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第32話 シエルは激怒した


 翌日、僕達はまた冒険者ギルドに来ていた。


 僕達はギルドの中で辺りを見渡す。

 ある人を探しているからだ。


「キョー」

「えっ、あ、いた」


 肩に乗っている僕がその人を見つけて、シエルに声をかける。

 そしてその人に近づいていく。


「オルヴォさん!」

「ん? おお、嬢ちゃんとキョースケ。昨日はありがとうな」

「こちらこそ! とても楽しかったです!」

「キョー!」


 オルヴォさんも朝早いが、笑顔で答えてくれる。


「ティアナもリアナも喜んでいた。また来てくれよな」

「はい、ぜひ!」


 シエルも楽しそうに笑っている。

 昨日、帰った後のことが嘘のようだ。


 オルヴォさんの家で夕飯をご馳走になった後、シエルの家に帰った。


 そこで目にしたのは……ソファで裸同然の姿で、酒を片手に寝ているカリナさんの姿だった。


 おそらく、シエルが夕飯の時に帰ってこなかったので、酒を浴びるほど飲んだのだろう。

 部屋中お酒臭かった。


 その姿を見て、帰り道の時に僕と一緒に「楽しかったね、また行きたいね!」と話して楽しそうだったのが嘘のように、無表情になったシエル。


 僕がゆっくりと肩から離れると、シエルは料理場に行った。

 何をするのかと思ったら、冷水を鍋の器に入れ始めた。


 そして満タンになると、それを持って寝ているカリナさんに近づき、ぶっかけた。


「キャァ!? なに、冷たい!?」


 さっきまで熟睡してたとは思えないほどの俊敏さで起き上がり、辺りを見渡すカリナさん。

 そして、目の前に立っているシエルを見て青ざめる。


「シ、シエルちゃん……お、おかえりなさい」

「……ただいま」


 カリナさんの狼狽えた姿を冷たい目で見ているのが怖すぎる。

 しかもカリナさんはまだソファに座っている状態だから、シエルは体勢的に見下す形になる。

 冷たい目で見下されるのは、さらに恐怖だろう。


「お姉ちゃん」

「は、はい、なんでしょう」

「何か言うことは?」

「すいませんでした!」


 綺麗な土下座だ。

 土下座、と本で調べたらカリナさんのこの体勢が出てくるぐらい。見本のような綺麗さだ。


 僕は少し離れたテーブルに着地して、二人の様子を見ていた。


「私とキョースケはお風呂入るから。その間に全部片付けてね」

「えっ……いや、そんな短い間じゃ片付けられな――」

「お姉ちゃん?」

「あの、その……」


 正座をしているカリナさんを見下ろすシエル。

 なんだろう、なぜかとても絵になる。

 絵画にして売ったら結構の値段がすると思う。


「できるよね?」

「で、できます! 頑張ります!」

「うん、よろしい。長湯してあげるから、頑張ってね」

「はい!」


 あれ、シエルが妹だよね?

 カリナさんが姉だよね?

 逆だったっけ? 多分合ってると思うけど、この光景を見ると立場が逆に見える。


 その後、僕はシエルと共にお風呂に入った。

 言った通りに、シエルは僕の身体を隅々まで洗ったり、お風呂に入って一緒に雑談したりと、結構長いこと入っていた。


 そしてお風呂から上がり、リビングに向かう。


 片付け終わったかな……?

 あんだけ散らかっているのをそんな短時間に片付けられるかな?

 もう怒られるのは僕も見たくないから、終わってるといいけど……。


 シエルがリビングのドアを開け、中に入る。

 肩に乗っている僕も入って、辺りを見渡す。


 お、おお?

 片付いてる! すごい!


 さっきまで床には服や食べ物のカス、テーブルにはお酒などが散らかっていたが、今はそれらが無くなっている。


 そしてソファには下着姿で息を切らしているカリナさんが座り込んでいた。


「あ、危なかった、ギリギリだった……!」


 カリナさんはシエルの姿を見てそう呟いた。


 やっぱりやればできるんだね。

 まあ、冒険者ギルドのギルド長をしている人だから、このくらいはできるのは当たり前か。

 むしろ、あれだけ散らかすというのがおかしいのかもしれない。


 シエルは本当に綺麗になってるか確認するように、部屋を見渡し歩き回る。

 肩に乗っている僕も必然的に、一緒になって部屋を見ていく。


 そして料理場に近づく。


 えっ、あっ、うわっ……。


 料理場の、ここはシンクというところだった気がする。

 そこにはさっきまでテーブルに散らかっていたお皿やらコップが無造作に放り込まれていた。


 リビングに入ってきた時にはここは見えなかったけど、ここまで来てようやくこの惨状がわかった。


「……お姉ちゃん、これは?」

「食器とかだけど?」


 なんでそんなこと聞くの? とでもいう風に首を傾げながら答えるカリナさん。


「私、全部片付けてって言ったよね?」

「えっ!? まさかそれも!? だって、いつも皿洗いとかはシエルちゃんが――」

「お姉ちゃん?」


 ああ、とてもいい笑顔だ。

 だけど、こんな場面でシエルのそんな純粋そうで不純な笑顔を見たくなかった。


「……ごめんなさい」

「私とキョースケは寝るから、片付けといてね」

「あの、私明日大事な会議が朝からあるから、その……」

「できるよね?」

「……できます、がんばります」


 なんかさっきも同じような光景を見た気がする。


 そして僕とシエルはすぐに寝て、カリナさんは皿と戦い続けた。



 今日の朝、僕達が起きた時にはもうカリナさんはいなかった。

 昨日のように服は散らかっていたけど、お酒などはさすがに飲まずに行ったらしい。


 時間がなかったのか、それとも本当に大事な会議があったのか。

 どっちだかわからないけど、今後もこんなことが続くんだろうなぁ、とは思った。



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