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第157話 裸の男



「わかったわ、ついてきて」


 自分がそう言うと、裸の男は不思議そうにしながらついてきた。


 さっきの盗賊達のように危険な男でもないようだし、家に招いてもいいはずだ。

 それにどれだけ強くても……自分より強いことは、ないだろう。


 そう思いながら、女は家に裸の男を連れていった。

 後ろで股間などを隠しながらついてきているのがわかるが、もう見るわけがない。


 というか、先程ガッツリ見てしまったから、いまさら隠しても無駄だろう。


 女は獣人だからこそ、夜目が効くし視力が良い。

 相手を観察するためにも……先程は身体を、じっくりと見てしまった。


 裸の男は恥ずかしがっているようなので、それを言うことはないだろう。



 家に着き、中に入る。

 男も外で待っているつもりだったらしいが、中に招き入れた。


 そして魔道具で明かりをつけて、男の身体を見る。


 やはり鍛えているような身体ではない。

 無駄な肉はないようだが、筋肉もそこまである感じではないだろう。


(だけど、なんで強さが読めないのかしら……魔法で阻害している? そんな魔法ある?)


 そんな魔法を使えるほど強ければ、夜の森を裸で飛び回るというのが謎である。


「はい、これ。多分大きさは問題ないはずよ」

「あ、ありがとうございます!」


 ほぼ自分と同じ身長だったので、自分の使い古した服を渡す。


 その時に男が、自分の頭にある耳を熱心に見ているのに気づく。


「何? 獣人を見るのは初めて?」

「あっ……はい、すいません」

「別に、いいのよ。そんな反応をされるのは、珍しくないから」


 この大陸には、獣人の国がない。

 だから普通ならば獣人を見ずに、一生を終えるような人が多いだろう。


 裸の男は見た目は普通の人族の男だ。

 エルフでもない。


「あんた、名前は?」

「えっ? あっ、名前……ですか」


 女がそう聞くと、男は服を着ながら考える素振りを見せる。


 なぜ答えないのだろうか?

 名前を言えない事情でもあるのか?


(まあ、夜の森を裸で飛び回っていたんだから、何か事情はありそうだけど……)


 そう思って返事を待っていると、服を着終えた男が答える。


「僕、記憶を失っていて……今まで生きてきたことを、覚えてないんです」

「っ! 記憶喪失? 本当に?」

「はい……生まれてから今までのことを、全部忘れてて……」


 男が放つ言葉に、嘘の雰囲気は全くしない。


 つまり、本当に記憶喪失なのだろう。


 だがおかしな点は、いくつかある。


「記憶喪失なのに、飛べるの? さっきは裸で飛んでたけど」

「は、裸って言わないでください。だけど、そうですね……なぜか飛べるみたいです」

「なんで?」

「わかりません。なんか、身体が飛び方を覚えてた、みたいな……」

「……そう」


 脳の記憶がなくても、身体は覚えているものなのか。


 女は記憶喪失などなったことがないので、全くわからない。


「あっ、だけど名前は……キョースケ、だと思います」

「だと思う?」

「なんとなく残ってる記憶が、名前を教えてくれました」


 男……キョースケからは、嘘をついている雰囲気は全くしない。

 とりあえず信じてもいいだろう。


「私はイメルダ。覚えてられるなら、覚えておきなさい」

「は、はい、わかりました、イメルダさん」

「で、あんたは服を着てからは、どうするの?」

「……そうですね、近くの街に行って、仕事を探したいと思います。とりあえず服を買って、イメルダさんに返せるだけ」

「いいわよ、服ならあげるわ」

「えっ、いいんですか?」

「ええ、着なくなったものだもの」

「あ、ありがとうございます!」


 記憶喪失の男は、気持ちよくお礼を言う。

 素直なところは好感を持てる。


「というかあんた、お金も何も持ってないの? 親族は?」

「……わかりません。本当に、そこら辺は何も覚えてないです」

「……そう」

「だけど、誰かを探しているんです」

「誰かを?」

「はい」


 キョースケは真剣な表情で、真っ直ぐとイメルダを見つめてくる。


「誰かが、僕を呼んでる気がする。待ってる気がする。だから、僕はその人に会いたい」

「……そんな人が、いるのね」

「記憶を失っているので、本当にそんな人がいるかどうかわかりませんけど」


 キョースケは気恥ずかしいのか、誤魔化すように笑いながら言った。

 イメルダも少し釣られたように、口角を上げながら言う。


「見つかるわよ、多分。私、勘は良い方なの」

「……ありがとうございます」


 キョースケがそう言うと同時に……「ぐぅ〜〜」という音が、イメルダの家に響き渡る。


 発生源は、キョースケの腹の中からだ。


「……す、すいません」


 恥ずかしそうにそう言うキョースケに、イメルダは笑ってしまった。


「いいわよ、食べさせてあげる」

「えっ、そんな、そこまでお世話になるつもりは……!」

「こんな森の中を裸で飛び回ってた奴が何言ってるのよ」

「そ、それは言わないでください!」


 


不死鳥への転生3巻が、

11/5に発売決定です!!

表紙はまだ出ていませんが、今回の表紙は超ヤバいので、ぜひお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] キョースケの恥じらいが可愛い。 [一言] 心が通じていれば、鳥じゃなくなっても仲間は気付いてくれるのかな。鳥への変身能力とかあれば良いのにね。
[良い点] もう一回死ねば鳥に戻るんだろうか、 [一言] もどしてぇー、折角の鳥さんがぁ、もふもふがぁ、人に(
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