第139話 魔人形のユリウス
あのユリウスという男が、どれだけ重要な部分を渡したのかわからない。
あいつはヤバイ奴だったから、こちらが想像出来ない部分を渡していそうだ。
しかし魔人形にもかかわらず、ほとんど本物と変わらない強さ。
もともとヘレナさんと一対一で戦いあっていた強さだ。
S級冒険者のアイリさんよりも強い、ヘレナさんと。
「キョー!」
翼を広げ、そこから炎の槍を二本放つ。
魔人形のユリウスは避けられずに、腹を貫通して倒れた。
僕は魔法を放つ感じなので、ルフィナさんのように骨や肉を斬る感触など全くわからない。
だけど、やはりこれが全て偽物というのはわかる。
昨日のユリウスの動きだったら、今の攻撃は避けているだろう。
しかもあいつの厄介なところは、その回復力だ。
回復魔法を使って、どれだけ傷ついても魔力がある限りずっと回復し続ける。
昨日は腹に風穴が空いても、一瞬で治った。
今目の前にいる魔人形のユリウスは、回復魔法は使えないみたいだ。
だから斬られたり、攻撃を喰らえば、普通に倒れて動けなくなる。
やはり本物よりは少し弱いが……それでも、A級冒険者以上の力はあるようだ。
「く、来るなぁ!!」
「つ、強すぎる! くっ、ああぁぁぁ!!」
後ろに下がらせた冒険者達だが、それでも魔人形のユリウスは彼らを狙う。
毒にやられずに動いていた冒険者達も、数人殺されてしまった。
しかも毒で倒れていた冒険者も、そのまま頭を踏み潰されて死んでしまった人が何人かいる。
「力、特に握力が強いらしいわね! みんな、掴まらないように避けなさい!」
ルフィナさんが魔人形を数体倒しているが、それでもまだまだ魔人形は残っていた。
それに魔人形のユリウスは、数体がかりでルフィナさんと戦っている。
シエルはもう素早く動けないから、アリシアが抱えて魔人形に掴まらないように逃げていた。
僕は空中で魔人形が届かないところまで上がって、ルフィナさん以外を襲っている魔人形を撃退しようとするが……。
とても、疲れてきた。
ここまで魔力が無くなったのは、初めてだ。
いや、あの黒いドラゴンと戦った時も、これくらい魔力が無くなったかもしれない。
もうこれ以上無くなったら、本当に危ない……僕の本能が、そう感じている。
炎の威力も弱くなってきて、速度も落ちている。
さっき、二、三本炎の槍を飛ばしたが、本物よりも弱いはずの魔人形に避けられた。
当たっても一発じゃ破壊出来ず、二発目の攻撃が必要になってしまった。
これは本格的にヤバイ……!
だけど、それでも……!
アリシアに抱えられて逃げているシエルを見る。
「アリシア、私はいいから倒れてる冒険者の人達を……!」
「何言ってんすか! シエルちゃんを放ったら、すぐに捕まって死んじゃいますよ!」
「私は、大丈夫だから……!」
「真っ青な顔して何言ってるんすか!」
シエルは気絶する寸前まで魔法を使ったのに、まだ戦おうとしている。
他の人を助けようとしている。
じゃあ……相棒の僕も、頑張らないといけないよね。
「キョー!!」
僕が上空で注目を浴びるように叫ぶ。
冒険者達や、ルフィナさん、シエルやアリシアがこちらを見てくれる。
シエルは僕の鳴き声に込められた意味が、わかっているだろう。
「っ! みなさん、今からキョースケが攻撃します! それまで耐えてください!」
この攻撃は、溜めるのに時間がかかる。
それに今は魔力も底をつきかけていて、さらに時間がかかるし、キツイ。
だけどそれでも、やらないといけない。
シエルを守るために。
僕は、シエルの相棒なんだから。
三十秒ほどだろうか、僕は炎を溜め終わった。
「キョー!」
「キョースケの攻撃が来ます! みなさん、その場からあまり動かないでください!」
よし、シエルありがとう。
しっかり伝わってる。
まだこの攻撃は完成してなくて、繊細な操作が出来ない。
だから動き回る魔人形のユリウス達に当てるのは難しいし、さらに冒険者達を避けて攻撃するのはほぼ不可能だ。
だから冒険者達だけでも、動かないでいて欲しい。
そして僕は、炎を解き放った。