第160話 魔神の封印
ラモン、そしてマウリシアは……また二人で集まっていた。
「急に呼び出して、どうした」
ラモンはマウリシアにそう問いかける。
たった数日前に裏切り者の女も交えて会議をしたばかりなのに、またすぐに呼び出された。
だが今回はあの女がいないということは……あいつに聞かれてはいけないことなのだろう。
「そろそろだ」
マウリシアは待ちわびていたように、興奮を抑えながら言う。
「魔神が――解き放たれようとしている」
「っ……!」
その言葉に、ラモンも目を見開かせて驚く。
「まさか……! まだあと数年はかかる予定だったはずだ」
「ああ、そのはずだった。しかし俺が確認しに行ったところ、一気に封印の解除が進んでいたのだ」
「一体なぜ……っ! 不死鳥が関連しているのか?」
ここ数日で封印がいきなり緩むのには、確実に理由があるはず。
そしてその理由など、一つしか思い浮かばない。
「おそらくそうだろう。不死鳥を殺してすぐに封印が緩んだのだ。関係性がない方がおかしい」
「そうか……魔神が解放されるまで、あとどれくらいだ?」
「おそらく、早くて一ヶ月。遅くても三ヶ月ほどだ」
「そんなに早まるとはな……ふっ、危険を冒して不死鳥を殺してみるものだ」
あと数年はかかるはずだった、魔神の復活。
それがとんでもなく早まったのは、二人にとって喜ばしいことであった。
「もうすぐだ……俺が求めていた世界に、もうすぐなるのだ」
マウリシアは不気味に笑いながら言う。
「俺も、魔神が復活すれば、完全な生命体となれるのだ」
ラモンは自分の手を見ながら、笑いが抑えきれないように言った。
二人は魔神が復活すれば、自分達の望みが叶うと本気で信じている。
「しかし、まだ魔神が復活する準備を整えていないな」
「そうだな。それに不死鳥のこともまだ調べきれていない。魔神復活の邪魔をされるのは困る」
今回、無事に不死鳥を殺せたが、あれはユリウスが命を懸けて攻撃をしたからだ。
それに不死鳥はその名の通り、生き返る可能性が高い。
ラモンは不死鳥の強さを見たからわかるが、次も殺せるかと聞かれれば、難しいと答えざるを得ない。
あの女がこちら側につけばわからないが、おそらくそれは無理だろう。
ラモンとマウリシアの二人だけだったら、犠牲なくして不死鳥を殺すことはまず不可能だ。
それほど、不死鳥は強かった。
「魔神が復活する前に不死鳥が生き返り、こちらの邪魔をされれば……面倒なことになる」
「ふむ、そうだな……だがもう一度殺せば、すぐにでも魔神が復活する可能性が高い」
なぜかわからないが、不死鳥が死んだら魔神の封印が緩むということがわかった。
欲を言えばもう一度殺して、魔神の復活を今すぐにでもしたいが……。
「あの女の協力なくしては無理だろう。そしてあの女は魔神の復活を阻止したいはずだから、協力することはない」
「だろうな」
ラモンの言葉に、マウリシアは頷く。
「不死鳥については、またしっかりと調査をしなければな」
マウリシアは面倒くさそうに言う。
魔神のことは嬉々として調べたが、その天敵となり得る相手を調べるのは、なかなか手こずりそうである。
(ヘレナと行動を共にしている時に、聞ければよかったが……しょうがない)
魔神のこと、そして不死鳥のことをマウリシアが聞いたのは、ヘレナからだった。
そのヘレナだったら不死鳥のことも何かもっと詳しく知っている可能性があるが、今さらそんなことを言っても遅い。
「そういえば、マウリシア。一つ報告していないことがあった」
「なんだ?」
「ユリウスと不死鳥を殺しに行った街に、不死鳥以外にも強い者がいた」
「ほう……」
「一人はS級冒険者のルフィナ。ユリウスと一対一でほぼ互角。ルフィナの方が強かった可能性もある」
「ほう、ユリウスと同等の力か……見過ごすわけにはいかない強さだな」
消耗していたユリウスと一対一で戦い、最後にトドメを刺した男。
それがS級冒険者のルフィナ。
「それと、ユリウスが一人でノウゼン王国の王都に乗り込んだ時に、あいつは一度死んだらしい」
「それはルフィナという奴にやられたのか?」
「いや、違う奴だ。それとユリウスが魔神の情報を、そいつに漏らしている可能性がある」
「何? それはどういうことだ」
あの時に戦っていた女の冒険者が言っていた言葉を思い出して説明する。
ユリウスと戦って魔神の血を知ったこと。
そしてユリウスが首を斬られても、死なないと知っていること。
「ふむ……つまり、ユリウスの首を切り落とせるほどの実力者が、あの王都にS級冒険者以外でいるということだな」
「そういうことになる」
どういった者なのか知らないが、やはりそれほどの実力者を見過ごすわけにはいかない。
「ユリウスが情報を話しているのであれば、殺した方がいいだろう。だがユリウスよりも強い可能性があるのであれば……そう簡単にはいかない」
マウリシアとラモンよりも強かったユリウス。
そのユリウスの首を落とすほどの者だ。
「そうだな……あの女に行かせるのもありかもしれないな」
「っ! あいつに? 確かに実力的に奴らを殺すのは簡単だろうが、大丈夫か?」
ユリウスよりも強いあの女だったら、たとえS級冒険者と戦っても余裕で勝つだろう。
だが裏切り者とわかっている女を、そんな重要な任務に行かせてもいいのか。
「そいつらを殺さないと、魔神についての情報を今後一切渡さないと言えばいい」
あいつは魔神の復活を邪魔するために、自分たちの元を離れない。
だから今後魔神復活の情報を一切渡さないとなると、困るのはあちらだ。
「とりあえず、数日後にまた会議を開く。その時にあの女――イメルダに、今の任務を伝える。ユリウスを殺せるほどの実力者を、抹殺しろと」