第142話 ラモンとの戦闘
ルフィナとユリウスが戦っている中、アリシアとシエルはもう一人の謎のローブの者と対峙していた。
二人の目の前に降りてきた者は、思った以上に身長が低かった。
女性である二人よりも低く、まだ子供くらいの身長である。
おもむろに顔を覆っていたフードを外すと、やはり童顔で容姿は子供にしか見えない。
だがその容姿を見て油断する二人、キョースケではない。
全身から出ている雰囲気が、ただの子供ではないと物語っていた。
「……何者っすか、あんたは」
「貴様らには用はない。その鳥を、渡してもらおう」
アリシアの問いには答えず、冷徹な目で、淡々とした冷たい声で男は言った。
「なんで、キョースケを狙って……?」
男の狙いがキョースケであることを知って驚く二人。
キョースケ自身もなぜ狙われているのかわからなかった。
「そいつが邪魔なのだ。そいつの存在が、俺達の野望を邪魔する」
「あんた達の野望ってなんすか。なんでキョースケが、それを邪魔するってわかるんすか」
「……ふむ」
ローブを着た男……ラモンは、女二人の反応を見て考える。
(こいつらはおそらく、あの鳥が不死鳥だということを知らないようだな。まあそれも仕方ない、本当に限られた文献にしか不死鳥のことは書かれていないからな)
そう思いながら、無駄な情報を渡さないように話す。
「お前らに話すことはない。ただお前らは、その鳥を俺に渡せばいいだけだ」
「はいわかりました、って言って、仲間を渡す馬鹿がどこにいるんすか」
「キョースケは、私の相棒なんだから……! 絶対に渡さない!」
面倒くさいが、ラモンが予想していた答えの通りだった。
「そうか、では貴様ら諸共その鳥を殺してやる」
「やってみろっす!!」
瞬間、アリシアはキョースケをシエルに預けて、ラモンへと接近する。
魔法使い相手ならば、身体強化を使って近接攻撃を仕掛けられるアリシアが有利なはず。
先手必勝、魔法を使われる前に……殺す。
持っていた短剣で、ラモンの額を貫く。
ラモンは反応出来なかったのか、避ける素振りすら見せずに額に短剣が突き刺さった。
誰がどう見ても即死の一撃。
アリシアも確実に殺した、そう思った。
しかし……。
「ふむ、なかなか速いが、ユリウス程ではない」
額に短剣が刺さったまま、ラモンは喋った。
「なっ!? なんで生きてるんすか!?」
短剣を額に刺したまま、アリシアはラモンから離れてシエル達の元まで下がる。
刺さった短剣は頭を貫通しており、後頭部から刀身が出ている。
それにもかかわらず、ラモンは即死の攻撃なんて受けていないかのように生きていた。
「キモいっす……! なんなんすか、あれ!」
「もしかしたらユリウスみたいに、回復魔法があるのかも……! あと、魔神の血を貰ってるとか……!」
額に短剣が刺さったままラモンはシエルの言葉を聞き、心の中で舌打ちをした。
(あの馬鹿が……魔神の血のことを話したのか。面倒だが、あの女達も確実に殺さないといけなくなった)
「悪く思うな、その鳥と共にお前らも殺すことになった。恨むのならばユリウスを恨め」
「簡単に殺されないっす! てかなんでお前は死なないんすか!」
「魔神の血を貰ってると、首を落とされても死なないから……何回も殺さないと」
ラモンはまたもシエルの言葉に眉を顰める。
(首を落とされても死なない? つまりユリウスの首を落として、死なないことを確認したのか? 魔神の血を貰っていなかったら、本当に死んでいるではないか)
ユリウスは強い。
それはラモンも知っている。
強靭な肉体に、常人離れの身体能力。
そして異常な回復魔法と、毒の魔法。
A級冒険者を圧倒出来るほどの実力、S級冒険者と同等かそれ以上の力を持っている。
そんなユリウスが、首を落とされたというのか。
いくらすごい回復魔法を持っていても、即死では回復魔法を使う暇はない。
魔神の血がなかったらユリウスは死んでいたというのを、ラモンは今初めて知った。
(ユリウスを殺せるほどの実力者が、ノウゼン王国の王都にいるというのか……チッ、あいつ、なぜそんな大事なことを話さない。これが終わったら聞かないとな)
とりあえず頭を切り替え、今目の前にいる女二人と不死鳥を殺すことに集中する。
「ああ、頭にまだ刺さったままだったな」
ラモンは額に刺さった短剣を抜くと、そこらに捨てた。
額には短剣がしっかり刺さった跡があったが、それもすぐに修復するようになくなった。
それを見てアリシアとシエルは驚く。
「あ、あれも魔神の血の力っすか!?」
「わ、わかんない……」
「次はこちらからいくぞ」
ラモンは右腕を前に出し、手の平を地面へと向ける。
「それほど消耗しているお前らは、いつまでこの攻撃に耐えられるか。見ものだな」