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第13話 旅へ


 とても、楽しかった。


 目の前には自分が倒したドラゴンの亡骸が浮かんでいた。


 黒い雲の上で殺したので、そのまま落ちると海だ。

 この身体の大きさなのに、ドラゴンって海に浮かぶんだ。

 海は濁った色をしていたけど、今はドラゴンの血で赤黒く染まっている。


 勝った、僕が。


 やはりドラゴンはとても強かった。

 力だけが取り柄だとなんとなく思っていたけど、いろいろな攻撃をしてきて対応が難しかった。

 一番困ったのは大きい岩を僕の方に飛ばして、それをギリギリのところで尻尾を使って岩を割りその破片を飛ばしてくる技。

 最初から破片で飛ばしてくるのとは違い、ギリギリで破片に変わるから避けるのがとても困難だった。


 生命力がギリギリで持ってくれた。

 あと十分くらい戦いが続いていたら、負けていたのは僕かもしれない。


 しかし――海に浮かんでいる死体を上から眺める。


 ドラゴンは笑っていた。

 戦う中でなんとなくその感情がわかった。

 言葉は通じなかったけど、お互いに本気で殺し合い、本気で楽しんでいた。


 ドラゴンがどれだけこの世界で強いのかはわからないけど、弱いということは多分ないだろう。

 そのドラゴンは、僕が殺したんだ。


 今までどこか他人事みたいに感じていたけど、どんどんと実感が出てくる。


 倒した! 前世じゃ運動をするどころか外にも満足に出られなかった僕が!

 どの物語でも最強と名高いドラゴンを!


 やったーー!!


 ◇ ◇ ◇


 嬉しくて適当に島の周りや森の中を飛び回ってた。

 生命力もあまりないからいつもよりスピードは出なかったけど、それでもとても気持ちいい。


 このことを洞窟の像に伝えに行こうと思ったけど、あのドラゴンがいなくなったから少ししたいことがある。


 黒い雲の上、そこにはもうドラゴンはいないから綺麗な空の下を飛び回れる!

 よし、すぐ行こう! 今すぐ行こう!


 島の上の晴れているところまで飛んでいき、急上昇していく。


 そして黒い雲を下に見えるところまで到達すると、今までしっかりと見れなかった空を見上げる。


 眼前には真っ黒な雲が広がっているが、空はどこまでも青く広がっている。

 その青さに僕が突っ込みでもしたら、赤色の体毛が青色になってしまうのではないかと疑ってしまうほど。


 とても――綺麗だ。


 僕は見惚れてその場を動けなかったが、少ししてから青空の下を飛び回る。

 空は、とても綺麗。

 だけど、やはり眼前が真っ黒な雲なのが残念だ。


 これが空のように青い海だったらどれだけ綺麗だっただろうか。

 もうそれを見たら僕は死んでもいいかもしれない。

 その中を飛んで、空や海に吸い込まれて死んでみたい。


 何分、何十分ほど飛び回っていただろうか。

 一瞬、島の上だけ晴れているところを見失うほど夢中になっていた。


 島まで戻り、洞窟まで戻る。


 僕が生まれた場所、白いフワフワしたところに身体を埋める。


 はぁ……極楽極楽。

 訓練をしている途中に気付いたけど、ここは生命力が回復するのを助けてくれる。

 なんでかわからないが、普通に休んでいるときとここで休んでいるときじゃ生命力の回復の早さが全然違う。


 とりあえずこれからどうするか考えようかな。

 この半年間、あのドラゴンを倒すために訓練をしてきた。

 訓練も大変だったけど、前世の頃からそういう運動なんてやってこなかったから、とても楽しかった。

 よくわからないところが筋肉痛になったのも、なんとなく嬉しかった。


 で、ドラゴンを倒して、空を見た。

 とても綺麗な青空だったけど、眼前の黒い雲が邪魔だった。


 ほとんど前世の夢を実現した、いや、色々戦えたりしてそれ以上のことをしているかもしれないけど、ここまで来たら全てを叶えたい。


 空、海、山、森、全てが目に入るところを飛んでみたい。

 それを見たら僕はもうそれ以上何も望むことはないだろう。


 だから、それを達成するためにはあの黒い雲を無くさないといけない。


 あれがなんなのか、全然わからない。

 もしかしたら黒いドラゴンを倒したら晴れるかも? と思ったけど、さすがにそれはなかった。


 あの黒い雲を無くさないと、僕の夢が全て叶うことはない。


 どうするべきか……。


 やっぱり、旅に出るしかないよね。

 この島には人も魔物もいないから、何もわからない。


 もしかしたら人に聞いたらあの黒い雲がなんで出てきたのか、どうやったら晴れるのかなどがわかるかもしれない。


 旅、つまり冒険。


 前世の頃にマンガやアニメの登場人物がしていた、あの冒険を僕もやることになるとは。

 とても、とても楽しみだ。


 今すぐにでもこの洞窟から飛び出したいけど、今は生命力の回復をしないといけない。


 僕は最後になるかもしれないこの白くてフワフワの寝床を堪能しながら、眠りについた。



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