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第140話 キョースケの技



 誰もが空を見上げ、その炎を見た。


 ルフィナやアリシア、シエル、冒険者達。

 そして魔人形であるユリウス達も、それを見ていた。



「――太陽、だ」


 

 誰かが、そう呟いた。


 その炎を見た人は口に出さなかっただけで、全員がそう思った。


 黒雲が出現してから五年ほど経った。

 その間、太陽を見たものはほとんどいない。


 黒雲で、隠れているから。

 朝も昼も夜も、多少の光は届いてるものの、太陽自体は全く見えない。


 だからか、キョースケが出した炎が太陽に見えた時……数人が、目を細めて涙を流した。



 太陽のような炎を放ったキョースケは、それの形を変える。


 とても大きな炎だったが、細かく一つ一つ分かれていく。


 その数は、十七個。

 残っている魔人形のユリウス達と、同じ数であった。


 その十七個の炎の塊が、また形を変えていき……鳥になった。

 全部がキョースケとほぼ同じ姿をしているが、ただそれはキョースケが作り出した炎の分身。


「キョー」


 キョースケが「行け」とでも言うように鳴くと、炎の鳥が全て羽ばたいて魔人形のユリウス達へ向かっていく。


 その速度はとても速く、上空を眺めていた魔人形のユリウス達をいとも簡単に直撃する。


 腹を貫き、貫いて焼かれた皮膚からどんどん全身に広がっていき……跡形も残らない。


 一撃目を避けてそのまま逃げようとした魔人形のユリウスもいたが、炎の鳥は追尾していく。

 本物よりも少し遅い魔人形のユリウスは避けきれず、直撃して消し炭となる。


 そして……ものの数十秒で、魔人形のユリウス達は全滅した。



「……美しすぎるわ」


 S級冒険者のルフィナはその太陽、そして炎の鳥を見て、感動し涙を流していた。


 美しさを重視するルフィナだからこそ、あの太陽を見て涙を流さないわけがなかった。


 美しいだけじゃなく、強い。

 十七体の魔人形を、いとも簡単に破壊してしまった。


 ルフィナでも数体同時に相手をするのに、手間取っていたというのに。


 美しく、強い。

 まさにルフィナが目指す、最高の頂点であった。


 最初はただの低級の魔物かと思ったが、全くの見当違いだった。


 あの太陽を作り出せるような魔物は、S級の魔物どころではない。


(伝説の、魔物……本当に、神話として語り継がれるぐらいの、魔物なはずよ……)


 なぜそんな魔物がただの人間の、冒険者の相棒をしているのかわからない。


 だけど、そこは別にいい。

 どうでもいい。


(はぁ……もう一度見たいわぁ。死ぬときは、あの太陽を浴びて、そして美しく散りたいわぁ)


 ルフィナはうっとりとした顔で、頬を赤く染めた。


 強くなりたくて、努力してきた。

 しかし強くなるにしたがって、誰も自分と対等に戦えることはなくなった。


 それはよかった、それを望んだのだから。

 しかしルフィナは、自分よりも強い相手に支配されたいという被虐趣味の持ち主だった。


 強くなったのはよかったが、自分よりも強い相手が誰一人現れないことはあまり想定していなかった。



 強くなって、強くなって――それでも自分が全く敵わないような相手に、殺されたい。



 そんなことを本気で思っている、変態であった。



 そして、全ての炎の鳥が魔人形のユリウス達を貫き、消し炭にすると姿を消した。

 姿を消したことに残念がるのは、ルフィナだけであった。


 冒険者達は「おおぉぉぉ!!」と大声を上げて、今目の前で起きたことに驚き、興奮していた。


「なんだ今の!? 炎の鳥!?」

「強すぎるだろ! あの黒い男達を、一発で跡形もなく消し飛ばしたぞ!」

「死ぬかと思ったぜ……!」


 もう危険も過ぎ去ったので、安心したようにそう口々に言う。


「はぁ、良かったっす。にしても、さすがキョースケっすね……ん?」


 アリシアもギリギリで避けていたのでほっと一息をついたが、背中に背負っていた重みが無くなったのに気づく。


「あっ、シエルちゃん!」


 周りを見渡すと、シエルがふらつきながらもどこかへ向かって歩いていた。

 すぐにアリシアがシエルに追いついて、身体を支える。


「いきなり離れてどうしたんすか?」

「キョ、キョースケが……!」

「キョースケ?」


 アリシアがシエルが見ている、進んでいた方向の空を見上げると……キョースケが落ちてきているのが見えた。


 いつもならゆったりと、翼を羽ばたかせて降りてくるのだが。

 今は翼を閉じ、しかも頭から落ちてきていている。

 つまり重力による、自由落下である。


「えっ!? キョースケ!?」

「アリシア、お願い!」

「わ、わかったっす!」


 シエルのことを離し、すぐさまキョースケの元へ走る。


 幸いにも距離は近く、すぐにアリシアが追いついて地面に落ちる前に受け止めることが出来た。


「キョースケ、大丈夫っすか?」

「キョー……」


 アリシアの腕の中でキョースケは力なく答えた。

 気絶はしてない様子だが、飛べるほどの力はもうないということのようだ。


「キョースケ、大丈夫……!?」

「キョー……」


 後から追いついたシエルに、キョースケが「大丈夫だよ」と言うように鳴いた。



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