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第141話 最悪な事態



「いやー、だけど凄かったっすね、さっきの技。超カッコいいし、超強かったっす」

「……そうだね。だけどキョースケ、本当に大丈夫?」


 アリシアに腕に抱かれているキョースケに、シエルは心配そうに問いかける。


 シエルとアリシアは、ここまで消耗した様子のキョースケを初めて見た。


「キョー……」

「なんて言ったんすか?」

「大丈夫、って言ってるけど……」


 どう見ても大丈夫ではない。

 シエルとアリシアに心配をかけないように言っているようだ。


 大丈夫なのであれば、自分で飛んでシエルやアリシアの肩に乗るはず。

 それも出来ないのに、大丈夫と言うのは信じられない。


「キョースケ、本当は?」

「……キョー」

「身体が動かない、だって」

「やっぱりそうなんすね。キョースケの身体触ってるけど、力が全く入っていない感じするっすよ」


 今にも眠ってしまいそうなキョースケ。

 いや、本当なら既に眠っていたかもしれない。


 しかし……戦いはまだ、終わっていない。


「キョ、キョー……!」

「っ! そうだ、あのユリウスの魔人形がいっぱいあって、本物がいないってことは……!」


 まだどこかに隠れている、ということだろう。

 しかもアンデッドを作った者、ユリウスの魔人形を作った者もおそらくいる。


「こ、ここにいるんすかね? 姿形も見えないっすけど」

「わからないけど、早くここから離れた方がいいと思う……!」

「だけどシエルちゃんもそうっすけど、ほとんどの冒険者が満身創痍っすよ!」


 最初のアンデッドとの戦いで、半数以上が毒にやられてしまった。

 その毒はシエルが解毒したものの、全員が気絶している状態。


 解毒魔法を使いすぎたシエルも、戦える状態ではない。


 そしてその後の魔人形のユリウス達との戦いで、冒険者の三十人以上が死んだ。


 ここら一帯の草原は最初の見る影もなく。

 キョースケがアンデッドを燃やしたので草は生えておらず。

 魔人形のユリウスが殺した冒険者の血が地面には広がっていた。



 そして――最悪な事態は、続く。



「準備は整ったな」

「あはっ、殺し甲斐のある奴がいるなぁ」


 その声が、突如どこからか響いてきた。


 シエルにアリシア、そしてキョースケは、聞いた覚えがある声。

 一方の声は先程の魔人形と、同じ声をしていた。


 しかしキョースケはその声を聞くだけで、本能的に、心の底から嫌悪感を抱く。

 魔人形の時にはなかった反応……つまり、本物である。


 聞こえた方向は、上であった。

 全員が上を向くと、上空十メートルくらいのところに、二人の人間が浮いていた。


 一人は黒いローブを羽織った者。

 そして隣には、魔人形と同じ姿格好をした、ユリウスの姿があった。


「う、浮いてるっす」

「多分、ユリウスじゃない方が、魔法使いなんだと思う。風魔法を練習すれば、すごい難しいけど出来ないことじゃない」


 シエルが表面上は冷静にそう言うが、内面はすごい焦っていた。


 自分はもう魔法を一発か二発撃ったら、確実に気絶してしまう。

 それにキョースケも動けないくらい疲弊している。


 だが、相手はヘレナさんでも勝てなかった相手、ユリウス。

 そして謎の黒いローブの魔法使い。


 魔法使いの方は、風魔法で浮くことが出来るぐらいの熟練度。


 シエルはまだ完璧には出来ない。

 地面から数十センチは受けるが、あれほどの高さまでは浮けない。


 アイリとヘレナは簡単に出来ていたので、アイリと同等かそれ以上の力は持っているようだ。


 つまりこの中であの二人に対抗出来る者は、ルフィナしかいなかった。


「ねえラモン君。僕、もうあの赤い鳥はいいや。多分すぐ死んじゃうと思うし、ラモン君がやってよ」

「……はぁ、わかった。お前がいない方がやりやすい」


 黒いローブの者とユリウスはそんな会話をしてから、地面へと着地した。


 ユリウスは、ルフィナの目の前に。


 そして黒いローブの者は、アリシアとシエル、キョースケの目の前に。



 ルフィナとユリウスの距離は、ほんの一メートルくらい。

 手を伸ばせば届く距離だ。


「やあ、こんにちは。僕はユリウスっていうんだけど、君の名前は?」

「あら、丁寧にどうも。アタシはルフィナよ」

「そうなんだ。じゃあルフィナ――殺し合おうか」

「ふふっ――わかったわ」


 二人がそう言って笑い合った、次の瞬間――同時に動いた。


「あはっ、いいね」


 先手を取ったのは、ルフィナ。


 顔面めがけて伸ばしてきた手を、しゃがむように躱しながら斬る。

 右腕の二の腕から先が宙へと舞うのを見て、ユリウスは笑う。


「今度は本物ね。斬った感覚が骨と肉だったわ。それに魔人形よりもだいぶ速いわ」

「君も僕の魔人形を相手してたより速いじゃん。本気出してなかったんだ」

「ふふっ、アタシは格下相手に本気を出すほど、優しくないの」

「あはっ、じゃあ今は本気かな?」

「どうかしら?」


 右腕を失ったまま、痛みに顔を歪めることなく、笑顔で喋り続けるユリウス。


 そんな男を目の前にしてもなお、余裕の笑みを携えたままのルフィナ。


 二人の男は、常人には全く見えない速度で戦い合う――。



 


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