第21話 ギルド内の戦い
シエルは目の前の光景が信じられなかった。
姉のカリナの言う通りにギルドのカウンター前で待っていたら、男冒険者にいきなり絡まれた。
シエルの肩に乗るキョースケを見て、驚愕し剣で襲ってきたのだ。
黒雲が空を覆うようになってから、魔物は凶暴化し全く従えなくなった。
魔獣を使って戦っていた冒険者が、いきなり裏切られて自分の魔獣に殺されたという話は冒険者なら知っているだろう。
だからこの街の中に魔物を連れてきている者を見て、すぐに襲いかかってくるのはしょうがないのかもしれない。
シエルもキョースケじゃなくて、全く知らない魔物が街の中にいたら疑ってしまうだろう。
ギルドの中にいるほとんどの冒険者が武器を構えた時に、キョースケは自分の肩から離れた。
おそらく、賢いキョースケのことだからシエルを巻き込まないようにしたのだろう。
そして肩から離れた瞬間に、冒険者が剣を振るった。
剣のスピードが速い、とても避けられる速度ではない。
(キョースケ……!)
避けようとする素振りも見せずに、キョースケはその剣に当たった。
完全に真っ二つになるような斬撃だったが、その身体からは血が上がらなかった。
代わりに、真っ赤な炎が吹き出した。
「なっ――!?」
剣を振るった男が驚きの声を上げた。
それもそうだろう、キョースケの身体が炎になりその剣は全く通じなかったのだから。
(なに、今の……?)
シエルも初めてその光景を見た。
自分を襲ってきたグレイウルフを倒してくれた時は、炎を使っていたというのはなんとなくわかった。
だがキョースケの身体が炎になるなんて、シエルは全く知らなかった。
男も驚いていたが、すぐに体勢を立て直すために一度離れる。
冒険者の中でも結構強いとされているその男は、相手の能力について考える。
完璧に剣はその身体を捉えていた。
しかし、全く手応えがなかった。完全に自分の振るった剣は当たらずにその身体を通過しただけだった。
どういう魔物なのかわからない。
長いことやってきた冒険者稼業の中で、一度も会ったこともない魔物だ。
姿形はレッドバードというE級の魔物にそっくりなのだが、あの魔物は身体が炎になるなんてことはなかった。
黒雲の影響か?
だとしても、そんなに生体が変化するなんて聞いたことない。
だが、冒険者をやってきてこんな予想外のことは何度も経験してきた。
「お前ら! 魔法を使える奴はいねえか!? 相手は炎だから、水を扱える奴は!?」
男はギルドの中にいる冒険者に声をかける。
その声に狼狽えていた奴らはハッとして、目の前の魔物を睨みつける。
「お、俺は水魔法を使えるぞ!」
「よし、前衛の奴はそいつを――」
後ろから声が上がって、そちらの方を見た瞬間――男の顔横に何か黒い物体が通過し、髪が揺れた。
「へっ? ぐへっ!?」
今声を上げた奴、水魔法を扱える冒険者は変な声を上げて吹き飛んだ。
一瞬で壁まで到達し、ギルドの石の壁は派手な音を立てながら壊れた。
水魔法を扱えると言っていた男は、壁にぶち当たり気絶してしまった。
今の攻撃をやったのは、さっきまで吹き飛んだ男が立っていたところに羽ばたいている魔物だろう。
(なんだ今のは、全く見えなかったぞ!?)
おそらく、さっき自分の顔の横を通った影はあの魔物だと思われる。
だが、速すぎて全く見えなかった。一瞬、目を逸らしただけなのにいつの間にかあの男のところまで飛んでいた。
しかも、あの魔物はそこまで大きくない。
1メートルもない体長で、大の男を吹き飛ばし壁まで壊れるぐらいの勢い。
どれだけの速さ、力で男の身体を吹き飛ばしたのか。
それに一番厄介なのは……。
(俺達の会話を、完全に理解している)
男がギルド内に声をかけ、この魔物の弱点であろう魔法を使える奴を見つけた。
そしてそいつが魔法詠唱を終えるまで前衛の奴が守り、水魔法で攻撃しようとした。
しかし、それを防ぐように水魔法を使えると言ったやつをすぐに攻撃し気絶させた。
こちらの言葉を完璧に理解してないと出来ない行動だ。
(くっ、どうすればいい!?)
あの魔物が水魔法を扱える者をすぐに攻撃したということは、おそらく水魔法が弱点ということはあっているのだろう。
だが、その作戦は潰されてしまった。
(ん? 待てよ、なんで今の攻撃は通ったんだ?)
さっきの自分の攻撃は当たらずに通過したのに、あの魔物が攻撃するときは炎にならずに当たった。
つまり、あの魔物は完全に炎の身体をしてるというわけではない。
(なら、ずっと攻撃してればいつか当たるのかもしれねえ!)
少なからず希望が見えて、もう一度剣をしっかりと握り込む。
そして周りで今の光景を見て尻込んでいる奴らに声をかけようとするが……。
「ちょっと、何をやっているの!?」
後ろから怒鳴り声が聞こえ、全員がそちらを向いた。
するとそこには、ここのギルドの長がこの光景を見て怒っている顔をしていた。