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第145話 アンデッドの痛み



「あら、首を狙ったのだけど。外してしまったわ。アタシもまだまだね」


 そう言って笑ったルフィナは、また構え直した。


「くっ! やらせるか!」


 ラモンが繋がった両手を前に掲げると、ルフィナの両隣から巨大な手がまた出現した。


 それを操って攻撃しようとするが、ルフィナは簡単に躱す。

 しかしルフィナは構えを解いたので、遠距離にいる二人に攻撃は出来ない。


「ユリウス、お前あと何回死ねる?」

「多分、もう死ねないよ。次死んだら、ご臨終かな」

「おそらくあの男は、お前を狙ってくるぞ」


 ルフィナはすでに、ユリウスの方が強いということを見抜いている。

 ラモンはユリウスよりも弱いので、ユリウスさえ倒せばルフィナの勝ちである。


「うーん、さすがに死にたくないけど……今更見逃してくれるほど、あいつも甘くはないよねきっと」


 落ちた右腕を再生させながらユリウスは言う。


 毒の水を辺りにばら撒いて魔力をだいぶ失っているので、やはり再生力も落ちている。

 しかもユリウスは毒の水を食らうので、怪我をしていなくてもずっと回復魔法を使い続けないといけないのだ。


「やっぱり毒を出したの失敗だったんじゃない? 僕、結構ヤバいんだけど」

「……あの男が予想外に強いのが厄介だ」


 どうすればあの男を倒せるか、ラモンは考える。

 しかし、あまりいい作戦は思い浮かばない。


(いや、そもそも……俺達の目的は、あのS級冒険者を倒すことではない。一番の目的は、不死鳥を殺すことだ)


 ラモンはそう思いながら、チラッと倒れているアリシアやシエル達の方を見る。


 シエルの腕の中には、こちらを油断なく見ている不死鳥のキョースケの姿があった。


(あいつを殺せればいいんだ。そしたらすぐに逃げればいい)


 そしてラモンは、すぐに作戦を変えてユリウスに伝える。


「ユリウス。お前はあのS級冒険者の男を抑えろ。数分でいい、その間に俺が不死鳥を殺す」

「うーん、了解。死なない程度に抑えるね」


 ラモンはそう言って、その場からすぐに両手をキョースケ達の方向へと掲げる。


 ルフィナはラモンがキョースケ達を攻撃しようとしていると、すぐさま理解した。


「やらせないわよ――」

「こっちのセリフでもあるね」


 ルフィナがラモンを攻撃しようと剣を構えたのだが、その前にユリウスが立ち塞がった。


 突きの衝撃波を飛ばそうしていたのだが、すぐに構え直してユリウスに剣を振るう。


「邪魔ね、アナタ!」

「そっちの方こそ、僕たちの邪魔をしないでよ」


 ユリウスはすでに毒の水に浸食された地面の外にいる。

 だからルフィナと完全に、一対一の状態だ。


 ルフィナとユリウスは一対一で対決し、一度ルフィナが勝っている。

 しかしそれは、ユリウスが毒の水を使っていない時だ。


「くっ……! それ、うざいわね!」

「あはっ、頑張って避けるね!」


 ユリウスは身体強化魔法を使いながら、ルフィナへと拳を振るう。

 しかし毒の水を使いすぎたので、身体強化魔法は少し弱くなっている。


 だがそれを補ってあまりある、毒の水の攻撃。

 拳を振るう度に、毒の水が飛び散るのだ。


 それを至近距離で避けるのは難しい。

 ルフィナでさえ纏っているマントを犠牲にして、なんとか防いでいる。


 このままだとユリウスの方が優勢だが、ユリウスの魔力もどんどんなくなってきていた。

 あと数分で毒の水や身体強化魔法を使えないほど、魔力はなくなってしまうだろう。



 しかし……ユリウス、それにラモンにとってはその数分があれば十分だった。


「死ぬがいい――!」


 ラモンの両手に連動するように、シエルとアリシアの地面の近くから巨大な両手がまた現れる。


 先程はルフィナがラモンの両手を斬ったから無事だったが、今はルフィナはユリウスの相手をしている。


「シエルちゃん、早く逃げ……!」

「アリシアを置いてけない……!」


 四メートルを超える両手が、二人を上から叩き潰そうとしてくる。

 人間が小蠅でも見つけて、それを両手で潰すかのように。


「っ! キョー!」


 その時、キョースケはシエルの腕の中から抜け出して、二人を守るために炎を放った。


 今までずっと回復に努めていたのか、強力な炎が地面から生えた手を焼き尽くす。


「ぐっ! おおぉぉぉ!?」


 地面から出る両手が燃えると、同時にそれを操っているラモンの両手も燃える。


 今までラモンは両腕を斬られても、痛みなど存在しないかのように振る舞っていた。

 しかし今、腕が燃えているのはとても苦痛そうに叫んでいた。


「な、なぜだ……!? 俺のこの身体に、痛みが走るなど……!?」


 ラモンは、アンデッドである。


 つまりもともと死者なのだから、痛みがないのは当たり前。

 額に短剣を刺されようとも、腕を斬られようとも、今まで痛みは皆無であった。

 それに心臓も動いてないので、血も全く流れない。


 しかし今、キョースケの炎を喰らったら、何十年ぶりかに痛みが発生した。


(一体なぜ……! 不死鳥の、炎だからなのか……!?)


 久しぶりに味わう痛みが、両腕の骨まで炭になるほどの強力な炎。

 痛みに悶え、膝をついてうずくまるラモン。


「がっ、あああぁぁぁ……! くっ、そ……!」


 その間にも、ルフィナとユリウスの戦いは続いている。

 優勢だったユリウスは劣勢となり、ルフィナがだんだんと押してきている。


 そして……遂に、この長い草原での戦いに決着がつくときがきた。



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[気になる点] ラモン残ってますよね、志村後ろ後ろ!状態かな
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