第144話 ルフィナの強さ
「アタシがいる限り、可愛い後輩と、愛しい愛しいお鳥さんを殺させないわよ」
ルフィナはそう言って、すぐさまラモンの首を斬り落とすように細身の剣を振るう。
「くっ……!」
ラモンはギリギリでそれを避け、慌てて後退する。
完璧に避けたとはずだったが、首は真ん中辺りまで斬られていた。
ルフィナは深追いせず、倒れているアリシアとシエルの元へ。
「お二人さん、大丈夫?」
「さすがに、大丈夫ではないっす……」
「はぁ、はぁ……私も、すいません……」
「どっちも重傷ね。休んでていいわよ、あとはアタシに任せなさい」
アリシアは仰向けに倒れていて、身体を動かす度に激痛が走るという大怪我だ。
シエルも今にも倒れそうな真っ青な顔をしながら地面に座り込んでいて、腕の中にいるキョースケも二人ほどじゃないがグッタリしている。
「お鳥さんも、まだ力は少し残ってるかもしれないけど、無理はダメよ。しっかり休んでなさい」
ルフィナはウインクをして、ラモンとユリウスの方にを向く。
「おい、ユリウス、死んだのか?」
ラモンは半分ほど斬られた首が繋がっているのを手で確認しながら、ユリウスに近づく。
ユリウスは魔人形のように、バラバラになっていた。
魔人形と違うのは斬られた後も、動いてるということだ。
「……一応まだ生きてるよ。あと二回くらい死んだら、本当に死ぬかも」
「何回殺されたのだ?」
「まだ一回だよ」
ユリウスはバラバラの身体を、器用に動かして繋げながら喋る。
一回だけ死んだというのは、ユリウスが首を斬られた回数である。
ユリウスは回復魔法があるので、即死をしなければ死なない。
だがユリウスほどの強者が、そう簡単に致命傷を負うことはない。
(それなのにあのS級冒険者は、ユリウスと一対一で戦って勝てるのか……)
完全に身体が繋がって立ち上がったユリウスに、ラモンは問いかける。
「あの女とどっちが強い?」
「うーん、多分あの女の方が強いよ」
「……なら、俺達でも殺せるか」
ユリウスやラモンが集まっている会議の中での、唯一の女。
あの女が二人の中で一番強い存在である。
その存在よりも強い、というのが不死鳥であるキョースケ。
しかしキョースケは二人の作戦により、瀕死である。
「お前、毒使ったのか?」
「使ってないよ。やっぱり最初は殴り合わないとさ」
「馬鹿が。お前の毒は普通の人間なら対処しようがないのだから、使え」
「はぁ……これ、疲れるし痛いから嫌なんだけどさ」
ユリウスはため息をつきながら、足元の地面に毒の水を浸透させ始めた。
「……あら? 何かしら、なんかあいつらの周りの地面、濡れてきてないかしら?」
敵を注意深く見ていたルフィナは、すぐさまその異変に気付く。
「あれは、毒の水が地面に浸透してます……! 地面に、触れないようにしてください!」
昨日経験して知っているシエルが、ルフィナにそう忠告する。
毒の水で浸食された地面に足が触れるだけで、アリシアがすぐさま倒れるくらいだった。
もうシエルも解毒魔法をする余裕もない。
誰かが毒にかかったら、治す手立てがないのだ。
「あら、それはとても厄介ね。じゃあ、濡れてないところを見極めて移動しないとね」
ルフィナはそれを聞いても特に慌てることなく、剣を構える。
そして――その場から跳ぶようにして、ユリウスとラモンに急激に接近した。
「なっ!? くっ……!」
「あっ……また死んじゃった」
ラモンは両腕を犠牲にして、また首を落とされずに済んだ。
しかしユリウスは反応が遅くなってしまい、また首を斬られてしまった。
ユリウスの頭が地面に転がり、その顔が苦痛に歪む。
「あいたたたっ……! 毒が痛いって、だから嫌なんだよー」
地面にはユリウスの毒の水が浸食されているので、頭が地面に転がったらもちろん毒の水を喰らうことになる。
もともと毒の水を浸食させているので、ユリウスの身体はずっと毒を喰らっている状態。
ルフィナとユリウスが一対一をやっていた時よりも毒の影響で、動きが遅くなってしまっていた。
先程の攻撃も本来なら避けられたのだ。
残った身体がすぐにユリウスの頭を拾い、首と繋げる。
ラモンも両腕が地面に落ちたが、すぐに拾って繋げようとする。
「……お前の毒のせいで、繋がるのが遅いぞ」
「ラモン君が毒をやれって言ったんでしょ」
ユリウスとラモンがいる場所から、半径五メートルほどはすでに毒の水に浸食された地面である。
その浸食された地面を見極め、毒を喰らわないようにしているルフィナ。
「やっぱり面倒ね。一回攻撃して離れて、っていうのは性に合わないわ」
「ユリウス、もっと毒を広げられないのか」
「無理だね。回復魔法を僕は併用しないといけないし、それに何度も死んでるからそろそろ魔力が尽きてきた」
「チッ……面倒な相手が残ったな」
「こっちのセリフね」
ルフィナは五メートル以上離れたところから、二人に向けて剣先を向けて構える。
「ふふっ、魔法使えないアタシが、遠距離攻撃が出来ないと思わないことね」
ルフィナが剣を突くような動作をした。
速すぎて、常人の目では剣が全く見えない。
瞬間、ユリウスの右腕が吹き飛んだ。
「えっ……?」
「なっ!? 魔法じゃない……!? 斬撃を飛ばせるのか!?」
ルフィナは魔法を使えないが、斬撃を振るう衝撃波によって攻撃することが出来た。
先程の剣を突くような動作は、ユリウスへ攻撃したのだ。
「あら、首を狙ったのだけど。外してしまったわ。アタシもまだまだね」
そう言って笑ったルフィナは、また構え直した。