第19話 契約
「お姉ちゃん、契約ってなんなの? 魔獣登録とは違うの?」
シエルも俺と同じ疑問を持ったようで、そう問いかけた。
だけどまたわからない言葉が出てきた。
魔獣登録ってなんだろ?
「全然違うわよ。魔獣登録は冒険者ギルドに使役した魔物を登録するだけ」
冒険者ギルド……さっきからその名前が出てたけど、多分冒険者という職業の人の仕事を与えたり支えたりするような機関なのかな?
前世でラノベとか漫画を読んだけど、そんな感じだった気がする。
魔獣登録っていうのは人と魔物が相棒関係になるみたいな感じかな?
なんかカッコいい……!
「じゃあ契約ってのは?」
「契約は魔物と力や魔力をお互いに与えることができるの。ただ使役した魔物とは大違いよ」
「えっ、それってすごくない?」
力、魔力……魔力って僕がずっと使っている生命力のことかな?
やっぱり他の呼び方があったんだ。
その魔力とかをお互いに与える、シエルが言った通りすごい効果だ。
だけど名前をつけてもらっただけで契約したことになるの?
「魔物に名前をつけるのって難しいのよ。まず魔物がこっちの言葉を理解しないと、自分に名前がつけられたってことがわからないから契約が結ばれない。それで名前も魔物が納得いかなかったら契約できないの」
カリナさんが僕のことをジッと見ながらそう説明する。
「なんでこの子はこっちの言葉を理解してるのか……普通は魔物に言葉は教えられない。言葉を覚えやすいといわれる犬型の魔物でも、数十年はかかるって言われるのに」
いや、その、僕に言われても困ります……。
僕も異世界の言葉をなんの違和感なく理解してるのを少し不思議に思っていた。
「キョースケは頭が良いんだよ。ねえ、キョースケ」
「キョー」
とりあえずシエルの肩に乗りながら返事をする。
シエルは僕の身体を撫でながら微笑んでいる。
「うーん、気になるなぁ。レッドバードと似てるけど少し違うようだし。黒雲の影響なのかな?」
「わからないけど、私が二時間ぐらい歩いて全く疲れなかった理由がわかった!」
「えっ、シエルちゃんそんなに体力増えたの?」
「うん、キョースケと遊びながら来たから疲れなかったと思ってたけど、力を貰ったっていうなら納得かも」
そうだったんだ、僕も知らなかった。
確かに普通は二時間も草原を歩いたら疲れるよね。それにシエルはその前に魔物に追われてたし。
「ちょっと待ってシエルちゃん。普通はそんなに力をもらえないわ。契約は力をお互いに与えるって言っても、人間の方はあまり増えないわ。人間の力の方が強いから、魔物の方が力が増えるの」
「そうなの? だけど結構私、今調子良いよ?」
「おかしいわね……普通契約したら人間の方は疲れが出るのに」
うーん、僕が結構疲れてるのはそのせいかな?
僕がシエルに力を与えるのが大きくて、シエルから僕には少なかったって感じかもしれないな。
まあ僕はあのドラゴンを倒すぐらい強くなったからね。
あのドラゴンがどれぐらいこの世界で強いのかはわからないけど、さすがにシエルがあのドラゴンに勝てるとは思えない。
「もしかしたら、この子の方が強いの? だけどレッドバードってそこまで強い魔物じゃ……」
「あ、そういえばキョースケはグレイウルフ三匹を一瞬で消し飛ばしてたよ」
「はぁ!? グレイウルフを!? あの魔物今は黒雲の影響を強く受けてC級になってるのよ!?」
「ちょ、ちょっと落ち着いてお姉ちゃん……」
目を見開いてシエルに迫るように顔を近づけて問い詰めるカリナさん。
僕もシエルの肩に乗っているから一緒に問い詰められているように感じる。
その後、シエルは僕がグレイウルフを倒すまでの経緯を話した。
「そんな危ないことしてたの? シエルちゃん? あの森の近くは今危ないって説明したよね? どうして行ったのかな?」
お、おお……カリナさんが怒っている。
とても笑顔だけど、後ろに何か黒いオーラが見える。
「だ、だって……街の人の役に立ちたかったし、強くなりたいから」
シエルは気まずそうに目を逸らしながらそう言った。
「……まだ、アル兄のこと気にしてるの?」
「っ!」
カリナさんはもう怒っておらず、なぜか悲しそうにそう言うと、シエルもその言葉に大きく反応した。
肩に乗っているからわかるが、シエルは少し震えている。
「もうあのことは気にしちゃダメだよ、シエルちゃん。あれは事故なんだから。アル兄だって、シエルちゃんの重荷になりたいと思ってないよ」
アルにい……?
誰だろう、話を聞く限り二人のお兄さんかな?
「私だって、わかってるよ。お兄ちゃんがそう思ってるだろうなって」
「だったら……」
「わかってるけど、私が納得いかないの! 私がもっと強かったら、あの時……!」
俯いていたシエルだったが、大きな声を上げながら目の前のカリナさんを見る。
その目には涙が浮かんでいて、今にも零れ落ちそうだった。
「……だったら、もっと自分を大事にしてね。シエルちゃんが死んだら私は悲しいし、アル兄だって悲しむよ」
カリナさんはそう言いながらシエルを抱きしめる。
「うん……わかってる」
シエルはカリナさんの胸に顔を埋めながら、くぐもった声で返事した。
僕はカリナさんがシエルを抱きしめる時に肩から降りて、部屋の机の上に降りていた。
アル兄……二人のお兄さん。
その人に、何があったんだろう。
シエルは、何を抱えているんだろう。