第133話 最後のS級冒険者
その声は人で溢れかえっているギルドの喧噪の中、よく響いた。
特に大きい声でもないのに、全員の耳に届いたはずだ。
だから全員が、ギルドの入り口を見る。
僕とシエル、アリシアもその人物を見た。
「前の依頼がすごい時間かかっちゃった……アタシったらまだまだね」
その人は……肩くらいまで伸びている黒髪を、綺麗に整えていた。
前髪に一本太い束を作って、垂らしているのが印象的だ。
顔立ちはとても整っていて……この世界に来て、一番顔立ちが綺麗な男性と言っていいだろう。
「なんか緊急事態だって聞いたから急いで来たけど、みんな集まってるのね」
……整っている顔立ちに、少し濃いめな化粧をしている。
目元や唇が他の人と色が違うので、特にわかりやすい。
というかこの世界にも化粧、というものがあったんだ。
背も高くてスタイルが良いその男性……うん、男性、だよね。
女性にしてはガタイがいいし、男っぽい低い声だし。
すごいイケメンんだけど、なんか、仕草とか表情とか、言葉遣いとかが……女性っぽい。
「アリシア、あの人誰?」
シエルが小さな声で隣にいるアリシアに、そう問いかける。
「えっ? ああ、シエルちゃんは知らないっすよね」
僕も誰かわからないけど、多分あの人が……。
「ノウゼン王国にいるS級冒険者の三人の内の一人。姉貴とマリーちゃん、それにあの人……ルフィナ・アクロフさんっす」
「S級冒険者……!」
S級冒険者の、ルフィナ・アクロフさん……。
アイリさんとマリーさんと並ぶ、S級冒険者。
あの二人の強さを知っているので、ルフィナさんがどれほど強いのかもある程度予想してしまう。
しかし、だけど最後のS級冒険者は男性なのか……男性、だよね?
「あの人、男性だよね……?」
「そうっすよ。まあ、言動がどこか女性っぽいっすけど」
やっぱり男性であってるのか。
イケメンだけど中性的な顔立ちだから、女性という可能性を捨てきれなかった。
「あら、アリシアちゃんじゃない!」
ギルド内を見渡していたルフィナさんはそう言って、こちらに近づいてくる。
「久しぶりっす、ルフィナさん」
「久しぶりねー。また一段と可愛くなったわね、アリシアちゃん」
「あははー、ありがとうっすー」
「んー、アリシアちゃん棒読みね。アタシ悲しいわ」
身体をなぜかくねくねさせながら話すルフィナさん。
アリシアと顔見知りのようだ。
「アイリちゃんとマリーちゃんは?」
「依頼でどっか行ってるんすよ。多分あと二、三日は帰ってこないっすね」
「あら、そうなの。残念ね、久しぶりにあの子達にも会いたかったのに」
落胆したようにため息をついたルフィナさん。
するとアリシアの隣にいた僕たちに目線を向けてきた。
「あら、そちらの子は? それに可愛いお鳥さんね」
「は、初めまして、B級冒険者のシエルです。それに私の相棒の、キョースケです」
「キョー」
初めまして、可愛いって言ってもらえてよかったけど、一応男です。
「若いのにB級なのね、すごいわ。アタシがあなたぐらいの年齢の時は、まだ冒険者にもなってなかったかしら」
「あっ、そうなんですか、だけどまだ若そうですけど……?」
「ふふっ、そう? こんな可愛い子にそう言われるなんて、アタシもまだまだ現役ね」
何が現役なのかはよくわからない……。
「シエルちゃん、ルフィナさんは三十代後半なので、意外とおっさんっす」
「えっ! 全然見えない……!」
三十代後半!?
全く見えない、お世辞じゃなく、見た目は二十代中盤ぐらいだろう。
「ふふっ、ありがとうシエルちゃん」
「ルフィナさんは化粧してるから誤魔化してるだけで、それ取ると――」
「アリシアちゃん、土に埋まりたい?」
「ごめんなさいっす」
……今のはアリシアが悪いと思うけど、ルフィナさんすごい怖い。
「ルフィナ様、他の依頼が終わってすぐに来ていただいて、ありがとうございます」
ギルド長がこっちに近づいて来て、ルフィナさんに頭を下げてお礼を言う。
「いいのよ、これがアタシの仕事なんだから。だけど……特別報酬として、ギルド長と一緒に今夜飲みに行きたいわぁ」
「…………考えておきます」
ギルド長、めちゃくちゃ苦悩した顔をして、苦渋の決断といった感じで返事してた……。
「ふふっ、言質取ったわよ。やる気上がるわぁ。アタシ一人でも十分なくらい」
「未曾有の事態なので、それはやめたほうが……」
「わかってるわ、そういう気持ちってだけ。アンデッド千体を楽観視なんて出来ないわ」
さっきまでのふわふわした雰囲気とは打って変わって、真面目な雰囲気で話すルフィナさん。
「まあアイリちゃんとマリーちゃんもいないし、アタシが先導するわ。アタシが一番強いしね」
「はい、お願いします、ルフィナ様」
「みんなもそれでいいわね?」
集まった冒険者に向けてルフィナさんがそう言うと、全員が一様に頷く。
「ふふっ、じゃあ行くわよ。ついてらっしゃい、可愛い子達」
ルフィナさんはそう言ってギルドを出て行く。
その後ろを他の冒険者がついて行く。
僕とシエル、アリシアもその集団の中に入ってギルドを出る。
「なんか、アイリさんともマリーさんとも違う感じだね、ルフィナさんって」
「キョー」
そうだね……あの二人は周りとの協調性とかなさそうだけど、ルフィナさんは普通の人よりも協調性がある。
それに周りの冒険者が黙ってあの人について行くぐらい、信頼もされているのだろう。
「あと……すごい、強いね」
「キョ」
うん、そうだね。
多分……アイリさんとマリーさんよりも、強いと思う。
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