第18話 スイセン
シエルの肩に乗って歩くこと二時間ほど。僕は歩いてないけど。
だけどなぜか結構疲れた……ここまで空を飛んできたからかな?
あの島で訓練をしてた時はもっと飛んでたけど、違う環境で飛んだから疲れが出たのかもしれない。
空から見た大きな街は、近くで見ても大きい。いや、近くで見るからこそさらに大きく感じる。
「ここはねキョースケ、『スイセン』って言う街なんだよ」
スイセン……なんか響が綺麗で、花の名前でありそうな名前だ。
「『ノウゼン王国』の街の中でも結構大きいところなんだ」
ノウゼン王国、って言う国なんだ。
地球じゃ全く聞いたこともない国の名前だから、やっぱり異世界だなぁと実感する。
「門のところでキョースケの説明しないといけないから、ちょっとめんどくさいけど我慢してね」
「キョー」
「うん、いい子いい子」
僕の翼を軽く撫でながら褒めてくるシエル。
なんか僕を子供のように思って接してきてるけど、悪い気はしない。可愛いし。
街の大きな門のところに着くと、兵士の人達が近寄ってくる。
その顔は僕を見て少し警戒したように硬い表情をしている。
「おい、その鳥は魔物だよな? そいつはなんなんだ?」
「まさかそいつを街の中に入れるなんて言わないよな?」
兵士達は腰に携えた剣に手を添えながらシエルに問いかける。
安全を考えて、すぐに僕を斬り殺そうとしているのかもしれない。
やっぱりシエルが言った通り、黒雲のせいで過剰反応をしているようだ。
この黒雲がなかった時は魔物を従えて旅をするような人もいたらしいけど、今はそんな人はほとんどいないらしい。
「落ち着いて! 見ればわかると思うけど、この魔物は襲ってこないよ。知性があって、こっちの言葉も理解してるみたい」
シエルがそう言うと、一触即発の空気は少し和らぎ兵士達も話を聞く姿勢になる。
「本当なのか? 何か指示をしてみてくれ」
「キョースケ、私の頭の周りを一周して肩に着地して」
言われた通り羽ばたき、シエルの頭上を一周してからまた肩に乗る。
「確かにそのようだな。じゃあ魔獣登録でもするのか?」
「そうだね、それはまだわからないけど出来たらいいな」
なんかよくわからない言葉が出てきたけど、何を話しているんだろう?
「カリナ・クルームを呼んでくれる? お姉ちゃんならこの魔物について知っているかもしれないし、対応してくれると思うから」
「ああ、あの人か。確かにそうかもな」
シエルがそう伝えると、兵士の人達はその人を呼んでくれるようで街の中へ行った。
カリナ・クルームって人がシエルのお姉ちゃんなのかな? どんな人なんだろ?
僕みたいな魔物を入れてもいいって言えるくらいの権力を持っているんだよね、多分。
門の中、取調室みたいな場所で数十分待っていると、さっき街の中に走って行った兵士の人が帰ってきて、一人の女性を連れてきた。
「シエルー! おかえりー!」
入ってきた瞬間、その女性はシエルに抱きついた。
その衝撃でシエルは椅子に座っていたのだが、椅子ごとひっくり返ってしまった。
僕はシエルの肩に乗っていたが、ギリギリで躱して飛ぶことに成功。
「いったぁい! いきなり抱きつかないでよお姉ちゃん!」
「んー、シエルちゃん良い匂い……と思いきや獣臭い! なんで!?」
「臭いって言わないで! キョースケとずっとくっついてたから!」
あの、それって僕が臭いってことでしょうか?
いや、今まで身体とか洗った覚えがないから否定はできないんだけど、そんなバッサリ言われると傷つく。
「キョースケ? 一体どこの男よ!」
「男だけど、魔物だよ。ほら、この子」
シエルは抱きついている姉を退け立ち上がり、僕の方を見る。
室内の中を器用に浮いていたが、シエルの肩に乗りに行く。
「この子がキョースケ。可愛いでしょ?」
「キョー」
そう言って翼に頬ずりしてくるシエル。
僕は「よろしくお願いします」と言う感じで鳴いた。
「ああ、この子が私をここに呼んだ理由ね。レッドバード? に近いけど、少し違うわね。なんていう種類かしら?」
僕のことをジロジロと見ながらそう呟くお姉さん。
「キョースケ、この人がお姉ちゃんのカリナ。こう見えて街の冒険者ギルドの長をやってるの」
「こう見えてって何よシエルちゃん」
シエルの言い草に口を尖らせて不機嫌そうにくるカリナさん。
顔の造形がやっぱり姉妹だからかシエルと結構似ている。綺麗なお姉さん、って感じだ。
シエルより髪が長くて、サラサラとした綺麗な青色の髪が腰ぐらいまで伸びている。
身長はシエルと同じくらいだけど、雰囲気とかを見てると結構年上な気がする。
シエルは元気っ娘、カリナさんは落ち着いた大人っていう見た目だ。
だけどさっきの言動を見てると、美人だけど残念なお姉さんって感じかもしれない。
なんか前世でも看護師の女性でこういう人がいたから、その人と同じような空気を感じる。
「ん? 何かな鳥さん? 私に何か言いたげだね」
僕がそんなことを思っていると、何かを感じたのかわからないけどカリナさんが睨んできた。
必死に首を横に振って否定する。
そうだ、看護師の人も察しが良かった、特に僕がその人に対して変なことを思った時に限って。
「お姉ちゃん、この子にはキョースケっていう名前があるんだよ」
「名前? なんでシエルちゃんがこの魔物の名前を知ってるの?」
「だって私がつけたから」
「えっ? シエルちゃんがつけた? 名前を?」
「そうだけど……なんで?」
カリナさんが顔色を少し変えたのを見て、シエルが不思議そうに問いかける。
「この子も否定しなかった? 名前つけた時、同意だったの?」
「うん、喜んでたよ。ね、キョースケ」
「キョー!」
シエルの呼びかけに鳴いて答える。
前世の頃の名前は覚えてないから名前は必要だと思うし、結構良い名前だと思うし。
「えー、ってことはシエルちゃん契約しちゃった?」
「契約って?」
カリナさんは苦笑いをしながら説明をする。
「魔物に名前をつけて、魔物がそれを了承すると契約したことになるの」
「えっ、そうなの?」
「キョ?」
カリナさんの言葉に、僕とシエルは目を見開いて驚いた。
……で、契約って何?
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