第134話 アンデッドの群れ
ルフィナを先頭に歩くこと、数十分。
王都を出て東に歩いていたが、すぐに今回の異変の元凶を見つける。
視力が良いキョースケだけじゃなく、人間の冒険者達もすぐにそれに気づいた。
地平線に広がるようにいる、アンデッドの群れ。
どれだけの数がいるのか、さすがに見てはわからないが、情報によると千体以上。
キョースケやシエルが前に見たアンデッドは、A級の魔物であるグール。
元々はB級だった魔物が、黒雲の影響でA級の魔物になった。
今目の目に広がっているアンデッドの中にも、グールは何十匹も見える。
前にキョースケがアイリと一緒に戦った、タキシムの姿はさすが見えない。
だけどあの魔物は、アンデッドが合体して出来た魔物。
千体以上もいるとなると、いつ合体してもおかしくない。
「ほとんどB級のアンデッド、しかもA級も混ざってるじゃねえか……!」
「あの数は、マズイんじゃねえか……?」
冒険者の中で誰かがそう呟いた。
その不安の一声は、冒険者の全員に浸透するように響いた。
確かにアンデッドのあの数は、とても脅威的だ。
しかもアンデッドはなかなか死なない。
剣で胴体を、首を切っても死なず、動き続ける。
一番有効な手立ては、おそらく炎の魔法とかだろう。
いくら上位の冒険者といっても、百人と少しくらいしか人数がいない。
B級やA級のアンデッドが多くいては、負けることは確定だろう。
しかし、それは……。
「スゴイいっぱいいるわね……ヤル気出るわぁ」
圧倒的な強者が、いない場合だ。
ルフィナは自身の腰に差していた、得物を抜く。
細身な剣で、主に刺突に重きを置いた武器である。
しかしレイピアよりも幅は広いので、斬ることも出来る。
美しさを重視するルフィナにとって、この剣はとてもお気に入りであった。
「ふふっ、アタシの美しい剣技に惚れなさい!」
もちろん、美しさだけじゃない。
先頭を歩いていたルフィナは、冒険者の集団から抜け出してアンデッドの群れに一人突っ込んでいく。
その速さは目にも止まらず、冒険者達はアンデッドの十数体が宙にぶっ飛ぶのを見て、ようやくルフィナが先頭からいなくなったことを認識出来た。
細身な剣の一回の刺突でアンデッドの一体の頭を破壊。
その勢いは一体だけにとどまらず、後ろに並んでいた三体のアンデッドの身体も破壊していく。
斬撃を繰り出せば、五体ほどの身体が斬り裂かれ、その衝撃の余波によって周りのアンデッドも吹っ飛ぶ。
まさに無双であった。
「ふふっ、やっぱりただ剣を振るう依頼って楽しいわね」
アンデッドの群れの中、ルフィナは最強の剣技を見せつけながら踊るように戦う。
斬った時にアンデッドから飛び出す血のような、水ようなものすら、ルフィナの身体にはついていない。
汚いと思ってそれすら避けて、そして斬っている。
「ほら、アナタ達も早く戦いなさいよ! アタシが五百体くらい、軽く相手してあげるから!」
その言葉に、呆然と見ていた冒険者達も動き出す。
シエルとキョースケ、アリシアもそれに続いてアンデッドの群れへ向かっていく。
冒険者は魔法を使う者の方が珍しく、十人ほどは群れの中に突っ込まずに魔法を放つ。
シエルはもちろんこちら側だった。
その他はルフィナに続いて、群れの中で剣や斧を振るい、アンデッドを斬り裂いていく。
アンデッドは斬っても死なないので、胴体から斬っても油断は出来ない。
一番は炎で燃やし尽くしたり、粉々になるまで斬りつけることだ。
だから魔法使いは後ろで炎を放ち、放つまで食い止め、そして斬りつけるというのが一番有効的な戦い方。
――しかし。
「ウワァァァ!?」
どこからか、予期しない叫び声が上がった。
アンデッドにやられたのか、と思い周りの者が叫び声を上げた者を見ても、特に外傷はない。
叫び声をあげた者は、身体をピクピクと震わせながら倒れ伏している。
何年も冒険者を続けてきた冒険者達は、その反応を見て何が起きたのか見抜く。
「毒だ! アンデッドの中に、毒を持ってる奴が……っ!?」
そう叫んでいる者が、最後まで言葉を続けることなく倒れてしまった。
身体中に痛みが走り、意図せずに痙攣が起こる。
「なんなんだ!?」
「何が起こっている!? 毒とはなんのことだ!?」
冒険者の間に、混乱が広がる。
次々に前線で戦っていた者から、毒にやられて倒れ伏していく。
「なになに!? なんでアナタ達倒れてるのよ!?」
しかし一番前で戦っているルフィナは、毒にかかった様子もなく戦い続けられていた。
斬られて倒れているアンデッドを炎の魔法で焼いていたシエルは、あることに気づいた。
(アンデッドを斬った時に、水が出る……? そんなの、聞いたことない!)
アンデッドの身体の中には、血も水もない。
だから斬りつけた時に水のようなものが出るのはおかしいのだ。
そしてその水を被った前線の者が倒れ、水すら避けているルフィナは毒にやられている様子はない。
(それに……私とキョースケは、昨日水の中に毒を仕込んで戦ってた奴を知っている!)
シエルは隣で飛びながら、炎をアンデッドに向けて飛ばしているキョースケを見る。
キョースケも同じことを考えていたようで、一緒になって頷く。
「アンデッドから出る水を浴びてはダメです! それが毒です!」
シエルは毒で痙攣している者に解毒魔法をかけながら、そう叫んだ。
「なんだと!?」
「くっ、じゃあ接近戦は不可能じゃねえか!」
冒険者は口々にそう言いながら、アンデッドの群れの中から撤退する。
アンデッドに普通にやられる者はあまりいないが、斬りつけた時に出る水を避けるのは難しい。
それこそ、S級冒険者のルフィナしかそれを出来る者はいない。
「ちょっと! さすがにアタシ一人じゃ無理よぉ!」
「ルフィナさん、ごめんっす! あたし達じゃ無理っす!」
アリシアもそう言いながら、水に触れないように撤退する。
S級冒険者の中でも最強といっても、これほどの数のアンデッドに囲まれれば厳しい。
万事休す、もう撤退するしか手はないのか――。
「あはっ、来てる来てる、あの赤い鳥……次こそ殺すよ」
「我がアンデッドの脅威に、躍り狂え」