第138話 バラバラにしたが…
一瞬だった。
ルフィナさんがいつユリウスの背後を取ったのかもわからない。
そしてユリウスが振り向く間も無く、バラバラにしてしまった。
首、胴体、手足、全てが別れている。
バラバラに別れた五体は、そのまま地へと堕ちた。
ルフィナさんは剣についた血を払うように、一度剣を振るい、そして納める。
「ないと思うんだけど、この人の血にも毒があったら最悪だわ。触らない方が吉ね」
そう言いながら笑顔でこちらに戻ってくるルフィナさん。
「お鳥さん、シエルちゃん、それにアリシアちゃんも大丈夫?」
「あたしは大丈夫っす」
「そう、良かったわ」
今まさに、人を殺したのに普通の笑顔で話しかけてくるルフィナさん。
なんだか少し怖いけど、やってることは正しいのか……。
あっちも殺そうとしたんだし、僕もユリウスを殺そうとしていた。
「ル、ルフィナさん、まだ油断しないてください……! あいつ、まだ生きてる可能性があります!」
「えっ、どういうこと?」
あっ、そうだった!
昨日、ヘレナさんとシエルがユリウスと戦った時、一度首と胴体が完全に離れたと言っていた。
だけどそれでもユリウスは死なずに、首が繋がったらしい。
なんでも魔神の血を貰っているからだという。
僕達はルフィナさんがバラバラにしたユリウスを見る。
……特に動かない。
まるで死んでいるかのように。
いや、普通だったら死んでるから、その通りなんだけど。
「……動かないっすね」
「あ、あれ、死んだのかな?」
首を切っただけじゃ死ななかったけど、もしかしたらバラバラにしたら死ぬのかも?
どこが急所なんてわからないしね。
「それに生きてる気配もないわ……あれ、でも、そういえば……」
「ルフィナさん、どうしたんすか?」
ルフィナさんは何か疑問に思ったのか、顎に手を当てて考え込む。
そして剣を抜き、目を瞑りながら剣を振るった。
「ど、どうしたんすか?」
「……うん、わかったわ。あの男、偽物ね」
「えっ!?」
ルフィナさんが断言するように言ったセリフに、僕達は驚いた。
「ど、どういうことっすか? さっきの男が、偽物って?」
「多分魔法で作られた魔人形よ。精巧な作りだけど、斬った感触が違ったわ。肉や骨がない、ただの硬い鉄を斬った感じ」
「本当っすか? だって、あんな水の魔法を出したり、さっきだって普通に血が出てたり……」
「アタシも魔法のことなんて詳しくないわよ。だけどアタシの腕は確かに、あれが人間じゃないって確信してるわ」
まさか、目の前にいたユリウスが偽物だったなんて……。
そういえば確かに、昨日感じた「本能的に、心の底から大嫌い!」っていう感じがあまりなかった気がする。
見た瞬間になったので、今日もそうなってもおかしくなかったはずだ。
だけどならなかったから、あれはやはり偽物なのか。
「じゃあ、本物はどこに?」
シエルの言う通り、本物はどこにいるのだろうか?
「――っ! みんな、また来たわよ」
「えっ?」
ルフィナさんが鋭く辺りを見渡すと同時に……地面から、何本も手が生えてきた。
「ひっ!?」
「キョッ!?」
シエルと僕が一緒になって悲鳴をあげてしまった。
いや、すごいホラーじゃん……!
僕、ホラー苦手なんだよ!
十人以上の手が出てきて、そして這い上がってきたのは……全員、ユリウスの顔、身体をした者だった。
「なっ!? あ、あんなにいっぱい、魔人形がいるんすか!?」
「すごいわね……魔人形って作るの大変って聞くけど、どれだけの実力者がやったのかしら?」
うわー、キモい……。
嫌いな相手があんないっぱいいるのは、やはり気色が悪い。
全員ニヤニヤして笑ってるから、なおさらキモい。
「あの中に本物がいるんすかね?」
「わからないわよ、アタシは本物を知らないんだから」
「キョー」
「キョースケが、多分いないって言ってます」
さっきも言ったけど、あの中に見た瞬間に生理的に受け付けない、みたいな奴がいないから、多分全員が魔人形なんだと思う。
「あら、そうなのね。じゃあ普通にバラバラにしましょうか」
ルフィナさんがそう言いながら構えると、後ろにいた意識がある冒険者達も立ち上がる。
「俺達もやるぞ! やられっぱなしは性に合わないからな!」
そういえばこちらにも、まだ三十人近くの冒険者がいたのだった。
各々武器を取り、ルフィナさんと並んでユリウスの魔人形に立ち向かう。
「ふふっ、イイ男達ね。頑張りましょう、みんなで」
「おう! いくぜ――」
声を上げていた人が、突如言葉を止めた。
その人を見ると、遠くにいたはずのユリウスの魔人形が、冒険者の人の顔面を握っていた。
「……はっ?」
――グシャ。
嫌な音が響き、ユリウスの魔人形がその人の顔面を握り潰した。
「っ!? 離れなさい!」
誰もが固まった状況で、ルフィナさんだけが一瞬で動いて、先程同様にユリウスの魔人形をバラバラにした。
しかし時すでに遅く、顔面を潰された人は誰が見ても手遅れの状態だった。
「う、うわぁぁぁ!?」
「なんだよ、そんなに強いのかよ!?」
冒険者達は動揺と混乱をし、さっきまでやる気だったのが一気にその気持ちは消え去ったようだ。
今殺された人は、おそらくA級冒険者だったはずだ。
S級冒険者を除けば、最強の階位。
それなのにあっさりと殺されてしまった。
ユリウスの魔人形によって。
「他の者達は下がりなさい! アタシがやるわ!」
「つ、強すぎないっすか!? 魔人形ってあんなに強いんすか!?」
遠くにいたはずなのに、一瞬で近寄ることが出来る速さ。
それに人の頭を簡単に握り潰すほどの力。
どれも昨日戦った、本物のユリウスと遜色ない。
「魔人形は作った人の技量、それに元になった人間の一部を使って作るわ。普通は元になった人の強さを超えないし、とても弱くなるはずよ」
「昨日戦いましたが、強さはほとんど変わらないように見えます!」
「だったら、元になった身体の一部が、多分相当重要な部分だったってことね。だけど、これだけの数の魔人形全部に、重要な部分を渡してたら普通死んじゃうわよ!」
ルフィナさんは近寄ってくる魔人形の攻撃を避け、そして攻撃しながら言った。
「ねぇ、魔人形はもっと作れないの?」
「あの数が俺の限界だ。それにお前が代償にする臓器がキモいから、もうやりたくない」
「いくらでも渡すけどなぁ――僕の心臓くらい」