第135話 最強と最強
S級冒険者、ルフィナ・アクロフ。
ノウゼン王国にいる三人のS級冒険者の中で、ただ一人の男。
そして、唯一魔法を使えない者でもある。
細身に見えるその身体は、誰よりも鍛えられている。
身体強化の魔法を使えないのに、誰よりも速く、強い。
S級冒険者の中で、最強である。
「ちょっとちょっと! どうするのよこれ!」
そんなルフィナが今、負けそうになっていた。
周りにはまだ何百体もいるアンデッドの群れ。
全力で剣を振るうが、さすがに一人で戦うには限度がある。
アンデッドの体内から毒が出るようなので、それを至近距離で避けられる者はルフィナしかいない。
他の前線で戦っていた冒険者達は、倒れるか撤退するかで戦線を離脱。
魔法を使える者が攻撃を続けていたが、それでも前線にもっと人数がいないと厳しい。
しかもアンデッドなので、斬っても斬っても死なない。
胴体を真っ二つにしても動き続けて、他のアンデッドの身体と合体してしまうのだ。
まだ大きな合体をしていないから、タキシムのような強い魔物は出てきていない。
「むしろここまでアンデッドが多くいたら、合体して欲しいわぁ……!」
合体して強くなるといっても、タキシムほど強い魔物が出ることは稀である。
多少強くなるとしても、S級冒険者のルフィナだったら簡単に対処可能だろう。
だから強くなるとしても数が少なくなるので、合体して欲しいのだが……そう上手くはいかない。
全く合体する様子もなく、次々とルフィナにアンデッドが襲ってくる。
「キツイわぁ……! アレも持ってきてないし……!」
四方八方から襲ってくるアンデッドを、なんとか剣で突き、振るって斬っていく。
吹き出る毒の水はルフィナの振るう剣の衝撃で、ルフィナの方に飛び散ることはほとんどない。
飛び散ってきたとしても、毒の水だし、それに汚いからルフィナは避ける。
体力も問題ないが、このままではルフィナ以外の冒険者がアンデッドに襲われた時、確実に守れないだろう。
ここは撤退するしかない……ルフィナがそう判断しようとした、その時。
「キョー!」
「えっ……?」
自分の足元で蠢いていたアンデッドが、一気に焼き払われた。
胴体や下半身だけになっていたアンデッドはまだ動いていたが、今ので完全に消し炭となった。
とても大きく威力のある炎が、五十体以上のアンデッドを燃やし尽くしたのだ。
それほどの魔法の威力を持つ冒険者など、いただろうか?
(というか、今の鳴き声……あのお鳥さん?)
炎でアンデッドが消し炭になる前に聞こえた鳴き声。
確かアリシアが連れていた、B級冒険者の相棒の魔物だったはず……。
そう思って、鳴き声が聞こえた方向を振り返る。
そこには空中で羽ばたきながら、翼を炎に変えているキョースケの姿があった。
(嘘でしょ……!? なにあれ、美しい……!)
見たことがない鳥の魔物で、ただの可愛い、か弱い魔物だと思っていた。
だが今目の前にいる魔物は、これまで出会ってきた中で一番の美しさを持つ鳥、魔物であった。
その炎はとても強く、気高く、美しかった。
「キョー」
キョースケがまた翼を羽ばたくようにさせて、炎を辺り一面に放つ。
激しい炎は燃え盛り、ルフィナが斬ったアンデッドを焼き尽くしていく。
「ふふっ、いいわね! 上出来よ、お鳥さん!」
足元にアンデッドがいなくなったので、だいぶ動きやすくなったルフィナ。
今までは斬って相手が地に沈んでも、まだ動くので足元に転がるアンデッドに警戒しなければならなかった。
しかし今はもう、アンデッドをキョースケが消し炭にしてくれた。
ルフィナは持ち前の速さと力を生かし、どんどんアンデッドを突き、斬っていく。
そして倒れたアンデッドを、キョースケが炎でトドメを刺す。
ルフィナが斬り刻み、バラバラになっても動くアンデッドをキョースケが焼き尽くす。
さっきまでキョースケが炎を出せなかったのは、多くの冒険者が前線にいたからだ。
まだそこまで繊細な操作が出来ないので、大きな炎を出したら巻き込んでしまう可能性があった。
しかし毒の水のせいでルフィナ以外の冒険者が下がることになったので、出し惜しみなく炎を放てる。
毒にやられた冒険者を治すため、シエルは後ろで待機している。
今アンデッド相手に戦えるのは、ルフィナとキョースケだけ。
しかし、何の問題もなかった。
むしろ冒険者が百人以上いても、ルフィナとキョースケの殲滅力には敵わない。
最強と最強が、組んだのだから。
「お鳥さん、いくわよ! 私の美しさに惚れないようにね!」
「キョー!」
キョースケの鳴き声に、「惚れるわけないよ!」という意味が込められているのは、シエルしかわからなかった。