第27話 森の前での戦い
周りを警戒しながらも軽い雑談をして歩いていると、森が見えてきた。
「ここら辺だと時々B級の魔物が森から出てくるからな。稀にA級の奴も来る。B級が三体以上、A級の魔物が出てきたら即撤退だ」
「わかりました!」
シエルは元気よく返事をする。
A級冒険者のオルヴォさんだが、一人でA級の魔物を相手取るには少し厳しいらしい。
それに今はまだ手を組んで間もない僕達と一緒だから、中途半端な連携は余計に戦闘を難しくさせるようだ。
ここからは慎重に、森から出てくる魔物を見逃さないように警戒して進んでいく。
森の直前まで近づくと、魔物が一体出てきた。
その魔物は鳥の形をしていて、結構大きい。
羽ばたきながら森から姿を現し、こちらの様子を眺めるように空中で止まっている。
「あれは、ガルーダだ!」
オルヴォさんが剣と盾を構えながらそう言った。
初めて見た魔物だけど、なんか既視感があった。
あの魔物、なんか……。
「キョースケに、似てるね」
「キョ」
そう、シエルの言う通り、僕に少し似ているのだ。
僕より少し、いや、だいぶ大きい鳥なんだけど、色とか姿が似ている気がする。
だけど僕は鮮やかな赤だけど、あっちは赤黒い感じ。
僕の方が多分綺麗だね、うん。何を勝負しているのかわからないけど。
「何呑気なこと言ってるんだ! あれはA級の魔物だ!」
オルヴォさんが僕達にそう怒鳴ると、突如ガルーダがこちらに向かって飛んできた。
――速い!
「えっ、きゃっ!」
シエルに向かって突撃してきて、シエルは悲鳴を上げながらギリギリ避けたがその場に倒れこんでしまう。
「すぐ立ち上がれ! ガルーダは狙った奴をずっと攻撃する!」
オルヴォさんがそう言って、倒れているシエルの前に盾を構えて立つ。
シエルも言われた通りにすぐに立ち上がった。
僕はそれを目の端に捉えているが、今はそれどころじゃない。
多分オルヴォさんの言うことは間違いないのだろう。
この魔物、ガルーダは狙った相手を攻撃し続ける。
そして今回は、その狙った相手が僕だったということだ。
「キョースケ!」
下でシエルの声が聞こえた。
今僕は、空中でガルーダと追いかけっこをしている。
僕の後ろをずっとついて来るガルーダ。
さっきのシエルへの突撃は、肩に乗っている僕に向かって飛んできたものだった。
A級の魔物とだけあって、とても速い。
あの黒いドラゴンを上回るほどのスピードをつけた僕と同等、いや、それ以上だ。
さっきから僕は旋回したり、急に止まったりして避けている。
そうしないと追いつかれてしまうからだ。
つまり、こいつの方がスピードは上だ。
鬼ごっこなんてほとんどしたことないからどうやって避けるのかわからないけど、なんとなく本能で避けている感じだ。
「嬢ちゃん! あいつの心配は後だ! またオークが来やがった!」
オルヴォさんのそんな言葉が聞こえ、下を見てみると確かに森の方からオークが出てきていた。
しかも、二体。
あれではこっちを手伝うことはできないだろう。
それにあのオークがいなくても、こっちは完全な空中戦。
地上からでは魔法も届くかわからないほど遠い。剣なんて投げても当たるわけない。
「でも、キョースケが……!」
シエルはオークの方を見ながらも、僕の方をチラチラと見ている。
あれでは逆に、あっちが危なくなってしまう。
「キョー!!」
「っ! キョースケ……!」
僕は飛び回りながらシエルに届くように大きな鳴き声を上げる。
シエルには僕の鳴き声の意味、「こっちは大丈夫」という言葉がわかったはずだ。
「嬢ちゃん!」
「は、はい! キョースケ! 頑張ってね!」
「キョー!」
またも大きく返事をして、僕もこっちの魔物に集中する。
逃げてばかりじゃ何も始まらない。
あっちの方がスピードは上だけど、攻撃力はどうかな。
僕は飛びながら翼を炎に変え、後ろにいるガルーダに向かって放つ。
しかし、あまり狙って撃てなかったので簡単に躱されてしまった。
くそ、こんなに高速で動きながら炎の槍を放ったことはないから難しい。
そんなことを考えながら後ろを振り向くと、ガルーダがすぐ近くまで迫っていた。
また急旋回して避けようと思ったが――。
後ろにいるガルーダが口を開けて、口内に赤いものが見えた。
……えっ、あれって。
そして――目の前が真っ赤に染まった。