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第14話 島外へ


 フワフワした寝床から起き上がって伸びをする。

 翼を広げ、バタバタ。


 人間の時はあまりしたことなかったけど、寝て起きて伸びをするのはなんか気持ちいい。

 開放感がある。


 よし、十分に睡眠を取った!

 ご飯はいらないから食べてない! というかまず食べ物がないから食べようがない!


 これからは旅をするから、ここにはしばらく戻ってこない、と思う。

 前はすぐに戻ってきたからあまり明言しないほうがいいかもしれない……。


 今回もとりあえず像の前に行く。

 僕の一回り大きい鳥の像だから、なんとなく心の中で親だと思っている。


 今度こそじゃあね、像。

 前より強くなったから、僕はこの世界を旅するよ。

 黒い雲を無くして、綺麗な空の中を飛んで帰ってくるね。


 そう思ってから、すぐに飛び立つ。

 天井の穴を通り、左に続く大きな穴を抜ける。


 洞窟を抜けると、やはりこの島の上だけは青空が広がっていて、他の所は黒い雲に覆われている。


 この空、僕は気に入らない。

 僕が飛びたい空はもっと綺麗で、自由なんだ。


 なんだかあの黒い雲は空を縛って不自由にしている気がする。

 この空を解放するために、僕は旅をする。


 一度この島の周りを飛ぶ。

 半年程、ずっとこの島で訓練してきた。

 一人でずっとするのは少し寂しかったけど、目標に向かって努力するのはやはり楽しくて面白かった。


 これからも僕は目標に向かって努力し、飛び続ける。


 人間の頃に出来なかったことが、鳥の身体になってから出来るようになった。

 それだけでもとても嬉しいけど、僕はもっと傲慢に生きようと思う。


 だから、この黒い雲を無くして綺麗な空を飛ぶ。


 それが僕のこの人生……いや、鳥生の最大の目標だ。



 ◇ ◇ ◇



「なんで私は呼ばれたの?」


 一人の女が、不機嫌そうに言い放った。


 ここはとある場所。

 豪華なテーブルの真ん中に一つ、蝋燭が灯されている。

 そのテーブルを囲んで、席についているのが四人。


「こんな陰気臭い所に呼ばないで欲しいわ。変な匂いもするし」


 四人の中でただ一人の女が、自分の服を少し嗅ぎながら言った。


「こんな所にいたらこの匂いが私の服に付いてしまうわ。早く要件を話しなさい」


 そう急かすように言うと、女の対面に座っている男が話し出す。


「俺の配下の、ブラックドラゴンが殺された」


 その言葉に女が目を見開く。


「あれが? 結構強かったわよね?」

「ああ、純粋な戦闘力なら俺より上だ」


 ブラックドラゴン。

 ドラゴン種の中でも最強と言われる魔物である。

 普通のドラゴンは炎か毒を吐くのだが、ブラックドラゴンは岩を吐く。

 その岩はとても硬く、スピードも速いので普通の人間が当たれば肉片と化すだろう。


 ドラゴン自体のスピードも速く、岩を吐く前に近づかれて噛み砕かれ押し潰される。


 ドラゴン種というだけで最強なのに、その中でも最強。

 ブラックドラゴンに遭遇したら、どんな生物もまず死ぬことを覚悟するだろう。


「へー、それは驚いたわ。私を呼ぶのもわかるわ。で、誰に殺されたの?」


 女は今のこの世界でブラックドラゴンを殺せる人間や魔物がいるとは思わなかった。

 そんな奴がいれば、この四人の野望が邪魔をされるかもしれない。


「わからん。俺も知ったのはついこの間。まだ情報があまり入ってきていない」


 ある大陸の浜辺で、ドラゴンの死体が見つかったという情報が入った。

 男は自分の配下にドラゴンがいるのでもしかしたらと思って見に行くと、まさかのブラックドラゴンだったということだ。

 その時感じた衝撃はこの何十年も感じたことがなかったほどである。


「はぁ? 誰かわかってないの?」

「ブラックドラゴンは俺の配下だったが、指示に従ってたわけではない。配下になれば強い奴と戦えると考えていたんだろう」


 男はドラゴンと話せる能力を持っていた。

 前にドラゴンと話した時に、自分より強い奴と戦いたいと言っていたのを思い出す。


 男が「自分と強い奴と戦ったら死ぬだろ?」と問いかけると、「自分の力を全て出し、その全てが通じずに負け、死ぬ。言葉にするだけで甘美な響きだ」と言っていた。

 ブラックドラゴンの考えが男には全くわからなかったが、こいつのその望みが叶うことはないだろうと心の中で思った。


 自分でも勝てなかったこのドラゴンが負けるなんて、全く思わなかった。


 しかし浜辺で見たブラックドラゴンの死体は傷が大きく、確実に誰かに殺されたということがわかった。

 身体はボロボロになっていたが、顔はとても安らかに眠っているようだった。

 ドラゴンと話したことがある男だけが、笑って死んでいるということが理解できた。


「配下ではなかったからあいつがどこにいたのか、俺にはわからない。おそらく強い奴の近くに住んでいたということがわかる」

「強い奴っていうのはわかってるわよ。本当どうしようもない馬鹿ね、あんたは」


 そのブラックドラゴンを殺せるほどの者が弱いわけない、それはここにいる四人全員がわかっている。


「で、どうするのよ。その強い奴は邪魔になるわ」

「わかっている。これから調べて――そいつを必ず殺す」

「強いんでしょ? あんたより」

「ふん、強い奴を殺すのは、倒すより簡単だ」


 男は自信満々にそう言う。


 女は知っている。

 この男が自分より強い相手を何度も殺してきたことを。


「ならいいわ。要件はこれだけ?」

「ああ、もう帰っていいぞ」

「そうさせてもらうわ。こんな所にずっといたらヘドが出るわ」


 女はそう言うとすぐに立ち上がって出口に向かう。


 部屋を抜け、建物から出る。


「あのブラックドラゴンを殺せる奴、ね……」


 建物から出るとそう呟く。


「早く見つけないと、あの男達より先に――私の野望は、誰にも邪魔させない」



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