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第35話 目標


 そろそろ暗くなってきたので、僕とシエルは帰ることにした。


 まだ草原を僕たちは歩いているけど、街に着く前にシエルに聞いてみたいことがある。


「キョー」

「ん? どうしたのキョースケ?」


 次の鳴き声に、質問を込める。


「キョー?」


 シエルとカリナさんが言う、アル兄って?

 黒雲となにか関係があるの?


「――っ!」


 僕の鳴き声を聞いて質問がわかったようで、シエルが息を呑んだのがわかった。


 この質問はおそらく、シエルを傷つけてしまうだろう。

 前にカリナさんとシエルの話で、アル兄という人物が出てきていた。


 そして、もういないということも言っていた。


 だけど、これを聞かないとシエルの抱えている何かを打ち明けてもらえないだろう。


 僕は知りたい。

 シエルがなぜ黒雲にこだわっているのか。

 シエルが何を抱えているのかを。


 僕が質問をしてから、街に帰ろうとしていたシエルの足が止まった。


「……やっぱり、気になるよね」


 シエルが下を向きながら、小さくそう呟いたのが聞こえた。


「……結構ある話だよ! 黒雲が出てその影響で凶暴になった魔物に、なんて!」


 そう笑って話すシエル。

 だけどその笑顔はいつもの明るいものではなく、無理しているせいか引きつっている。


「アルフィート・クルーム。それがお兄ちゃんの名前。強い冒険者で、オルヴォさんと同じA級冒険者だったんだよ?」


 さっきよりは少し自然な笑顔でそう言ったが、まだ暗い雰囲気がある。


「A級冒険者のお兄ちゃんと当時受付嬢だったお姉ちゃん。二人とも私の憧れだったなぁ。将来冒険者になるか受付嬢になるか迷ったよ」


 笑いながらそう話すシエル。

 だけど今、シエルは冒険者になっている。


「お兄ちゃんは、私を守って死んじゃったんだ。今でも、覚えてる。目の前で魔物の攻撃を受けて吹き飛んで、それで……」


 シエルは下を向いているから顔は見えないが、声が震えていた。


「キョー」


 もういいよ、シエル。

 辛いことを思い出させてごめんね。


 シエルは下を向いているから顔は見えないが、声が震えていた。


「ううん、大丈夫。時々、思い出さないといけないから」


 顔を上げて僕に笑顔を見せてくれる。

 それは悲しそうで、今にも涙がこぼれてしまいそうなものだった。


「お兄ちゃんが死んでから、私は絶対に冒険者になろうって思った。お兄ちゃんのように強くなって、それで黒雲を消すんだ。大事な人を失うなんていうことを、もう誰にも味わって欲しくないから」


 シエルは笑みを潜めて、空を見上げて黒雲を睨みながらそう言った。


 そうか、だから黒雲の依頼書を見ていたんだ。

 そんな目標があったから。


 すごいな、シエルは。

 大好きなお兄ちゃんが自分のせいで死んだと思ったら、すごい落ち込んで立ち直れなくなりそうだけど。

 それでもシエルは立ち上がって、そんな強い思いを持って今冒険者をやっているんだ。


「だけど私には、お兄ちゃんみたいに才能がなかった。剣の才能も、魔法の才能も。A級冒険者なんて、夢のまた夢だった。でも……」


 シエルはそう言って僕の方を見て笑った。

 今度は本当に嬉しそうに。


「キョースケが私と契約してくれたから、魔法が強くなった。この魔法の力があれば、A級冒険者だって夢じゃない。A級冒険者以上の人達は、国の調査隊と一緒に黒雲を調査できるんだ」


 そうなんだ、じゃあお兄ちゃんと同じA級冒険者を目標にしていけば、黒雲の調査をできるってことか。


「だからキョースケ、私と一緒に、黒雲の調査を目指して一緒に戦ってくれない? キョースケと一緒だったら、もっと強くなれると思うし、頑張れるから!」


 僕の目を真剣な目で見つめて、そう頼み込んでくるシエル。

 僕も話したいことがあるので、一度肩から降りて地面に立つ。


 シエルは僕と目線を合わせるために、しゃがんでくれる。


「キョー」


 僕の夢はね、空を飛びたいんだ。


「飛びたい? だけどキョースケは、飛んでるでしょ?」


 そう、飛んでる。

 だけど、飛びたい場所が違うんだ。


 僕は青い空の下を飛びたいんだ。


 今空を飛んでも、どこを見ても真っ暗。

 青い空は見えずに、地平線は暗くて見えない。


 僕はもっと明るい世界になって、綺麗な空になった時に飛びたいんだ。


「そうなんだ……ふふっ、なんか面白いね。キョースケは鳥なのに、夢が空を飛びたいって」


 あはは、僕も自分でおかしいって思うよ。


 僕の変な夢を叶えるためには、あの黒雲は邪魔なんだ。


「っ! じゃあ……!」


 黒雲の調査することを目指すんじゃなくて、黒雲を晴らすことを目指そうね。


「うん! もちろん! ありがとうキョースケ!」


 シエルは笑顔で浮かべながら僕に抱きついてきた。


 ちょっと苦しいけど、今は言わないでおこうかな。


「一緒に、黒雲を晴らそうね!」

「キョー!」


 こうして僕とシエルは、一緒に目指すべき目標を掲げた。



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