第130話 夜の草原
その男……ユリウスは、鼻歌を歌いながら夜の街を歩いていた。
とても楽しそうに、すれ違う人も楽しそうな彼を見て微笑ましく見守るくらいだ。
しかしその男が、さっきまで死闘をしていたとは誰も思わない。
暗くて街行く人は見えないが、彼の服はズタボロである。
キョースケの炎や、いろんな攻撃を受けて服だけがボロボロ。
身体はすでに魔法で回復しているので、傷一つない。
「ふふーん……あ、イタタタっ……」
しかしなぜか、ユリウスの身体には痛みが残っている。
傷はないはずなのに、筋肉痛のような激しい痛みが身体を動かす度に走る。
「なんでだろうなぁ……多分、あの鳥の炎だと思うだけど」
今まで傷を治してから、ずっと痛いなんてことは一度もなかった。
先程の戦いも、ヘレナとの戦いではずっと身体を治していたのだ。
目を潰され、首までも飛ばされたのにそれを治した。
その時の痛みは、もう全くない。
だがキョースケの炎だけは、治したはずなのになぜか痛みが残っている。
「ふふっ……初めてだなぁ、そんなの。楽しい……!」
しかしユリウスはそんな痛みさえ、とても好ましく思っていた。
初めての経験で、なんとも刺激的な痛みで、気持ちのいい夜である。
「だけど、負けっぱなしは嫌だから……なんとか勝ちたいなぁ」
先程の勝負は、誰がどう見てもユリウスの負けだろう。
あのまま戦っていたら、確実に自分が死んでいた。
戦いにおいて、ほとんど負けたことがないユリウス。
あれほど敗色が濃厚なことは、生まれて初めての経験だった。
前に他の奴と戦って負けた時でも、接戦くらいには持っていけたはずだ。
「つまり、あの鳥……キョースケは、あの女よりも強いってことかぁ……あははっ、いいね、最高だよ」
四人で集まっている会議の中にいる、あの女。
あいつが今までユリウスが戦ってきた中で一番強かったが、キョースケはそれ以上。
ユリウスは何も出来ずに負けてしまった。
「さて……勝つためには、何か考えないとなぁ……」
そんなことを考えながら夜の街を歩いていたユリウス。
次第に考え事はとても深くなり、鼻歌もせずに集中して考え込む。
それほど、キョースケを倒す……殺すために、作戦を練っていた。
「……あれ、ここどこだ?」
そうして歩いていたら、街中を歩いていたはずなのに、草原のような場所にいつの間にか移動していた。
真っ暗な草原には誰もおらず、黒雲で凶暴化している魔物もいない。
周りを見渡すと、どうやら歩きすぎて街を出てしまっていたようだ。
背後には王都の大きな門が見える。
「ありゃ……変なところまで来ちゃった。戻ろうかな」
街の外へ向いていた身体を回転させ、また王都に戻ろうとした時……。
「おい、ユリウス。進捗はどうだ?」
誰もいない草原に、そんな声が響いた。
その声に聞き覚えがあったユリウスは進め足を止め、周りを見渡す。
「あれ、ラモンちゃん? どこにいるの?」
「ちゃん付けをするな、気持ち悪い」
その言葉は、ユリウスのすぐ後ろで聞こえた。
ユリウスが振り向くと、その男はいた。
「ラモン君、いたんだ。気づかなかった」
ラモン、と呼ばれた男は、ユリウスよりも身長が低い。
頭一つ分ほど違う。
幼さが残っているような顔立ちで、まだ成人していないかのような容姿である。
しかしその無表情で冷たい目は、子供のような容姿とはかけ離れた異質さを持っていた。
「……ちゃん付けよりはいいだろう。それよりも、任務を失敗したのか?」
まだ声変わりが済んでいないような子供の声だが、それでも威厳ある声。
「まだ失敗してないよ。だって僕は死んでないもの」
「……まあいい。ただ、不死鳥は見つけたようだな」
「うん、そうだね。多分あの鳥が不死鳥なんだろうなぁ」
「殺す手立ては考えたか?」
「今考え中。絶対に殺すから」
顎に手を当てて考えるユリウスに、ラモンが提案する。
「ふむ、お前とは相性が悪いようなら、俺が不死鳥を殺すか?」
そう言った瞬間――ユリウスの手がラモンの頭を掴み、そのまま握り潰した。
頭を失ったラモンの身体は、そのまま地面へ倒れ伏した。
「あっ……ごめん、殺しちゃった」
咄嗟に潰してしまった頭を離しながら、道で肩がぶつかった時に放つ謝罪のような、軽さを持って言った。
「……次は気をつけろ」
何事もなかったかのように、ラモンはユリウスの隣に立っていた。
少し不機嫌になったみたいで、ユリウスにそう注意する。
「ごめんごめん。イラッとしたからさ」
「まあいい。で、不死鳥を殺す方法は思いついたのか?」
「それが全然。飛べるのってズルいよねー」
確かに一番の問題点は、キョースケがはるか上空で攻撃を仕掛けてくるということだ。
ユリウスは飛べないので、地上からでは攻撃の手段があまりにも少ない。
「……ふむ、ではこういうのはどうだ?」
ラモンが不死鳥を殺すための作戦を、ユリウスに話す。
それを聞いていたユリウスの顔が、とても愉快そうに顔が歪んでくる。
「あはっ……いいね、楽しそうだ」
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