第155話 その女性
夜の森で、女性一人に対して男達が武器を持って囲んでいる状況。
えっ……あれ、ヤバくない?
た、助けに行かないと!
僕は空中をものすごい勢いで飛び、その人達に近づいていく。
だ、だけど、どうやって助けよう?
僕って、戦えるのか?
前世では喧嘩なんてしたこともないし、武術も習ったことなんてない。
ずっと病院生活だったんだから、当たり前だ。
だけどなぜか……助けられると、思っていた。
あの男の人達よりも、僕は自分が強いと確信していた。
記憶を失う前の僕が、それだけ強いってことなのかな?
わからないけど、これであの女性を助けられる――!
そう思って近づいていってたら……。
「……へ?」
突如、女性の姿が消えたと思ったら、一人の男に近づき――頭部を、吹き飛ばした。
消えると思うほど速く動き、頭部を破壊するほどの威力で拳を突き出したのだ。
恐らく仲間だったであろう男が一瞬で殺されたとわかり、男達はすぐに武器を用いて女性に襲いかかる。
しかし僕はもう、その女性を助ける気にはならなかった。
男達よりも強いと確信を持っていた僕だが……あの女性よりも強いと、確信は持てなかった。
それが、助ける必要がないと判断した理由だ。
僕が思った通り、そのまま女性は十数人はいた男達を、二人ほど残して壊滅させた。
だいたいの奴らが頭部がなくなっており、何人かは胸にぽっかりと大きな穴が空いている。
残った二人の男は、恐怖に震えながらその場を去っていった。
本当に強かったなぁ……すごい、強かった。
僕の手助けなんて、全くいらなかった。
「――そこにいるのはわかってるわ。降りて来なさい」
っ! き、気づかれてた……!
浮かんでいたし、木々の影に隠れていたから見つからないと思ってたのに。
その女性は僕が隠れている場所を、しっかり見てくる。
木々の間から目が合いそうだ。
敵意をすごくぶつけてくるので、僕は何もしないよって意味で両手を上げて下に降りる。
そして地上に着地して、女性に近づいていく
女性は僕のことを見て、すごく驚いて……すぐさま怪訝そうな顔をした。
「なんであんた、裸なのよ」
「えっ? あっ……!」
そうだ、僕は服を着ていなかった……!
両手を上げていたのをすぐにやめて、丸出しにしていた股間を隠す。
は、恥ずかしい……!
女性に、裸をこんな形で見せてしまった……!
穴があったら入って一日は埋まっていたい!
結構暗いから、あまり見えてないことを願う……!
「ご、ごめんなさい! そ、その、服がなくて……!」
「服が、ない?」
女性は頭を傾げながら、僕のことを睨んでくる。
いきなり出てきた男が素っ裸だったのだから、疑って当然だろう。
ど、どうしよう……!
本当なら服を借りたりしたかったんだけど、女性だし難しいし……!
「へ、変態じゃないです! その、気づいたら服がなくて……!」
「……」
すごい怪しんでいる顔をしている女性。
そりゃ気づいたら服がないなんて、怪しすぎるよね。
というか僕的には、気づいたら服もなくて記憶もないって感じなんだけど。
前世の記憶はなぜか持っているけど……。
女性は一度ため息をついて、後ろを向く。
「わかったわ、ついてきて」
「へっ?」
そう言って女性はどこかに向かって歩き出す。
僕は不思議に思いながらも、言われた通りついていく。
「そ、その、どこに行くんですか?」
「私の家よ。服を貸してあげる」
「えっ、いいんですか!?」
「そこに転がってる奴らの服を毟り取って着たくないでしょ?」
「あ、はい、嫌です……」
男達の服はここら辺で盗賊をやっていたのか、とても汚い。
それにだいたいの奴の服は、もうすでに血で赤く染まっている。
「あ、ありがとうございます!」
「……どういたしまして」
歩いていく女性の後ろ姿に、お礼を言う。
さっさと歩いていく女性なのだが、僕は股間を隠しながらなので少し早足にならないといけなかった。
しばらく歩くと、森の中の家まで辿り着いた。
結構立派な家で、さっきまで見つけられなかったのが嘘みたいだ。
女性は家のドアを開けて入っていくが、僕は外で待つ。
さすがに家の中に入らせてもらうわけにはいかないだろう。
「何してるの、入りなさいよ」
「えっ、いいんですか?」
「ええ」
女性はそう言って家の中に先に入っていった。
僕はおそるおそる後に続いて、家の中に入る。
何か魔道具をつけたのか、家の中が一気に明るくなった。
ここで女性の容姿を、僕はしっかりと捉えることができた。
その女性は……頭に、狐の耳が生えていた。
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