第131話 寂しい屋敷
僕とシエルはアイリさんの屋敷に戻ってきた。
その際に、シエルが屋敷の大きな扉の前に立って、しばらく待っていた。
いつもなら勝手に開く、いや、ヘレナさんが開けてくれてるのだが、今は開かない。
それに僕とシエルが気づいた時は、少し寂しくなった。
こんなに大きな屋敷に僕達だけ、というのは初めてだから。
久しぶりにシエルが夕飯を作ってくれて、僕達だけで広い食堂の中で食べた。
アイリさんやアリシアがいても広いと感じるけど、やはり今日はさらに広く感じた。
お風呂に入り、もう夜も遅いので布団の中に一緒に入る。
もちろん僕は抱き枕のように抱きしめられていた。
「明日には、ヘレナさんとアリシアは元気になってるかな?」
布団の中に潜ってから、シエルがそう話した。
「キョー」
多分大丈夫だよ。
シエルの解毒魔法はしっかり出来てたから。
お医者さんと、それにヘレナさんのお墨付きだ。
「……うん、そうだね。ありがとう、キョースケ。助けに来てくれて」
「キョー」
当然だよ、僕はシエルの相棒なんだから。
「それなら、エルフの国に行くのを事前に伝えて欲しかったなぁ」
「キョ……」
それは、ごめんなさい……。
アイリさんとマリーさんに、早く追いつきたくて……。
「……うん、わかってるよ。意地悪言ってごめんね。本当はわかってるんだ」
「キョ……?」
わかってる……?
いったい何のこと?
「キョースケが私に伝えずに行った理由。私が、足手纏いだからでしょ?」
「っ! キョー……!」
違う、そんなこと……!
「ううん、わかってるから、キョースケ……私がまだ、弱いってことは」
シエル……。
明かりを消しているので見えづらいが、シエルの顔は悲しそうに歪んでいる。
「最近は、アリシアやヘレナさんから、もうA級冒険者と引けを取らない実力があるって言われてたから嬉しかったんだけど……S級冒険者のアイリさんとかマリーさんに比べたら、まだまだだよね」
……確かにまだシエルは、アイリさんやマリーさんの二人ほどの実力をつけていないかもしれない。
だけどシエルは最近、すごい努力をしている。
ヘレナさんのすごいキツイ訓練に耐えて、実力もめきめき伸ばしてきてる。
「うん、それは自分でも思うよ。王都に着く前までに比べれば、魔法の使い方とかがすごい効率的になった。ヘレナさんの特訓のお陰だよ。だけど、私はまだまだ強くならないといけない」
シエルは力強い声で、自分に言い聞かせるように言った。
「A級になれれば、黒雲の調査が出来ると思ってた。実際はそうなんだけど、A級冒険者で満足するんじゃなくて、もっと強くならないといけない。だって……」
僕のことを抱きしめていた腕が、より一層強くなって引き寄せられる。
「私は、S級冒険者のアイリさん達よりも強い、キョースケの相棒なんだから」
「っ!」
「キョースケの相棒を名乗るには、もっと強くならないと」
シエル……。
「今日の相手、ユリウスっていう男も……私がもっと強ければ、ヘレナさんと二人で勝てたと思う。私が弱いから、ヘレナさんにすごい負担がかかって、ヘレナさんがあれだけ消耗しちゃったんだ」
僕はヘレナさんとシエルが協力して、あいつと戦っていたところを見てなかったからわからないけど……。
だけど普段のヘレナさんからは想像出来ないほど、追い込まれていたのは確かだった。
「だから、私もっと強くなるね。キョースケの相棒を自信満々に名乗れるくらい、強く」
「……キョー!」
わかったよ、シエル。
僕もシエルが強くなるのを、待ってる。
だけど無理しないでね。
頑張りすぎて倒れちゃったりしたら、ダメだからね。
「ふふっ、大丈夫だよ。わかってる。倒れるギリギリまでやるけど」
「キョー……」
本当にわかってる? それ……。
まあ最初の頃は、本当に朝の訓練の時に倒れてたからね。
「キョースケ」
「キョ?」
「これからもよろしくね。一緒に黒雲を晴らそうね」
「キョー!」
もちろん!
一緒に頑張ろうね!
「おやすみ、キョースケ」
おやすみ、シエル。
また明日。