第26話 強さ
「オラァ!!」
オルヴォさんが魔物に向かって剣を振るう。
相手は昨日シエルを襲っていた四足歩行の魔物、グレイウルフという名前らしい。
結構な速さで迫ってきて飛びついてきたが、オルヴォさんはしっかりと合わせて剣を振り斬り裂く。
グレイウルフの頭と身体が離れて、地面へと落ちた。
魔物にも冒険者のようにランクがあるらしく、このグレイウルフは元はD級、今は黒雲の影響を受けてC級のようだ。
黒雲は魔物に強く影響するようで、とても凶暴になっていると聞いた。
だけどオルヴォさんはA級だから、やっぱり余裕を持って戦えている。
オルヴォさんは右手に剣を持ち、左手に盾を持って戦うスタイルのようだ。
今僕達は、スイセンを出て少し歩いたところの草原に来ている。
ここでオルヴォさんが受けた依頼、魔物退治をしているのだ。
この草原、そしてもう少し奥の森には魔物が多く住んでいて、毎日冒険者が一定数狩らないといけない。
そうしないとスイセンの街に大量の魔物が襲いかかってきてしまう可能性があるからだ。
だから今、オルヴォさんとシエルと僕で魔物を狩っている。
「よし、これで一段落だな」
剣についた血を払いながらオルヴォさんはそう言った。
「はい、そうですね。結構倒しましたね」
「ああ、もう二十は狩ってるな」
シエルはグレイウルフの耳を短剣で削ぎ落とす。
魔物によって討伐証明になる部位というものがあって、グレイウルフは耳をギルドに持っていけば証明となる。
「あとどのくらいやりますか?」
「そうだな、もう依頼の数は達成しているがまだ余裕があるからな。森の手前ぐらいまで行くか」
「はい、わかりました!」
「キョー」
僕とシエルは返事をして、オルヴォさんについていく。
「しかし、そいつはやっぱり強いな。キョースケ、と言ったか」
「はい、キョースケです」
「あんな威力の炎は初めて見たぜ」
森の方へ歩きながら喋る。
先程、街を出てすぐ僕の力をオルヴォさん、それにシエルも見たがっていたので披露してあげた。
近くにいた魔物はグレイウルフほど強くはないけど、D級に位置する魔物だった。
それを数十メートル先に見つけて、シエルの肩からちょっと飛んで、翼を炎にして撃つ。
炎の槍、とまではいかない威力、炎の玉がその魔物に飛んでいく。
そして当たった瞬間、魔物は消し飛んだ。
それを見てシエルもオルヴォさんも口を開けて驚いていた。
「強い、とは思っていたが、まさかD級の魔物を三十メートルは離れているところから消し飛ばすなんてな……」
オルヴォさんは僕が倒した魔物を眺めながらそう言っていた。
しかし、ここで問題が発生した。
さっきも言ったけど、魔物には討伐証明をする部位があって、そこを持って帰らないとどれだけ魔物を倒しても、カウントされないのだ。
僕が倒した魔物には、討伐証明の部位が全く残っていなかった。
その後も、僕は何匹か魔物を倒したんだけど、どれも消し飛ばしてしまって討伐証明ができないので、もう僕は攻撃しないということになった。
どれだけ炎を弱めても、魔物に当たったら全部吹き飛んじゃうんだ……。
僕が強いんじゃない、周りの魔物が弱すぎるんだ。
それから僕はほとんどシエルの肩にずっと乗っていて、シエルが戦うときだけ邪魔にならないように羽ばたいておく。
この草原の魔物は結構強く、弱くてもさっき僕が戦ったD級の魔物ぐらいの強さ。
だからシエルは結構苦戦する……はずだったんだけど。
C級の魔物、オークに遭遇した。
オークは顔がイノシシで、身体が大きく二メートルくらいある魔物だ。
動きは少し遅いが、力がとても強いらしい。
手には小さな子供ぐらいの大きさの棍棒を持っている。
オルヴォさんも正面から攻撃を受けたら危ないので、撹乱しようと周りを回っていたのだが、シエルの方に駆け寄ってきた。
「逃げろ! そいつの正面に立つな!」
シエルは逃げようとするが、焦ったのかコケてしまった。
さすがに危ないと思ったので、僕がシエルの肩から飛んでまた炎を撃とうと思ったが、先にシエルが地面に座ったまま魔法を放った。
「エ、『風衝撃』……!」
両手の平をオークに向けて放った魔法は、オークの胸辺りまで飛んでいき、破裂。
オークの上半身が粉々になった。
「えっ……!?」
「はぁ!?」
「キョ!?」
その光景を見て皆声を上げて驚いた。
だけど一番驚いたのは、それをやった張本人のシエルだったと思う。
目の前で下半身だけになって倒れたオークの死体を見て、呆然としていた。
「だ、大丈夫だったか?」
「は、はい、大丈夫です」
オルヴォさんが剣を腰に差しながらシエルに近づく。
立ち上がったシエルの肩に僕もおそるおそる着地した。
「えっと、今の魔法はなんだ?」
「ただの『風衝撃』なんですけど……」
「俺もその魔法を使っている奴は何人も見たことはあるが、どれもオークの上半身を粉々にする威力はしてなかったぜ。せいぜいオークの身体を押して一歩下がらせる程度だ。倒せもしない」
「私もそれくらいを予想してましたけど……なんでこんな威力に」
シエルとオルヴォさんは頭を捻っていたが、僕があることに気づく。
それを伝えるためにシエルに声をかける。
「キョ、キョー!」
「えっ? あ、そっか!」
「ん? なんかわかったのか?」
「昨日、キョースケと契約して力が上がったんですよ! だから魔法もこれだけの力に……いや、上がりすぎじゃない?」
シエルは昨日の契約のことに気づいてくれたが、自分で言ってて途中で疑問に思ったようだ。
「どれだけ魔力が上がればこの威力になるのか……というか、契約したって言ってもそこまで上がった奴は見たことねえぞ」
「そうですよね。だけど私の魔法の力が上がった理由はこれ以外ないと思うんですけど」
「なら、契約してこいつから貰った力がどれだけ強かったのか……なんなんだ、こいつ」
僕のことを見てオルヴォさんはそう言った。
ふふふ、今度こそ褒められてるね。
「キョ、キョー!」
「だからキョースケ、褒められてないよ」
「キョ!?」
「褒めてねえよ、気味悪がってるんだよ」
なんで!?
気味悪いって、酷すぎない!?