第154話 海辺の町?
しばらく、空中を散歩するように移動していた。
前世ではこんなこと味わえたことないから、すごい新鮮……な訳でもなかった。
「やっぱり、僕はこの感覚を味わったことがある……」
何度目になるのかわからないけど、この違和感。
生命力を使って飛び、この風を切る感覚。
下には見渡す限り、地平線の先まで海が見える光景。
そして上には、黒い雲が海と同じように続いている。
それら全てに、自分は既視感を感じる。
だけど何かここでも違和感。
身体に当たる風の強さとかが、記憶にないけど前よりも大きい気がする。
「もしかして、僕が小さい頃に飛んでたのかなぁ」
身体に当たる風の強さとか量に違和感があるので、僕がこれほど大きくなる前に飛んでいたのかもしれない。
今は前世と同じくらい、多分身長が一七〇くらいだと思う。
……前世では超えてなかったから、今は超えていると信じたい。
数時間ほど飛び続けていると……ようやく、大陸が見えた。
しかも大陸が見えてすぐ、大きな街を発見できた。
その街は海に隣接してるみたいで、結構大きな街だ。
海に近いから、魚とか売られてるのかなぁ……。
前はお肉をいっぱい食べたけど、魚はあまり食べてないから、食べたいなぁ。
「……あれ?」
僕、前世でお肉なんていっぱい食べたっけ?
病院でずっと暮らしていたから、病院食をほとんど食べていた。
病院食はお肉よりも魚の方が多かった気がする。
僕が今考えた、前っていうのは……前世ではないのかな?
もしかしたら、記憶を失う前のことなのかもしれない。
「思い出せるといいなぁ……」
今のところ記憶がなくても困ってることは、特にない。
生きてるのに重要なことは、覚えてるから。
だけど早く、思い出したい。
とっても、大事な思い出な気がするから。
とりあえず、街に行こうかな。
この世界について色々と知らないといけないこともあるし。
いきなり街に上から降りるのも違うと思うし、どこか少し遠いところに一回降りて、街に向かいたいな。
それに……僕は大事なことを、忘れていた。
というよりも、隠していなかった。
「……僕、服着てなかった」
あの島を出て空を飛んでいるときに、寒いから気づいた。
洞窟の中にも服がなかったから、記憶を失う前までの僕は裸であそこに行ったのかな。
……変態じゃないか。
き、記憶を失う前の僕は、変態だったのか?
……考えないようにしよう。
記憶が戻っても、変態にならないようにしないと。
どう対策すればいいのか全くわからないけど。
とりあえず、近くの森に降りようかな。
そこで服でも落ちてれば……そんな上手いことはないか。
海辺にある街を通り過ぎて、少し遠くにある森まで飛ぶ。
そこで周りに誰も人がいないのを確認し、地面へと着地した。
だけど、本当にどうしようかな。
こんな森に降りたけど、服なんで落ちてるわけないし……。
落ち葉とかで服を作る?
すごく難しそうだ、無理な気がする。
うーん……あっ、そうだ。
この森には多分、あの街に続く道があるはず。
そこの脇でずっと待ってれば、人が通るかもしれない。
その人に助けてもらう、というのはどうだろうか。
人任せになってしまうが、しっかり恩返しをすればいいだろう。
ここでずっと裸で棒立ちしてても何も出来ないし、そうしよう。
「とりあえず、整備されてる道を探さないと」
僕はもう一度飛んで、今度は低空飛行で森の上から道を探す。
すぐに道は見つかって、僕はその脇の樹木で身を隠せるところに着地した。
ここでしばらく待ってれば、多分人は来る……と思う。
運任せだけど、願っておこう。
……数時間、経った。
「誰一人、通らない……!」
しかも結構暗くなってしまい、人の気配が全然しない。
ここで待ってても、もう無意味な気がしてきた。
はぁ……どうしよう。
とりあえずまた森を低空飛行して、人でも探そうかな。
僕は裸のまま飛んで、森の上を飛び回る。
そろそろ夜になってくるし、裸のままだと寒くなってきた。
「……ん? あれは……」
森の中、道が整備されていないところに、人がいるのを見つけた!
そういえば、前世よりもなんか目がすごく良くなった気がする。
結構遠くでも、望遠鏡を使ったかのようにはっきり見える。
その良くなった目が捉えた光景は……一人の女性を、十人ほどの男達が囲んでいる状態だった。
女性は丸腰で、対して男たちは剣とかをガッツリ構えている。
夜の森で、女性一人に対して男達が武器を持って囲んでいる状況。
えっ……あれ、ヤバくない?