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第34話 加減の練習


 昨日の夜のことを思い出したけどそれを忘れて、壁に貼ってある依頼を見ていく。

 今日は僕とシエルの二人でも行ける魔物の討伐依頼とかがあるようだ。


「……」


 だけどシエルは、何度もあの依頼書を見る。

 『黒雲を、調査せよ』という依頼書を。


 肩に乗っている僕は何と無くシエルの視線がわかる。

 だからあの依頼書をチラチラ見ていることに気づく。


 おそらくだけど、シエルは黒雲の影響のせいで何かあったのだろう。

 そしてそれは、シエルとカリナさんが言う「アル兄」という人に関わっている。


「キョー」

「あ……ご、ごめんね、ちょっとぼーっとしちゃってた」


 シエルは今度こそしっかりと僕たちに合う依頼を探していく。

 僕はあの黒雲の依頼書以外は読めないから、シエルに任せるしかない。


 そして草原の魔物の討伐依頼を見つけ、それを受けることになった。

 ギルドで手続きをしてから、僕たちは街を出て草原に向かった。



「『火球ファイアーボール』!」


 シエルが右手を前に掲げてそう唱えると、火の玉が敵に向かって飛んでいった。

 その玉は人の頭くらいの大きさで、特段大きくはない。


 敵はシエルが前に追われて逃げていたグレイウルフ。

 僕と契約する前は負けることが確実で、逃げるのも出来ずにやられる一歩手前までになった敵だ。


 火の玉は大きくはないがスピードは速く、数メートル離れているグレイウルフは避けられずに直撃した。

 すると、爆発するような形で炎が増大し、グレイウルフの身体を包み込んだ。


 炎が無くなると、そこには丸焦げになったグレイウルフの死体があった。


「うーん、難しいなぁ……」


 シエルはその死体を眺めながらため息をつく。


 僕は空中に飛んでいたので、シエルの肩に着地する。


「やっぱり丸焦げになっちゃうよ。手加減って難しいんだね」


 シエルは今、手加減の練習中だった。


 契約したことによって強くなった魔法。

 それはもう僕たちが思っていたより強くなっていて、今まで倒したこともなく逃げることもできなかったグレイウルフに手加減するほどだ。


 特にシエルの魔法で強くなったのは、炎の魔法だった。

 やっぱり僕が炎が得意、というか炎しか使えないから当然なのかもしれない。


 グレイウルフを丸焦げにしてしまったけど、これでも最初よりは上手くなった方だ。

 最初はまだ自分の魔法の強さがわかっていなかったから、グレイウルフに怯えて本気で魔法を放った。

 そしたら、骨も残らなかった。消し飛んだ。


 僕と同じように魔物を消し飛ばすほどの威力を持った炎の魔法。

 なんとなく炎に関することだったらわかるから、多分僕の方が炎を扱ったら強いけど。

 それでも今まで倒せなかった魔物を消し飛ばすほど強くなったから、十分だと思う。


 さて、これだけ強くなったけど、昨日と同じ問題が出てきてしまった。

 魔物の討伐依頼を達成するには、討伐証明する部位を持って帰られないといけない。

 シエルが炎で攻撃すると、その部位が消し飛んでしまうのだ。


 まあ、これはシエルが別に炎じゃなくて風魔法を使えばいいと思いついたので、すぐに解決したけど。


 で、討伐依頼はもう達成するほど魔物を倒したから、今は炎魔法の手加減の練習中なのだ。


「キョースケはすぐに上手くできてたのにね」


 シエルの言う通り、僕も練習をしてみた。

 昨日は僕も手加減ができずに消し飛ばして、魔物討伐依頼の証明する部位を残せなかった。


 だから僕は考えた。

 そして、素晴らしいアイディアが思いついた。


 あ、じゃあ証明する部位以外を消し飛ばせばいいじゃないか。


 グレイウルフだったら、耳を残せばいい。

 ということは、頭以外は消し飛ばしてもいいということだ。

 だからグレイウルフと戦う場合は、頭を残して身体全てを炎で消し飛ばす。

 そうすれば相手を殺しつつ、耳を残せるのだ。


 完璧な作戦だ、自分で自分を最高に褒めたいくらいだ。


 シエルも最初は僕と同じようにやろうとしてたけど、正確に身体だけを消し飛ばせるほどの炎の操作ができなかった。

 炎の操作では僕には及ばないみたいだね。

 まあ炎は僕の身体の一部みたいなものだから、当然か。


 ということで、シエルは炎の強弱を身に付けようとしているのだ。


 だけどやっぱり上手くいかずに、相手を丸焦げにしてしまっている。


「キョースケ、なんかコツとかないの?」


 うーん、そう聞かれてもなぁ。

 僕も実際、加減なんて出来ないし。

 加減が出来ないからこそ、証明する部位以外を消し飛ばすという力技を使っているわけで。


 だけどちょっとは助言はしときたい。

 炎を扱う先輩としてね。

 前世でも僕が何かを誰かに教えることなんて無かったから、教えてみたいのだ。


「キョ、キョー!」


 身振り手振りで僕なりの炎の扱い方を教える。


 これがシエル以外だったら僕の言葉がわからないから難しいけど、シエルなら僕の言葉がわかっているから教えることが出来ると思う。


 炎を扱うときは、まずグッとやってからガッと出す感じで。

 で、そこからグーっと溜めて、一気にバッとやる感じで出すとワーってなる。


 ってことを言いながら身振り手振りで教えてみた。


「意味わからない、何言ってるの?」

「キョ!?」


 えっ!? 言葉通じなくなっちゃった!?


「いや、言葉はわかるけど意味がわからない」


 何それ、哲学かな?


 僕の必死の助言も虚しく、シエルは自分なりに炎の魔法の練習をしていった。



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感覚でやってのけるヤツの悪い癖よな ガーッとかグワーとかね
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