第28話 ガルーダ
シエルの目の前にはさっきも出会った魔物、オークがいる。
先程は咄嗟に魔法を放ったら、予想以上の攻撃力が出て一撃で倒せてしまった。
しかし今は先程とは違い、オークが二体いる。
一体に集中していたらやられてしまう可能性がある。
だが違うのはもう一つ。
「嬢ちゃん! 魔法は放てるか!?」
シエルの前にはA級冒険者のオルヴォがいる。
「はい、いけます!」
「じゃあ俺がこっちを相手するから、嬢ちゃんはもう一体をさっきみたいに吹っ飛ばしてくれ!」
オルヴォはそう指示をすると、二体の内の一体の足をぶった斬る。
足が一本になったオークは痛みからか、呻き声を上げながらその場に倒れこむ。
そのオークはオルヴォを狙って、シエルには見向きもしなくなった。
もう一体のオークはそのままシエルの方へ来る。
昨日までのシエルでは、オークなど倒せはしなかっただろう。
せいぜい足止めする程度ぐらいだ。
しかし、今は違う。
キョースケと契約したことにより、自分でも思わなかったほどに力が上がっている。
(キョースケ……! 力を貸して!)
心の中でそう思うことにより、さらに魔力が上がるような感覚がある。
今キョースケは上空でこのオークより強い魔物と戦っている。
早く倒して、助けにいかないと。
魔法が使える自分なら、手助けはできるだろうとシエルは考えていた。
そして、溜まった魔力を解放し魔法を放つ。
「『風刃』!」
先程同じ魔物を倒した魔法とは違い、今度は風の刃をオーク目掛けて飛ばす。
シエルの髪が一瞬ふわりと浮かび――オークの身体が真っ二つに裂けた。
完全に上半身と下半身に分かれ、そのまま地面に倒れ伏す。
「すごい、斬れ味が上がってる」
この魔法はこんな大きな魔物を斬れる程強くはなかった。
細い木の枝なら斬れる、樹木だったら少し切傷ができる程度だったはずだ。
「これなら……!」
今まで自分が弱かったから、姉のカリナに止められていた。
だが、これだけ強かったら説得できるかもしれない。
「嬢ちゃん、終わったようだな」
「あっ、はい、終わりました」
ちょっと違うことを考えていてぼうっとしていたが、オルヴォに声をかけられてハッとして返事をした。
オルヴォの後ろにはもう一体のオークの死体があった。
足が一本になっていて、腕も両方斬られている。
そして頭が落とされて死んでいるようだ。
A級冒険者らしく、特に危なげもなく殺していた。
「あとは……あいつか」
「っ! そうだ、キョースケ!」
自分の魔法の威力に驚愕し、忘れてしまっていた。
急いで上を向くと、まだキョースケとガルーダは追いかけっこをしている。
しかしここからでもわかるぐらい、本当にギリギリまでガルーダが迫っていて、すぐに捕まってしまいそうだ。
体長の差があるので、キョースケが捕まってしまったら危ないと思われる。
するとガルーダが口を大きく開いたのが見え、そこから赤いものが漏れて――その赤いものが、キョースケを覆った。
「えっ……!?」
「なっ! モロに食らったぞ!?」
「っ! キョースケ!」
オルヴォは知っていたが、ガルーダは火を吐く。
その炎は人を軽く覆うぐらいの大きさで、直撃したら大火傷じゃすまない。ほぼ即死だ。
ガルーダが吐いた炎が、キョースケを完全に覆ってしまった。
「そんな……!」
炎からキョースケが出てこない。
さっきまで飛び回っていたので、避けていたらもう見えているはずだ。
つまり、避けられずに炎を喰らってしまったということだ。
「……おかしいぞ」
「えっ?」
シエルが絶望しながら空にまだ存在している炎を眺めていると、オルヴォがそう呟いた。
「炎が無くならない。いくら強力な炎でも、あんなに炎が空中で燃え続けることはないだろう」
そう言われてみると、確かにあの炎は全く収まることなく燃え盛っている。
普通ならすぐに消えてなるはずなのに。
すると、炎は消えていくとは逆にもっと大きくなり始めた。
人間を一人を覆うぐらいの炎が、一気に五人ぐらいを覆う程の大きさになった。
その炎は黒雲中に、真っ赤な太陽があるように錯覚するほどだ。
そして大きくなった炎は、ガルーダへと向かって動き出した。
速度も結構出ていて、目の前でいきなり大きくなった炎を呆然と眺めていたガルーダは避けられなかった。
大きくなった炎はガルーダを包み込んだ。
下から見ていたシエルとオルヴォにはガルーダの姿は全く見えなくなった。
そして、数秒後に真っ黒な物体が落ちてきた。
なんとなくその物体の大きさでわかるが、ガルーダが黒焦げになって落下したのだ。
まだ空中に浮かんでいた炎はだんだんと小さくなっていき、無くなるとその中にずっといた小さな影が見えた。
その小さな影は地上に降りてきて、シエルの方に飛んできた。
「キョースケ!」
シエルは無事に帰ってきたキョースケを正面から抱きしめる。
とても暖かく、生きているという生命の暖かさを感じる。
「大丈夫!? 怪我はない!?」
「キョ、キョー」
「よかった! 本当に……!」
シエルの目には涙が少し浮かんでいた。
自分がオークを倒してぼうっとしていたから、キョースケを助けられなかったと思っていたのだ。
「はぁ、冷や汗かいたぜ。そういえばお前、身体が炎に変わるんだもんな。炎効かないのは当然と言えば当然か」
「キョー」
キョースケはその通りだ、と言うように鳴き声を上げた。
「しかし……ガルーダは結構珍しくて、特別報酬が出たり良い素材になったりするんだがな」
オルヴォさんは近くに落ちてきた、黒炭になったガルーダを見ながらそう言った。
「やっぱりお前は冒険者には向いてないな、キョースケ」
「キョー……」
シエルに抱かれたまま、力なく返事をしたキョースケだった。
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