第159話 イメルダ
その後、キョースケは風呂も入って、すぐ寝ることになった。
キョースケも気づかない間に、結構疲れが溜まっていたようだ。
目覚めた島から飛び立ってからずっと魔力を使って飛んでいたので、相当魔力を使ってしまったのだろう。
風呂から出てソファに座っていたのだが、気づくとキョースケは夢の世界に入っていた。
キョースケの後に風呂に入ったイメルダだったが、風呂から上がるとソファで寝ているキョースケの姿があった。
男を泊めることになって少し警戒していたが、その姿を見て笑ってしまった。
「ふふっ……緊張してた私が、馬鹿みたいだわ」
あまり肌を見せないような寝巻きにしていたが、それを脱いでいつもの寝巻きに着替える。
ほぼ下着のような格好だが、イメルダはいつもそんな格好で寝ていた。
イメルダは着替えてから、キョースケが寝ているソファに近づく。
最初はおそらく座ったまま寝ていたのだろうが、今は重心がずれたのかソファに寝転がっている。
キョースケが寝転がっていても少しだけソファに空きがある。
イメルダはキョースケを起こさないように、静かに座った。
「……」
イメルダは少し迷ってから……キョースケの頭を浮かして、その下に自分の太腿を潜り込ませた。
いわゆる膝枕というものである。
キョースケは上を向いて寝ており、イメルダはその顔をしっかりと見ることができた。
「……ふふっ、可愛い顔ね」
男なのに、可愛い感じの顔だ。
十五歳というのは本当なのか、まだ幼さが抜けていない顔立ち。
だが顔立ちは整っているので、もう少し成長すればカッコよくなるかもしれない。
「それに……綺麗な、真っ赤な髪ね」
さらさらと流れる髪は、炎のような赤だ。
瞳も赤だったので、炎にでも愛されて生まれたのか。
「んぅ……」
「っ!」
イメルダがキョースケの髪を撫でていたら、キョースケが一瞬身じろぎをした。
起きたのかと思って髪から手を離すが、キョースケは目を覚ました様子はない。
「んっ……シエ、ル……」
キョースケは夢を見ているのか、寝言でそう呟いた。
「……名前、かしら? シエル……その人を、探しているの?」
キョースケが呟いた誰かの名前らしき言葉。
もしかしたらその名の人を、探しているのかもしれない。
「アイリ、さん……もう、もふもふ、しないで……」
「……何の夢を見てるのかしら? もふもふ?」
そのままソファに寝かせたままにするのもよかったが、イメルダはキョースケを起こさないように持ち上げる。
そしてキョースケを自分のベッドに寝かせた。
この家にはベッドは、一つしかない。
もちろんイメルダがそれを使っていたが、今日はキョースケに使わせる。
キョースケをベッドに寝かせて、布団をかけた。
イメルダはどこで寝るかという話になるが、この家には敷布団が一つだけある。
昔に、イメルダが使っていたものだ。
それを地面に敷いて……まだ眠気はきていなかったので、イメルダは一度外に出る。
寝ているキョースケのために、部屋の明かりを消した。
外は黒雲で星の光もないので、本当に真っ暗である。
イメルダは家の外にある魔道具を起動させ、明かりをつけた。
真っ暗な夜の森を照らす。
森の中にはいろんな魔物がいるが、この家には近づかない。
イメルダがいるから。
どの魔物も、イメルダには勝てないと本能的にわかっているから、その縄張りには近づかないのである。
だからとても静かな、暗い夜の森であった。
イメルダは胸あたりまである柵に、肘をついて空を見上げる。
家の周りには木がないので、上を見れば空が一望できる。
しかし、空には黒雲が広がっており、もちろん星の光なんて何もない。
夜に月が見えなくなって、何年経っただろうか。
黒雲が出てきたのが五年も前なので……本当に、長いこと見ていない。
それに、白い雲も。
空に広がるのは、黒い雲。
白い雲も、月も……早く、もう一度見たい。
(あの子が……ニコが好きだった、あの月を、雲を……)
そんなことを思いながら、しばらく外で空を眺めたイメルダだった。
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