第25話 依頼書
シエルがカリナさんを怒り終わって、ようやく僕はシエルの肩に戻った。
僕が離れていたことにシエルは気づいてなかったみたいだ。
「ごめんねキョースケ、放ったらかしにして」
「キョー」
「ありがと、じゃあ私達も依頼を見に行こっか」
シエルと一緒に依頼が貼ってある壁の前まで行く。
僕達がここに着いた時は壁いっぱいに貼ってあったけど、今は壁の色が見えるぐらいには空いている。
依頼書は自分が取りたいというものを取ってカウンターに持っていき、受けることができる。
だから人気な依頼などはすぐに無くなってしまう。
「うーん、私達ができる依頼は……」
シエルが少なくなった依頼書を眺めていく。
僕もなんとなく見るけど……読めない。
なぜか人間の言葉はわかるけど、文字は読めないみたいだ。
……ん? なぜかあれだけわかるぞ。
右上にある、あの依頼書。あれに書いてある言葉だけなんとなくわかる。
読めるんじゃなくて、わかる。
文字は読めていないんだけど、意味だけは理解している感じだ。
なぜだかわからないけど、とりあえず見てみる。
なになに……『黒雲を、調査せよ』
えっ、これだけ? めっちゃ大雑把じゃない?
黒雲ってあの空にある黒い雲のことだよね?
あのせいで魔物とかが凶暴化しているらしいんだから、もっと調査したほうがいいんじゃないのかな?
「キョ、キョー!」
「ん? どうしたのキョースケ?」
翼で右上の依頼書を示す。
シエルもその依頼を見てくれる。
「あー、あの依頼ね。あれは冒険者ギルドに一応置いてある依頼だけど、今は誰もやってないかな」
「キョー?」
僕が「なんで?」と言う意味で鳴くと、シエルが答える。
「もう黒雲は、冒険者ギルドがやれるような依頼じゃなくなってるからだよ。あの黒雲を、いろんな国や種族が調べてるの。だけどまだ解決方法が見つかってない。国を挙げて調査してるから、冒険者があの依頼やっても特に意味はないんだよ」
そうなんだ。
やっぱりあの黒雲はそんなに問題になってるのか。
僕の目標は、綺麗な空の下、自由に飛ぶこと。
それを達成するために、あの黒雲を無くさないといけない。
だから黒雲の調査、っていうのはしたかったけど、何もできないのか……。
「キョースケは、黒雲を調べたいの?」
「キョー」
もちろん、と言った意味で返事をする。
「そっか……私も、調べたいよ」
シエルは下を向いて、力強くそう言った。
肩に乗っているからわかるが、シエルが震えているのが感じられる。
ど、どうしたんだろ。僕、何かしちゃったかな?
昨日もこんなことがあった気がする。
確か……そうだ、この街に着いてシエルとカリナさんが話してる時。
『アル兄』という人物が会話に中に出てきて、シエルが泣いていた。
今、シエルはその時みたいな雰囲気がある。
『アル兄』、それに『黒雲』。
おそらく、なにか関係があるんだろう。
シエルが泣きたくなるような、そして強くなりたいと願うようなことが昔にあったのか。
「ごめんねキョースケ、だからこの黒雲の調査の依頼はできないかな」
「キョー」
シエルは顔を上げた時にはもう笑顔が戻っていた。
今は聞かなくてもいい、これから依頼を受けないといけないから。
だけど、いつかこのことについて聞くべきだろうな。
「どれ受けようか、やっぱりあんまり良いのはないね」
良い依頼はもう取られているらしいので、今はちょっとした街の雑用などしか残っていないようだ。
「なあシエル嬢ちゃん、だったら俺の依頼を受けないか?」
後ろから聞いたことがある声が耳に入り、振り向くとそこにはオルヴォさんがいた。
「オルヴォさんの依頼、ってなんですか? 一緒に受けるってことですか?」
「まあそうだな。俺と嬢ちゃんは少しランクに差があるが、まあこの依頼なら大丈夫だろう」
ランク? ランクってなんだろう。
「キョ、キョー」
「ん? ああ、冒険者にはランクってのがあってね」
シエルが僕の疑問に答えてくれる。
ランクは冒険者の力量にあったものを与えられ、F級から始まり、E、D、C、B、A、そして一番上がS級。
強い人や信頼に値する人が上に行くのだが、オルヴォさんはA級で、シエルはD級らしい。
「これから受けるのはC級の依頼だが、俺がいれば嬢ちゃんも受けられる」
普通は自分のランクまでの依頼しか受けられないのだが、上の人と組めば受けることもできるようだ。
「いいんですか?」
シエルと僕にはとても良い条件だが、オルヴォさんが僕達を誘うメリットがわからない。
依頼を他の人と受けると、当然のことだけど報酬も分けないといけないから取り分が下がってしまう。
「ああ、いいぜ。それに俺はその鳥の強さを見たいっていうだけだからな」
「キョースケを?」
「昨日軽く戦ったが、そいつがどれだけ強いのか気になる」
僕の強さを見たいから、一緒に依頼を受ける提案をしてくれたのか。
「大丈夫? キョースケ」
「キョー」
問題ない、と言った意味で頷く。
「はっ、やっぱり変な鳴き声だな」
「キョ!?」
また笑われた!
くっそ……あとで事故に見せかけて少し燃やしてやろうかな。