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第37話 子供と同じ?


「えっと、その……」


 シエルが僕を見て、困ったように笑っている。


 さっきまで僕はシエルの肩に乗っていたはずなのに。

 だからシエルの顔は正面から見ることができなかったが、今は正面から見れている。


 それはなぜか、答えは単純。


「ふわふわ……」


 初めて会ったS級冒険者の女性に、シエルの目の前で抱かれているからだ。


 先程、僕たちに凄い威圧感を持って近づいてきたと思ったら、用件は『僕を触らして』ということだった。


『えっ、あ、はい……?』


 女性からそう言われて、シエルがタジタジになってそう言った。


『ありがとう』


 そしたら、女性はシエルの肩に乗っていた僕を奪うようにして両手で抱えると、そこら辺の椅子に座って抱き始めた。


 シエルがタジタジになってたときに「はい」って一応言ってたけど、聞き直そうとしただけで、了承の意味はなかったと思う。


 それなのにいきなり僕を抱きかかえたS級冒険者の女性。


 僕を抱えてから何度も「かわいい」やら「やわらかい」など呟いているのだが、表情が全く変わってない。

 最初に見たときより口角は少し上がっているかもしれないが、気持ち上がっている程度だ。


 オルヴォさんの娘さんのリアナちゃんとほぼ同じ反応をしているのだが、表情が全然違う。


 というかここまでやられて名前も知らないのだ。


「キョー」

「っ! ふふふ……」


 あ、ちょっと笑った。

 どうやら僕の鳴き声を気に入ってくれたようだ。

 今まで鳴き声で違う意味で笑われてきたから、気に入ってくれたと思うと嬉しい。


 まあ今の鳴き声は、シエルに「この人の名前を聞いて」と言ったのだが。


「あの、お名前はなんていうんでしょうか?」


 目の前にいたシエルは、僕の要望通りにそう問いかけてくれた。


 女性はその質問を聞いて、首を傾げながらシエルの方に顔を向ける。


「……私?」

「あ、はい、そうです」

「アイリ」

「アイリさん……私はシエル・クルームです。よろしくお願いします」

「よろしく」


 S級冒険者の女性、アイリさんは短くそう言うと僕の方に顔を戻した。

 そして何かに気づいたようにハッとして、もう一度シエルの方を向く。


「この子は?」

「はい?」

「名前」

「あ、キョースケです」

「キョースケ……キョーちゃん」


 あ、リアナちゃんと同じ呼び方だ。

 やっぱりアイリさんはリアナちゃんと同じような感覚を持っているのだろうか。


「キョーちゃん、キョーちゃん」

「キョー?」

「ふふふ……」


 やっぱり僕の鳴き声が気に入ったようで、僕が鳴く度に口角を緩めている。


 切れ目でクールな印象を受けるが、少し微笑むと目尻が下がって優しい感じになる。


 S級冒険者っていうだけで強くて怖いと勝手にイメージしていたけど、全然違うみたいだ。


「あの、アイリ様。依頼の準備ができたのですが……」


 いきなり声をかけられてビックリしたが、気づいたら隣にカリナさんが立っていた。


 ギルド長であるカリナさんが下から言ってる感じだから、やはりアイリさんは凄い人なんだなってのがわかる。


「わかった」


 アイリさんはそう言われて立ち上がる。


「もう一度依頼をご説明するためにカウンターまでお願いします」

「わかった」


 そう話して、二人はカウンターの方まで歩いていく。

 カリナさんがカウンター内に入り、アイリさんがその前で話を聞く体勢になる。


「では、ご説明させて……いただく前に、その……」

「なに?」


 カリナさんは、アイリさんの腕の中を見た。

 というか、僕と目が合った。


「あの、キョースケ離してくれませんか!?」


 僕からは見えないが、後ろからシエルの声が聞こえてきた。


 アイリさんは僕を抱えたまま立ち上がり、そのままカウンターに来たのだ。


 僕は彼女の撫で方とかが気持ち良くて、なすがままに連れてこられてしまっていた。


「……なんで?」

「私の相棒です!」

「ちょうだい」

「ダメです!」


 おー、シエルがこんなに大声を出しているのを初めて見た。

 ……カリナさん以外に対して。


「ん? キョースケ君、何か言いたいことがあるのかな?」

「キョー!」


 なんでカリナさんは僕が言いたいことがわかったかのように、黒い笑顔でそう聞いてくるのだろうか。

 シエル以外僕の言葉はわからないはずだ、というか声に出してもいないのに。

 チラッとカリナさんを見ただけなのに。


「ふふふ……」


 僕が首を振りながら答えた声に、また反応して小さく笑うアイリさん。


「もう! キョースケ! 戻ってきて!」

「キョー!」


 シエルの怒りの矛先がこちらに向きそうなので、すぐに戻ろうとするが……。


「ダメ」


 先程より力を込めて僕を抱きしめてくるアイリさん。


 僕の身体がアイリさんの柔らかい身体の中に沈んでいく。

 服の上からだとわかりにくいが、アイリさんは意外と胸が大きいようだ。

 それがさらに身体の中に埋まっていく感じがして、苦しくなっていく……。


 そろそろシエルが本当に怒りそうなので、この抱擁を抜け出すことにする。


 僕は身体を炎に変える。

 アイリさんを怪我させないように一瞬だけ、そしてアイリさんに触れている部分だけを。


 その結果、アイリさんの身体をすり抜けて、後ろにいるシエルの下まで戻ることができた。


「えっ?」


 アイリさんはさすがに驚いたようで、自分の腕の中を確認してから後ろを振り向いて僕の姿を捉える。


「おかえりキョースケ」

「キョー」

「今のって?」

「秘密です」


 別に僕は秘密にするつもりはないんだけど、シエルがそう言うなら言わないでおこう。

 というか、僕の口からは言えないんだけど。


「依頼のご説明いたしますが、大丈夫でしょうか?」

「……」


 カリナさんの言葉に答えず、アイリさんは僕の方を無言でジーっと見てくる。

 おそらく睨んではないのだが、無表情だから威圧感が少しある。


 少し考えごとをするように顎に手を当てると、僕の方を指差してカリナさんに話しかけた。


「この子達と一緒に依頼を受ける」



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