとなく強さはわかるけど。
「私は魔法使いだから、魔法使いの実力を見抜く目には自信がある。実力的にはA級、経験が無いとしてもB級が妥当」
「っ! ありがとう、ございます……!」
「? お礼を言われることはしていない」
シエルのお礼に、アイリさんは不思議そうに首を傾ける。
だけど僕とさっき話したシエルの目標。
それがシエルのお兄さんと同じA級冒険者になって、黒雲を調査すること。
さっきもオルヴォさんに実力を認められて喜んだけど、やっぱりS級冒険者のアイリさんにも認められたのはとても嬉しいようだ。
今はまだ経験が無いからB級ぐらいの実力だが、経験を積んでいけばA級になれる。
それを最高の冒険者ランクの人に保証された。
シエルの目標、いや、僕たちの目標は近づいてきている。
「実力者を低いランクにしておくのは、ギルド側も痛いはず」
「ですが……規則ですので」
さっきまで依然としていたカリナさんの強気な態度が、アイリさんの説得に崩れ始めた。
「不利益にしかならない規則なんて、捨ててしまえばいい」
「うっ……」
アイリさんのその言葉に、カリナさんがたじろいで声を上げた。
お、おお、なんか名言っぽい言葉が出てきた。
さっきまで僕を抱きかかえて、「もふもふ」なんて言っていたアイリさんが嘘のようだ。
「じゃあ、この子を私の推薦でB級にする。これなら規則通り」
「っ!」
「S級冒険者の権限なら、できるはず」
そ、そんなことできるの!?
S級冒険者って優遇されてるなぁ。
「で、ですが……!」
「お姉ちゃん」
カリナさんはなんとか応えようと口を開いたが、シエルの呼びかけに止まった。
「シエルちゃん……」
「私、強くなったよ。この強さは、キョースケと契約したから得た力だけど、もっともっと使いこなすから。だから、大丈夫だよ」
「何が、大丈夫って……?」
「アル兄みたいに、いなくならないから」
「っ!」
シエルのその言葉に、カリナさんは身体をビクッと震わせて驚いている。
「あるにい……?」
「キョー」
「っ! ふふふ……」
アイリさんが余計なことをしないように、僕はシエルの方から離れアイリさんの下へ。
僕に夢中になって、アル兄という単語の意味をアイリさんが質問をせずに済んだ。
僕は聞いたけど、あんまり人に話すようなことではないだろうし。
アイリさんの腕の中で、二人を見守る。
カリナさんとシエルは、真剣な眼差しで見つめ合っている。
二人だけがわかる、目だけの会話をしているようだ。
「……はぁ、わかりました、推薦を承諾します」
カリナさんが根負けしたようで、ため息をつきながらそう言った。
「ありがとう、お姉ちゃん」
「規則、だからね」
シエルは満面の笑みで、カリナさんは苦笑気味にそう言った。
それからカリナさんはシエルのランクを上げるために、ギルド内へと引っ込んで手続きの準備をし始めた。
そして書類を持ってきて、そのままカウンターでシエルのランク上げが行われた。
「もふもふ、かわいい……」
「キョー」
その間、アイリさんは口角を少し緩めながら僕をずっと抱き続けた。
隔日投稿になっていきますが、よろしくお願いいたします。