第153話 違和感?
とりあえず、ここを出よう。
僕は洞窟に唯一空いている穴の下に立つ。
壁を登ることは出来ないと確信しているのに、なぜかあの穴から脱出できると思っている。
この身体の中にある、何かを使えば……空を飛べるというのが、最初からわかっていた。
「……よし」
僕は軽く集中して、身体の中にある何か……生命力みたいなものを循環させ、使う。
するとすぐに、僕の身体が浮いた。
ほら、やっぱり。
なぜだか僕は飛べるって、わかっていた。
なんでわかったんだろう?
病院にいた頃は、飛べるなんて夢にも思わなかったのに。
「ふふっ、だけど……嬉しいなぁ」
前世からずっと飛びたかったんだ。
とても綺麗な空の下、鳥みたいになって飛べたらって……ずっと思ってた。
……ん? 前世?
あれ、いつから僕は、病院にいた時のことを、前世だって思ったんだ?
今の状態が、生まれ変わったと認識していた。
まあ病院にいた頃の僕じゃ、こんな動けないもんなぁ。
ずっとベッドの上で生活してたから、動いたらすぐに息を切らしてしまう。
それに……僕は自分の両腕を見る。
こんなに筋肉質じゃなかったし。
僕の腕はもっと細くて、骨と皮しかない感じだった。
……なんか、僕の腕を見てるとすごい違和感を感じる。
いや、いきなり筋肉質になってるからおかしいのは当たり前なんだけど。
久しぶりに見たというか、なんというか……わからないや。
まあとりあえず、外に出ようかな。
そして僕は生命力を使って、天井の穴を飛んで登っていく。
結構な速度で登っていったけど、特に怖さはなかった。
登っていき、上が行き止まったところで左にまた大きな通路が出た。
そこを進んでいくと……外が見えた。
外に出ると見渡す限りの緑、山のような感じ。
後ろを振り返ると、僕が出た洞窟がどれだけ大きいかわかる。
いや、山と比べると小さく見えてしまうか。
山の中心にあった洞窟に、僕はいたみたいだ。
僕は空中で漂いながら、空を見る。
なんだかよくなさそうな黒い雲……黒雲が、空を覆っていた。
だけどこの島の上だけは、少しだけ雲が晴れていて太陽の光が見えていた。
……だけど、なんかおかしい。
初めて見る光景なはずなのに、全く初めて見た気がしない。
山も、海も、僕は前世では一度も見たことがなかったのに。
その感動があまりなく、全てに既視感を感じる。
「なんだろう、この違和感……」
本当に、生まれ変わってから、目が覚めてからずっとそうだ。
ずっとずっと、違和感を感じている。
見たことないはずなのに、この海と山を知っていた。
わかるはずもないのに、飛ぶ方法を知っていた。
なんだか、記憶がなくなったみたいだ……。
もしかしたら、本当にそうなのかも?
だって僕、この世界に生まれたばかりなのに、こんなに大きいし。
すでに前世の僕と同じぐらい成長していると思う。
それなのに今までの記憶が、全くない。
僕の身体を十五歳と仮定するならば、その十五年間の記憶が一切ないのはおかしい。
やっぱり、記憶を失っているのかも。
だから飛ぶ方法とか知ってるし、この景色も見たことがあるのかもしれない。
「ここはどこなんだろう……」
島の周りを飛ぶが、この島には人が一人もいないことに気づく。
人間だけじゃなく、生き物がまずいない。
あと、上の空。
空を覆っている黒雲だけど、あれも何か違和感を感じる。
島の上だけ晴れているところがあるけど……。
「あそこって、もっと広くなかったかな?」
島の上の黒雲が晴れている場所が、狭くなってる気がするんだ。
覚えていないはずなのに、見覚えがある。
前は島の上全体が晴れていたのに、今は島の中心にある山の上だけしか晴れていない。
晴れている場所が、半分以下になっている……気がする。
「よくわからないなぁ……」
僕はそう言いながら、その晴れている空の下まで飛ぶ。
そして近づいていくと、何か身震いがしてきた。
恐怖、喜び、楽しみ。
そんな感情を、この島の上の空で感じた気がする。
どの感情も、前世で感じたものと比べ物にならないくらいの大きさだったはず。
「ここに、何かあった……いや、何かがいた気がする」
この空に、何者かが飛んでいた。
強大な、僕にそんな感情を抱かせるような、存在が。
だけど今はその姿形すら見えない。
残念だけど、いないというのはなぜかわかっていた。
いつかまた、そんな感情を味わうことが出来るのかな。
僕はその存在のことを覚えてないから、またそんな感情を味わってみたい。
すごい、楽しかった気がするから。
洞窟から出て、数十分。
僕が生まれ変わって目覚めてから、一時間くらいだろうか。
僕はこの島を出る決心をする。
というか、ここにいても何もないからつまらないし。
「……何かを、探さないといけない気がする」
何かというか、誰かに――。
誰かに、会わないといけない気がするんだ。
その人に会えば、僕がずっと感じてる違和感がなくなる気がする。
僕の失ったであろう記憶も、戻るかもしれない。
そんな思いを抱え、僕はその島から飛び立った。