第125話 キョースケ対ユリウス
「キョー」
シエル、僕の足についてる瓶、外して。
「えっ? あっ、もしかしてこれが……!」
「キョー」
そう、黒雲病の完治薬。
僕がエリオ君のために、エルフの国のフォセカ王国に行って、貰ってきたもの。
あいつと戦って、壊されちゃたまらないから。
「わかった……」
僕の足についている完治薬を、シエルに受け取ってもらう。
本当ならさっき、炎を飛ばすんじゃなくて自分の身体で体当たりしたかった。
だけど薬があるから、それは絶対に出来なかった。
シエル、それを持って離れてて。
あいつとは、僕が一人で戦うから。
「えっ、キョースケ、大丈夫?」
「キョー」
大丈夫。
絶対に勝つから。
「キョースケ、様……」
まだギリギリ浮かんでいるが、今にも魔法が切れて地面に倒れそうなヘレナさん。
「あの者は、毒の水を使ってきます……おそらく、貴方様の弱点を全て突いている攻撃です。決して、浴びてはいけません……」
そうか、だから二人は地面に足をつけないように浮かんでいるのか。
地面がぬかるんでいるのは、毒の水が染み渡っているということ。
ヘレナさんがここまで消耗するほどの相手。
油断は全く出来ない。
「キョー」
ヘレナさん、ありがとうございます。
頑張ります。
「ご武運を……」
「ヘレナさん!!」
最後の言葉を言い放ち、ヘレナさんは崩れ落ちた。
それをギリギリでシエルが抱え込んだ。
わかっていたことだが、これでもうヘレナさんは全く戦えない。
シエルもすでに結構魔力を使っているみたいだし、ヘレナさんを抱えて、さらに気絶しているアリシアもずっと浮かしている。
完全に、僕とあいつの一対一だ。
「キョー」
シエル、下がって。
出来ればその薬をエリオ君に渡しに行ったり、ヘレナさんやアリシアを病院に連れていったりした方がいいと思うけど……。
「ううん、私は見てるから。ここで、キョースケの戦いを」
だよね、わかってた。
シエルならそう言うだろうなぁ、ってこと。
じゃあ危ないから下がってて、地面にある毒の水がなくなるくらいまで。
「うん……キョースケ、絶対に勝ってね」
「キョー!」
もちろん!
そしてシエルは気絶している二人を連れて、安全なところまで下がった。
僕は目の前の男と、その場に飛びながら対峙する。
「最期の別れは終わった? 赤い鳥」
「キョー」
「あはっ、何言ってるのかわからないけど。確か名前は、キョースケって呼ばれてたね」
お前なんかに、僕の名前を呼んでほしくないな。
この名前は、シエルがつけてくれた大事な名前だ。
それに、最期の別れになるわけないだろう。
そう思いながら睨むが、もちろん相手の男はわかっていないだろう。
「僕の名前は、ユリウス。鳥に名乗っても仕方ないのかもしれないけど、一応教えておこうかな」
こちらも興味ないけど、とりあえず覚えておくよ。
――おそらくこの世界で、初めて人を殺すことになるから。
「じゃあ、いくよ」
そう言った瞬間、ユリウスは右手を空に向けて、そこから大量の水が噴水のように上がった。
「君達が余計な会話をしている間、溜めておいた毒の水だよ。触れたら即死かもね」
紫色の毒の水が、雨のように僕に……いや、後ろにいるシエル達のところにまで降りかかってくる。
だが――。
僕が一気に身体、特に翼の炎を広げる。
そしてその翼から、特大の炎を上空の水に目がけてぶっ放した。
それによってこちら側に来る毒の水を、全て蒸発させた。
「へー、すごいね……!」
自身が放った毒の水で、とても濡れているユリウス。
ん? 身体がとても痛そうにしてるけど、あれは自分にも効いているのか?
さすがに僕も準備をしていなかったら、今のは喰らっていたかもしれない。
それか僕は喰らわなくても、後ろにいるシエル達には被害が出ていた可能性はある。
だけど僕達が話している間、ユリウスが何かをしているのは予想していた。
こちらが話している間、ただ待っている敵なんているはずもないのだから。
さて、次はこちらの番だ。
ユリウスは準備して放った攻撃が防がれたというのに、いまだにずっとニヤニヤしている。
いつまでそんな顔が出来るのか。
絶対に倒してやるぞ、ユリウス。